英文契約書で「~に定められている」「~に記載されている」とは?
2022/06/15

今回は、「~に定められている」「~に記載されている」(以下、「~に定められている系」といいます)という表現についてご紹介したいと思います。
この表現は契約書中で本当によく使われます。
どの程度使われているかと言いますと、例えば、ENAAという全部で73ページある契約フォーム中では、合計で135回この表現が出てきます。これは、mayが出てくる回数である127回を上回ります。契約書が、当事者間の権利義務を明確に定める文書だということから、義務を表すshallや権利を表すmayが使われる回数が多いことはみなさん容易に想像がつくかと思いますが、そのmayを上回るということは、如何にこの「~に定められている系」の表現が契約書中によく出てくるかを表している、と言えるのではないでしょうか。
(ちなみに、shallが使われている回数は486回です。このことからも、契約書は、当事者の義務の記述で埋め尽くされている文書であることもご理解いただけるかと思います。)
頻出する理由
でも、どうして契約書中では、この「~に定められている系」の表現がこんなにも多く使われるのでしょうか。
上記のように、契約書は、「当事者間の権利義務、特に義務を数多く定める文書」です。つまり、当事者がしなければならないことがたくさん書き連ねられていると言えます。そしてその当事者の義務は、具体的には以下のような表現で記載されます。
「○○は、本契約書の第3条に定められている支払条件に従って、契約金額を▲までに支払わなければならない。」
「○○は、本契約に添付される仕様書に記載されているスケジュールに従って作業を履行しなければならない。」
「本契約に定められているいかなる条文にも関わらず、○○が本契約に関して負う責任は、契約金額の100%を上限とする。」
といった感じで、契約書では、「当事者は、ある事柄が詳細に記載されている条文または仕様書等に従ってある行為をしなければならない」という書き方をすることが多いのです。
これが、契約書で「~に定められている系」の表現が多く使用される理由です。
また、例えば、契約金額を支払わない顧客がいたとします。その場合、当社はいきなりその顧客を訴えるのではなく、何度か支払を催促するレターを顧客に出すことになります。
その際には、単に「契約金額を支払ってください」ということをレターに書くのではなく、「契約書の○条に定められている支払条件に従って支払いがなされていないので、直ちに支払ってください」と書くでしょう。やはりここでも、「~に定められている」という文言が使われるのです。
使用頻度と使用例の紹介
では、この「~に定められている系」には、具体的にいかなる表現があるのでしょうか。以下にその主な表現、その使用例およびその訳の一覧をご紹介します。
表現 | 使用例とその訳 |
…specified in~ | the test(s) specified in Appendix 7
添付資料7に定められている試験 |
…provided in~ | approval of design provided in Article 20
第20条に定められている図面の承認 |
…stated in~ | all the conditions stated in Article 11
第11条に定められている全ての条件 |
…described in~ | any test not described in this contract
この契約に定められていない試験 |
…listed in~ | the documents listed in Article 1.1
第1.1条にリスト化されている図書類 |
…stipulated in~ | interest stipulated in Article 12.3
第12.3条に定められている利息 |
…set forth in~ | the period set forth in this contract
この契約書に定められている期間 |
…prescribed in~ | the conditions prescribed in Article 6
第6条に定められている条件 |
…defined in~ | payment schedule defined in Appendix 5
添付資料5に定められている支払スケジュール |
表現は色々あるものの、どれも、「~に定められている系」だと覚えておいていただければ、英文契約を読む際に役に立つと思います。
ちなみに私は、できるだけspecified inかset forth inを使うと決めています。「自分はこれを使う!」と決めておくと、いざ自分でドラフトするときに、迷わずに済みます。
目次 | ||
第1回 義務 | 第10回 ~に関する | 第19回 知らせる |
第2回 権利 | 第11回 ~の場合 | 第20回 責任 |
第3回 禁止 | 第12回 ~の範囲で、~である限り | 第21回 違反する |
第4回 ~に定められている、~に記載されている | 第13回 契約を締結する |
第22回 償還する |
第5回 ~に定められている、~に記載されている (補足) | 第14回 契約締結日と契約発効日 | 第23回 予定された損害賠償額(リキダメ、LD) |
第6回 ~に従って | 第15回 事前の文書による合意 | 第24回 故意・重過失 |
第7回 ~に関わらず | 第16回 ~を含むが、これに限らない | 第25回 救済 |
第8回 ~でない限り、~を除いて | 第17回 費用の負担 | 第26回 差止 |
第9回 provide | 第18回 努力する義務 | 第27回 otherwise |
第28回 契約の終了 |
第38回 権利を侵害する | 第48回 遅延利息 |
第29回 何かを相手に渡す、与える |
第39回 保証する | 第49回 重大な違反 |
第30回 due |
第40回 品質を保証する | 第50回 ex-が付く表現 |
第31回 瑕疵が発見された場合の対応 | 第41回 補償・品質保証 | 第51回 添付資料 |
第32回 ~を被る | 第42回 排他的な | 第52回 連帯責任 |
第33回 ~を履行する | 第43回 | 第53回 ~を代理して |
第34回 果たす、満たす、達成する | 第44回 | 第54回 下記の・上記の |
第35回 累積責任 | 第45回 瑕疵がない、仕様書に合致している | 第55回 強制執行力 |
第36回 逸失利益免責条項で使われる様々な損害を表す表現 | 第46回 証明責任 | 第56回 in no event |
第37回 補償・免責 | 第47回 indemnifyとliableの違い | 第57回 for the avoidance of |
第58回 無効な | 第68回 representations and warranties | |
第59回 whereについて | 第69回 material adverse effect | |
第60回 in which event, in which case | 第70回 to the knowledge of | |
第61回 株主総会関係 | 第71回 GAAP | |
第62回 取締役・取締役会関係 | 第72回 covenants | |
第63回 indemnifyとdefendの違い | ||
第64回 Notwithstandingと責任制限条項 | ||
第65回 M&Aの全体の流れ | ||
第66回 conditions precedent | ||
第67回 adjustment |
英文契約の基本的な表現
間接損害(indirect damage)と逸失利益(loss of profit)の違い
to one’s knowledge/to the knowledge of
Representations and warranties
EPC契約のポイント(『英文EPC契約の実務』で解説している事項の一部です)
Delay Analysis関係
必要な立証の程度(balance of probabilities)
仕事関係
これから法律・契約について勉強し始める社会人が陥りやすい勘違い
どうして議論がまとまらないのか?