英文契約書において「~の範囲で」「~である限り」という場合に使われる表現

      2022/06/15

 

 

今回は、「~の範囲で」「~である限り」という表現についてご紹介したいと思います。

 

この「~の範囲で」「~である限り」という表現も、英文契約書の中ではよく出てきます。

 

具体的にどのような場合にこの表現が使われるのかといいますと、義務や権利の範囲を限定する、または設定するときです。

 

契約書を自分で作る、または、相手方から送付されてきた契約書を読むとき、次のようなことを考えることが多いと思います。

 

「できるだけ、自分の会社に有利になるようにしたい。不利な状況を改善したい。」

 

ここで、契約書を自社に有利になるようにする、または、不利な状況を改善する方法としては、次のようなものが考えられます。

 

自社の義務の範囲を狭める。

 

相手の権利の内容を狭める。

 

自社の権利を、無条件では認めてもらえないかもしれないが、ある一定の範囲に限定して定める。

 

相手に、ある一定の範囲で義務を課す。

 

このような、「範囲を狭める」、または、「一定の範囲を設ける」際に、「~の範囲で」、または「~である限り」といった表現が使われることになります。

 

以下に具体例を挙げます。

 

The Seller is entitled to use the Confidential Information disclosed by the Purchaser.

訳:売主は、買主から開示された秘密情報を使うことができる。

 

この条文のままだと、売主は、買主から開示された秘密情報を無制限に使ってよいことになってしまいます。これは、買主からしてみると、本意ではないと思います。

 

そこで、to the extentという表現を使って、売主が秘密情報を使うことができる範囲を狭めてみます。

 

The Seller is entitled to use the Confidential Information disclosed by the Purchaser to the extent necessary for the Seller to perform its obligation hereunder.

訳:売主は、買主から開示された秘密情報を本契約の自己の義務を履行するために必要な範囲で、使うことができる。

 

このように、to the extent~を加えることで、売主が買主の秘密情報を使うことができる範囲を、あくまで、「本契約の売主の義務を果たすために必要な範囲」に限定することができます。

 

二つ目の例文を以下に挙げます。

 

The Receiving Party is entitled to disclose the Confidential Information disclosed by the Disclosing Party to its subsidiary company.

訳:受領当事者は、秘密情報を、その子会社に対して開示することができる。

 

この条文のままだと、受領当事者は、開示当事者から開示された秘密情報を、無制限に、その子会社に開示できることになってしまいます。これはおそらく、開示当事者の本意ではないでしょう。

 

そこで、to the extentを使って、以下のような文を加えてみます。

 

The Receiving Party is entitled to disclose the Confidential Information to its subsidiary company to the extent necessary for the Receiving Party to implement the purpose set forth in the Article X hereof.

訳:受領当事者は、開示当事者から開示された秘密情報を、受領当事者が本契約の第X条に定められた目的を遂行するために必要な範囲で、子会社に対して開示することができる。

 

このように、どんな子会社に対しても開示してよいのではなく、本契約の第X条に定められた目的を果たすため必要な範囲の子会社というように、開示の範囲を限定しました。

 

このように、to the extent~という表現を使うことで、範囲を設定したり、狭めたりすることができます。

 

目次
第1回 義務 第10回 ~に関する 第19回 知らせる
第2回 権利 第11回 ~の場合 第20回 責任
第3回 禁止 第12回 ~の範囲で、~である限り 第21回 違反する
第4回 ~に定められている、~に記載されている 第13回 契約を締結する  

第22回 償還する

第5回 ~に定められている、~に記載されている (補足) 第14回 契約締結日と契約発効日 第23回 予定された損害賠償額(リキダメ、LD)
第6回 ~に従って 第15回 事前の文書による合意 第24回 故意・重過失
第7回 ~に関わらず 第16回 ~を含むが、これに限らない 第25回 救済
第8回 ~でない限り、~を除いて 第17回 費用の負担 第26回 差止
第9回 provide 第18回 努力する義務 第27回 otherwise

 

 

第28回 契約の終了

第38回 権利を侵害する 第48回 遅延利息
 

第29回 何かを相手に渡す、与える

第39回 保証する 第49回 重大な違反
 

第30回 due

第40回 品質を保証する 第50回 ex-が付く表現
第31回 瑕疵が発見された場合の対応 第41回 補償・品質保証 第51回 添付資料
第32回 ~を被る 第42回 排他的な 第52回 連帯責任
第33回 ~を履行する 第43回 第53回 ~を代理して
第34回 果たす、満たす、達成する 第44回 第54回 下記の・上記の
第35回 累積責任 第45回 瑕疵がない、仕様書に合致している 第55回 強制執行力
第36回 逸失利益免責条項で使われる様々な損害を表す表現 第46回 証明責任 第56回 in no event
第37回 補償・免責 第47回 indemnifyとliableの違い 第57回 for the avoidance of
 
第58回 無効な 第68回 representations and warranties
第59回 whereについて 第69回 material adverse effect
第60回 in which event, in which case 第70回 to the knowledge of
第61回 株主総会関係 第71回 GAAP
第62回 取締役・取締役会関係 第72回 covenants
第63回 indemnifyとdefendの違い
第64回 Notwithstandingと責任制限条項
第65回 M&Aの全体の流れ
第66回 conditions precedent
第67回 adjustment

 

英文契約の基本的な表現

Shall

 

~に定められている

 

「~に定められている」の補足

 

Notwithstanding

 

~を除いて、~でない限り

 

~に従って

 

~に関する

 

~の場合

 

Whereについて

 

~の範囲で

 

例示列挙の方法

 

事前の文書による同意と承認

 

契約締結日と発効日

 

LDとpenaltyの違い

 

Gross negligenceと結果の重大性

 

間接損害(indirect damage)と逸失利益(loss of profit)の違い

 

知らせる

 

Liquidated damages

 

Otherwise

 

~を被る

 

~を履行する

 

累積責任

 

~を補償する、免責する

 

Indemnifyとbe liableの違い

 

~を保証する(guarantee)

 

遅延利息

 

Warranty

 

排他的な

 

to one’s knowledge/to the knowledge of

 

Material adverse effect

 

Covenants

 

Representations and warranties

 

Notwithstandingと責任制限条項

 

Indemnifyとdefend

 

取締役・取締役会関係の単語

 

株主総会関係の単語

 

添付資料

 

連帯責任

 

下記の、上記の

 

一般条項(Notice)

 

一般条項(Term)

EPC契約のポイント(『英文EPC契約の実務』で解説している事項の一部です)

 

スコープオブワーク

 

EPC契約の契約金額の定め方と追加費用の扱い

 

コストプラスフィーの注意点

 

ボンドについて

 

前払金返還保証ボンド

 

履行保証ボンド

 

契約不適合責任ボンド

 

リテンションボンド

 

仕様変更

 

プラントの検収条件と効果

 

納期遅延①

納期遅延②

納期遅延③

納期遅延④

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性能未達LD

 

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責任制限①

責任制限②

 

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コンソーシアム契約

 

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