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ライセンス契約に関する独占禁止法のガイドラインを読む際の注意点

 
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英文契約・契約英語の社内研修をオンラインで提供しています。本郷塾の代表本郷貴裕です。 これまで、英文契約に関する参考書を6冊出版しております。 専門は海外建設契約・EPC契約です。 英文契約の社内研修をご希望の方は、お問合せからご連絡ください。
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公正取引委員会は、独禁法に関する様々なガイドラインを発行しています。

その中でも、『知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針』(以下、「ライセンス契約のガイドライン」)は、ライセンス契約を検討する際に参照されることが多いガイドラインです。

 

しかし、このライセンス契約のガイドラインは、注意して読まないと、本来は違法ではないのに、「違法となる可能性が高いので、その条文は削除・修正するべき」という結論を下してしまうことになりやすいところがあります。

 

この記事では、ライセンス契約のガイドラインを参照する際の注意点をわかりやすく解説します。

 

具体例:原材料・部品の購入先制限についてのガイドラインの記載

ライセンサーがライセンシーに技術のライセンスを行う場合に、ライセンサーは、ライセンシーがその技術を利用して製品を製造する際に必要となる原材料・部品をライセンサー自身またはライセンサーが指定する第三者から購入するように指定する条文を契約中に定めることがあります(下の図を参照。ライセンサーA社がライセンシーB社に、自社であるA社以外のC社等から部品を購入しないようにさせる行為)。

このような原材料・部品の購入先制限の条文について、ライセンス契約のガイドラインは、次のように述べています。少し長いですが、読んでみてください。

 

「ライセンサーがライセンシーに対し、原材料・部品その他ライセンス技術を用いて製品を供給する際に必要なもの(役務や他の技術を含む。以下「原材料・部品」という。)の品質又は購入先を制限する行為は、当該技術の機能・効用の保証、安全性の確保、秘密漏洩の防止の観点から必要であるなど一定の合理性が認められる場合がある。

しかし、ライセンス技術を用いた製品の供給は、ライセンシー自身の事業活動であるので、原材料・部品に係る制限はライセンシーの競争手段(原材料・部品の品質・購入先の選択の自由)を制約し、また、代替的な原材料・部品を供給する事業者の取引の機会を排除する効果を持つ。したがって、上記の観点から必要な限度を超えてこのような制限を課す行為は、公正競争阻害性を有する場合には、不公正な取引方法に該当する(一般指定第10項、第11項、第12項)。」

 

問題

では、ここで問題です。

ライセンサーがライセンシーにある技術をライセンスする際に、原材料・部品の購入先を制限する条文をライセンス契約に定めてきたところ、その理由が、「当該技術の機能・効用の保証、安全性の確保、秘密漏洩の防止の観点から必要でない場合」には、そのような条文は独禁法に違反するでしょうか?

 

答え

この点、もしかすると、「違法となる可能性が高い」と考えた方もいるかもしれません。

 

しかし、それは誤りです。

 

上に引用したライセンス契約のガイドラインの記述によると、「当該技術の機能・効用の保証、安全性の確保、秘密漏洩の防止の観点から必要」である場合には、原材料・部品を制限することに合理性が認められる場合がある=独禁法に違反しないということですが、逆に、「当該技術の機能・効用の保証、安全性の確保、秘密漏洩の防止の観点から必要でない場合」には、直ちに独禁法に違反するとまでは述べていません

 

では、ライセンス契約のガイドラインはどのような場合に違法となると述べているのかというと、

公正競争阻害性を有する場合には、不公正な取引方法に該当する(=違法となる)」

と述べています。

 

つまり、あくまで、公正競争阻害性を有する場合にのみ、違法となるのです。

 

そのため、公正競争阻害性を有するのかについて、詳しく検討する必要があります。

 

検討した結果、ライセンサーが単に、自社で製造する部品をライセンシーから購入してもらえたら、その分儲かるから、という理由で原材料・部品の購入先を制限していたとしても、公正競争阻害性がないために独禁法に違反しないという結論になることもあり得るのです。

 

ここで、独禁法について詳しく学んだことがない方は「公正競争阻害性とは何か?」という点から勉強をする必要があります。

一応、ライセンス契約のガイドラインにも、「公正競争阻害性とは何か?」についての記述がありますが、それは、独禁法についてそれなりに学んだことがある人でないと正しく理解することが難しい記述となっています(ボリュームも結構あります)。

 

おそらく、独禁法の初心者がその部分を読もうとすると、途中で読むのが嫌になるようなレベルの物であると私は思います(興味のある方は、『知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針』第4の1(2)をご参照ください。)。

 

ライセンス契約のガイドラインを使う際の注意点

このことから、ライセンス契約のガイドラインについて、次のことがいえます。

 

「独禁法についてそれなりにしっかりと勉強したことのある人でないと、ライセンス契約のガイドラインを正しく使うことはできない。」

 

なんとなく、ガイドラインときくと、さほど独禁法に関する知識のない人でも、該当ページをさらっと読んで自分が遭遇している事例と照らし合わせて読めば正しく判断できる便利な道具であると感じるかもしれません。

通常、ガイドラインとは、そのようなお手軽なものであることが多いからです。

 

しかし、このライセンス契約のガイドラインは、そのような性格のものではありません。

独禁法についてそれなりに勉強をし、たとえば、市場とは何か?不公正な取引方法とは何か?公正競争阻害性とは何か?正当化事由とはどのようなものか?といった点を理解できている人でないと、とても使いこなせない代物なのです。

 

ちなみに、今回ご紹介したライセンス契約のガイドラインの他に、実務でよく参照する機会があるものとしては、次の2つがあります。

・流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針→主に販売代理店契約に関するもの

・共同研究開発に関する独占禁止法上の指針→共同研究契約に関するもの

 

これらも、ライセンス契約のガイドラインほどではありませんが、やはり、独禁法に関する知識があまりない方が、目の前にある契約書を検討する際に気軽に参照して正しい結論を簡単に導き出せるというお手軽な内容ではありません。なので、独禁法の各種ガイドラインは、基本から独禁法についてそれなりに勉強した上で参照することをお勧めいたします。

 

独禁法とは?独禁法の三大行為類型の区別は?

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