英文契約の遅延利息の定め方

      2023/07/22

売買契約や請負契約では、売主・請負人(以下、「売主」)が納期に遅れたり、製品に欠陥があったりした場合には、売主が損害賠償を支払うことが定められていることが多いですよね。

 

では、逆に、買主・注文者(以下、「買主」)が売主に対して損害賠償を支払うことはあるのでしょうか?

 

この点、あまり意識されないことが多いのですが、買主にも契約上の義務があります。

 

なので、買主がその義務に違反した場合には、それによって売主が被った損害を賠償する責任が生じます。

 

では、売買・請負契約における「買主の義務」とは一体何でしょうか?

 

それは、当然、「対価を支払う義務」ですよね。

 

よって、買主が対価を支払う義務を怠った場合には、買主は売主に対して損害賠償を支払う責任が生じるのです。

 

では、買主が支払う責任を負う損害賠償とは、具体的には何でしょう?

 

それは、「遅延利息」と呼ばれるものです。

 

買主が契約書に定められた支払い時期に対価を売主に支払ったなら、売主はその対価を銀行に預けておけば、利息が得られたはずです。

 

しかし、買主が支払いに遅れると、売主はその利息を得ることができなくなってしまうのです。

 

そのため、買主は、支払いに遅れた場合には、その遅れの間の利息分を遅延利息として売主に支払わなければならないことになります。

 

売主にとってこの遅延利息請求は、買主の支払い遅延を抑止するための大事な武器ですので、契約書には忘れずに記載するようにしましょう。

 

遅延利息を表す表現

 

では、この遅延利息は、英語ではどのように表現するのでしょうか?

 

それは、interestです。

 

そして、利息を算出するためには、「利率」を決める必要があります。

 

その利率は、rateと書きます。

 

通常、この利率は「年率」で表します。

 

「年率X%」は、at the rate of X% per yearと書きます。

 

この点、at the rate of X% per annumとも書きます。

 

このannumは英語ではありません。ラテン語です。

 

英文契約では、時々ラテン語が出てくることがあります。そしてこのper annumは遅延利息の条文でよく使われるので覚えておきましょう。

 

そして、遅延利息の利率は年率で表すものの、このことは、年単位で支払いが遅延しないと買主には売主に遅延利息を支払う義務が生じない、というわけではなく、1日でも支払い期日に遅れたら遅延利息が生じるのが原則です。

 

そこで、年率を使って日毎に遅延利息を算出することになります。

 

その点を正確に表現すると、次のようになります。

 

interest computed daily at the rate of X % per annum

訳:年率X%で日々計算される利息

 

利息制限法に注意

 

遅延利息の利率は、当事者間で決めることができます。

 

当事者間で利率を決める際の注意点は、「「利息制限法」で定められる上限を超える利率は無効となる」ということです。

 

利息制限法とは、利率の設定に上限を付ける法律です。この法律は日本にもありますし、海外の多くの国にもあると思います。

 

よって、その契約の準拠法として定められた国の法律で利息の上限が定められていれば、当事者間でそれを超える利率を合意したとしても、それは無効となります。

 

無効になった場合、いくらの利率とされることになるのかというと、おそらくそれは、準拠法として定めた国の法律の「法定利息」となると思われます。

 

この点、法定利息は割と低めになっているかもしれません。

 

よって、売主としては、当事者間で合意した利率が無効とされ、低めの利率である法定利息とされないように遅延利息を設定するか、または、以下の例文のように、「契約で合意した利率か、または法律が認める最大利率のどちらか低い方で算出する」としておけば、法律で許容される利率の最大値を遅延利息とすることができます。

 

If the Purchase fails to make any payment of the Contract Price under this Agreement by the due date, the Purchaser shall pay to the Seller interest on the delay payment from the due date until paid in full computed daily (i) at the rate of X % per annum or (ii) the maximum rate of interest permitted by applicable law, which is lower.

 

上記の下線部分のpayは「負担する」という意味のbearでもよいです。

 

目次
第1回 義務 第10回 ~に関する 第19回 知らせる
第2回 権利 第11回 ~の場合 第20回 責任
第3回 禁止 第12回 ~の範囲で、~である限り 第21回 違反する
第4回 ~に定められている、~に記載されている 第13回 契約を締結する  

第22回 償還する

第5回 ~に定められている、~に記載されている (補足) 第14回 契約締結日と契約発効日 第23回 予定された損害賠償額(リキダメ、LD)
第6回 ~に従って 第15回 事前の文書による合意 第24回 故意・重過失
第7回 ~に関わらず 第16回 ~を含むが、これに限らない 第25回 救済
第8回 ~でない限り、~を除いて 第17回 費用の負担 第26回 差止
第9回 provide 第18回 努力する義務 第27回 otherwise

 

 

第28回 契約の終了

第38回 権利を侵害する 第48回 遅延利息
 

第29回 何かを相手に渡す、与える

第39回 保証する 第49回 重大な違反
 

第30回 due

第40回 品質を保証する 第50回 ex-が付く表現
第31回 瑕疵が発見された場合の対応 第41回 補償・品質保証 第51回 添付資料
第32回 ~を被る 第42回 排他的な 第52回 連帯責任
第33回 ~を履行する 第43回 第53回 ~を代理して
第34回 果たす、満たす、達成する 第44回 第54回 下記の・上記の
第35回 累積責任 第45回 瑕疵がない、仕様書に合致している 第55回 強制執行力
第36回 逸失利益免責条項で使われる様々な損害を表す表現 第46回 証明責任 第56回 in no event
第37回 補償・免責 第47回 indemnifyとliableの違い 第57回 for the avoidance of
 
第58回 無効な 第68回 representations and warranties
第59回 whereについて 第69回 material adverse effect
第60回 in which event, in which case 第70回 to the knowledge of
第61回 株主総会関係 第71回 GAAP
第62回 取締役・取締役会関係 第72回 covenants
第63回 indemnifyとdefendの違い
第64回 Notwithstandingと責任制限条項
第65回 M&Aの全体の流れ
第66回 conditions precedent
第67回 adjustment

【私が勉強した参考書】

基本的な表現を身につけるにはもってこいです。

ライティングの際にどの表現を使えばよいか迷ったらこれを見れば解決すると思います。

アメリカ法を留学せずにしっかりと身につけたい人向けです。契約書とどのように関係するかも記載されていて、この1冊をマスターすればかなり実力がupします。 英文契約書のドラフト技術についてこの本ほど詳しく書かれた日本語の本は他にありません。 アメリカ法における損害賠償やリスクの負担などの契約の重要事項についての解説がとてもわかりやすいです。

 

 - 英文契約の基本的な表現の習得