英文契約の基本的な表現~conditions precedent~
2020/09/03

Conditions Precedentとは?
この表現は、M&A契約で登場することがよくあります。
conditionsは「条件」という名詞、そしprecedentは「先行する」という形容詞です。
よって、conditions precedentで、「前提条件」という意味になります。
どのような場面で使われるか?
M&Aでは、M&Aの対象となる会社についてのdue diligence(略してDD=デューディリジェンス)が終了後、売主と買主間で株式譲渡契約が締結されます。その時点ですぐに対象となる会社の株式が売主から買主に譲渡されるのではなく、数ヶ月程度の準備期間が設けられることが多いです。
この間に、例えば、株式譲渡に必要となる許認可や第三者の承認の取得などが行われます。
そして、それらが完了したときに初めて、株式譲渡がなされます。これがクロージング(closing)です。そして、その時点で、最終的な買収価格の調整(adjustment)(正味運転資本(net working capital)や純有利子負債(net debt)の比較)が行われます。
ここで、上記のクロージングに至るための前提条件として、買主と売主のそれぞれの為すべき行為を列挙します。これら列挙された条件が、conditions precedentと呼ばれるものです。
conditions precedentの例
M&Aにおいてconditions precedentと定められる事項の例としては、以下のようなものがあります。
- 許認可関係(独占禁止法など)
- 対象会社の株主総会決議
- 売主の株主総会決議
- 第三者の承認(対象となる会社の債権者など)
- 対象となる会社に重大な悪影響(material adverse effect)が生じていないこと
- クロージングのために必要となる書類の整備
ちなみに、以下のような形で契約中で使われます。
The Closing of this Agreement shall be subject to the satisfaction of all of the following conditions precedent;
(i) …;
(ii)…; and
(iii)….
(本契約のクロージングは、以下の前提条件を全て満たすことに従う。(i)… 、(ii)…、および(iii)…。)→つまり、全部満たしたときにクロージングとなる、という意味です。
conditions precedentが満たされないとどうなるか?
では、conditions precedentが満たされない場合、クロージングはどうなるのでしょうか?
答えは、「満たされるまで、クロージングに至らない」です。
conditions precedentは、クロージングの「前提条件」なので、条件が満たされない以上、クロージングが生じないというのは当然です。
conditions precedentと義務の違い
この点、conditions precedentとして列挙する事項について、契約当事者の義務とするのとは何が違うのか?と感じる人もいると思います。
この差は、義務違反の場合には、契約違反として損害賠償や契約解除という効果が生じるのに対し、conditions precedentが満たされない場合は、そのような効果は生じず、単にクロージングに至らない、というものです。
すると、「損害賠償を貰えた方が当事者としてはよいのではないか?」と感じるかもしれません。しかし、次のような場面を想定してみましょう。
「株式譲渡契約締結後、対象となる会社の価値に重大な悪影響が生じる行為をしないこと」という義務が売主に課せられていたとします。そして売主がこの義務に違反した場合、買主は、果たして、「損害を賠償してもらった上でクロージングを迎えたい」と考えるでしょうか?それとも、「重大な悪影響が生じたのなら、もはやクロージングを迎えず、M&Aそのものを止めにしたい」と思うでしょうか。
程度にもよりますが、もしも、生じた悪影響が甚大である場合には、売主の金銭的な損害賠償では買主が満足する結果とならないこともあり得ます。
また、売主の損害賠償責任には上限(limitation of liability)が付いているのが一般的ですので、そもそも、買主が被る全ての損害を賠償してもらえるとは限らないのです。
よって、損害賠償を得るよりも、むしろ、M&A事態を止めたい、と買主が考えることもあるのです。
したがって、ある事項をconditions precedentと定めることには、義務と定めるのとは違った意味があるのです。conditions precedentと定めておけば、それが満たされない場合には、クロージングに至らないからです。買主は対価を支払う必要がないのです。
もっとも、ある事項をconditions precedentと定めつつ、一方で、それを売主がクロージング予定日までに満たさなければならない義務と定める場合には、conditions precedentが満たされない=義務違反なので、クロージングにも至らないし、かつ、売主に損害賠償責任が生じる、ということになります。このような定め方はよく行われます。
conditions precedentに関する利益は放棄できる
なお、conditions precedentとして定めた条件が満たされない場合、例えば上記の例のように、「売主が対象となる会社に重大な悪影響を生じさせないこと」というconditions precedentが満たされない場合でも、その条件が満たされないことで不利益を受ける買主が「それでもかまわない。取引をクロージングさせたい」と望むのであれば、それを止める理由はありません。
よって、このような場合=「条件がみたされないことで不利益を被る当事者がよいという場合」には、conditions precedentが満たされていないものの、そのまま取引を進めることができ、そして、単にconditions precedentを満たせなかった当事者に損害賠償を請求する、という扱いとなるように定めることもよく行われます。これを、「conditions precedentから得られる利益を放棄する」といいます。
M&A契約(株式譲渡契約)の全体像とよく使われる重要英単語
M&Aの全体像 | conditions precedent | adjustment |
representations and warranties | material adverse effect | to the knowledge of ~ |
GAAP | covenants |