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本郷塾で学ぶ英文契約

英文契約でindemnify and hold harmlessとbe liable

2023/07/22
 

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英文契約基礎から実践講座

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以下の条文は、indemnity条項、またはhold harmless条項と言われている条文です

 

これは、売買契約や請負契約等において、売主の製品や仕事が原因で第三者が損害を被った場合に、売主が買主を免責し、買主に迷惑が掛からないようにするために定められる条文です。

The Seller shall indemnify and hold harmless the Purchaser from and against all damages, claims, losses, expenses, including without limitation, reasonable attorney’s fees, made against the Purchaser in respect of the death, human bodily injury or damage to any property arising out of the Seller’s performance of the obligation hereunder and due to the Seller’s negligence.

 

訳:売主は本契約に基づく売主の義務の履行から生じた生命、身体、その他の財産への侵害で、かつ、売主の過失に基づくものに関して買主に対して課せられた、合理的な弁護士費用を含むがこれに限らない全ての損害賠償額、損害賠償請求支払額、損失額、諸費用について、買主を補償し、免責する

 

このindemnity条項は、その構文が分かりにくいことから、英文契約の中でも有名な条項だと言えると思います。

 

indemnity条項についての疑問

 

企業法務として働いてしばらくしたころ、私はこのindemnity条項について、ある疑問を抱きました。

 

それは、このindemnity条項を、「be liable for」を使って書いてはいけないのだろうか?というものです。

 

具体的には、上の条文を次のように書くと何か不都合があるのでしょうか?

 

The Seller shall indemnify and hold harmless be liable to the Purchaser from and against for all damages, claims, losses, expenses, including without limitation, reasonable attorney’s fees, made against the Purchaser in respect of the death, human bodily injury or damage to any property arising out of the Seller’s performance of the obligation hereunder and due to the Seller’s negligence.

この条文の意味は、「売主は、本契約に基づく売主の義務の履行から生じた生命、身体、その他の財産への侵害で、かつ、売主の過失に基づくものに関して買主に対して課せられた、合理的な弁護士費用を含むがこれに限らない全ての損害賠償額、損害賠償請求支払額、損失額、諸費用について責任を負う」となります。

 

実質的には、「とにかく買主が被った損害等について売主が責任を負う」という意味になるので、こちらでも良いように思ったのです。

 

そして、be liable forを使って書いたほうがindemnify and hold harmless…を使って書くよりも、表現が簡単で、ずっと書きやすいように感じました。

 

実際、他社から送付されてきた契約書や、英文契約の参考書における第三者が被った損害についての条項として、indemnify条項ではなくbe liable forを使って書かれているものも見たこともありました。

 

この点、様々な英文契約に関する参考書を調べてみたのですが、「第三者の損害に関してはbe liable forで書いてはダメで、必ずindemnify and hold harmlessを用いて書かなければならない」ということを言っているものはありませんでした

 

ということは、be liable forを使って書いてもよいのだろうか・・・?

 

しかし、実態としては、第三者の損害についての条項は、indemnify and hold harmlessを使って定めるのが通常で、また、実務上そのように定められている数も、be liable forを使って書くよりも圧倒的に多いと言えると思います。

 

なぜindemnify and hold harmlessと書くのか?

 

上記にも書いたとおり、be liable forを使って定めていけないのか否かははっきりとはわからなかったのですが、どうして、indemnify and hold harmless…なんて難しい表現が使われているのかについて、自分なりに考えてみました。

 

まず、売買契約や請負契約において、対象となる製品や仕事が原因で第三者に損害が生じた場合、その第三者は誰に直接損害賠償を請求するのが普通なのか?と考えると、それは買主・注文者に対してでしょう。

 

なぜなら、第三者と売主・請負人との間には、契約関係がないので、第三者は契約責任を売主・請負人に対して問うことができないからです。

 

そのため、第三者が売主・請負人に対して直接請求しようと思ったら、不法行為責任に基づくことになります。

 

不法行為責任に基づく請求は、立証の観点から、被害者である第三者に不利です。

 

この点、日本では製造物責任法(PL法)があります。

 

このPL法によれば、損害を受けた第三者は、立証の観点で不利益を被ることなく、売主・請負人に対して損害賠償を請求することができます。

 

そしてこのPL法と同趣旨の法律は、米国にもありますし、その他の海外の国々にもあることでしょう。

 

よって、損害を被った第三者は、理論的には、直接、売主・請負人に対して損害賠償を請求できる条件が整っているはずだと言えます。

 

しかし、それでも、第三者は、自分が直接取引したわけではない売主・請負人に対して請求するよりも、買主・注文者に請求しやすいのだろうと思います。

 

売主から直接問題となっている製品を買って使用していた買主、請負人に仕事をさせていた注文者の方が、第三者からみて、請求の対象者としてわかりやすい、という実態があるのだろうと思います。

 

そうすると、買主・注文者としては、自分が第三者から損害賠償を請求された場合には、原因を作った売主・請負人に対応してもらうこと、そして、買主が一旦第三者に支払った賠償額分を支払ってもらう必要が生じます。

 

よって、条文としても、単に「売主は買主に対して責任を負う」という定めではなく、より実態に合った「売主は買主を免責し、補償する」という定めになったのではないかと思います(「責任を負う」という表現よりも「免責し、補償する」の方がより具体的な表現)。

 

確かに、「be liable for」よりも、「indemnify and hold harmless」の方が、第三者から買主が請求されている状態から売主が買主を救い出すニュアンスが出ているように思えますよね。

 

というわけで、今回のまとめです。

  • 第三者の損害についての条文として、indemnify and hold harmless…ではなく、be liable forで書いていけないのかどうかは英文契約関係の書籍を色々読んだがはっきりとはわからなかった。

 

  • 実態としては、be liable forを使って書かれている条文も見たことはあるが、indemnify and hold harmlessを使って定めているものの方が圧倒的に数は多い。

 

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