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契約不適合責任に基づく修理・交換にかかる費用は、責任上限の対象となるのか

 

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limitation of liability(略してLOL、日本語では責任上限)は、特に売主にとって重要な条文です。

しかし、この責任上限は、万能ではありません。

ここでは、特に、契約不適合責任(warranty/defect liability)との関係を詳しく解説いたします!

 

Limitation of Liabilityとは?

海外の企業との契約書には、業界にもよるかとは思いますが、limitation of liabilityが定められることが多いです。

limitation of liabilityは、責任上限と訳されます。

契約当事者が契約に違反した場合の責任をある一定の金額に制限するものです。

責任が青天井になるのを防ぐものです。

責任上限の金額は、当事者間で自由に合意できますが、契約金額の100%と合意されることが多いように思います。

海外の企業と契約を取り交わす売主としては、この責任制限条項が定められているのは最後の砦となります。

 

責任上限の例外

もっとも、この責任上限は、ありとあらゆる契約違反の責任を制限するものではありません。

まず、故意・重過失で違反した場合には、適用されないのが通常です。

また、第三者に損害を生じさせた場合の損害賠償責任には適用されない旨が契約に定められることが多いです。

この2つは「責任上限の例外」として、割とよく知られています。

では、契約不適合責任(warranty/defect liability)に基づき、売主が製品を修理・交換するのにかかる費用は、責任上限の適用を受けるのでしょうか?

 

この点、「そんなの当然に適用されるに決まっている」と思う人も多いかもしれません。

私も、おそらく、適用されると考えています。

 

しかし、適用されるのが当然である、絶対である、とまでは言い切れません。

なぜなら、契約不適合責任に基づく修理・交換は、「損害賠償責任」ではないからです。

責任上限の対象となるのは何?

責任上限は、「損害賠償責任」に適用されるものです。

たとえば、売主が製品を買主に検収してもらうために試験を行った結果、仕様書を満たさない箇所があったために不合格となったとします。

この場合、売主は、その不合格部分を修理・交換し、再度試験を行う必要があります。

この不合格部分を修理・交換するのにかかる費用は、当然に売主の負担となります。

そして、この修理・交換の費用には、責任上限は適用されません

この費用は、売主が買主に支払う損害賠償責任ではないからです。

 

検収前の試験に不合格の場合に、その不合格を修理・交換するのにかかる費用に責任上限が適用されないのなら、検収後に不適合が発見され、売主が契約不適合責任に基づき修理・交換するのにかかる費用も、やはり責任上限が適用されないと考えるのが自然ではないでしょうか。

 

このような考えに対しては、次のような反論が考えられます。

「契約不適合責任は、契約違反によって生じる責任である。つまり、損害賠償責任と実質的に同種のものと言える。だから、責任上限は適用される。」

 

私もそう思います。

しかし、やはり、「損害賠償責任と同じではない」ことと、「検収前の試験の不合格の場合の修理・交換にかかる費用には責任上限は適用されない」という点を考えると、「契約不適合責任に基づく修理・交換にかかる費用には、責任上限は適用されない」という考えも、そうおかしなものではないし、あり得ると思います。

というよりも、むしろ、自然な考え方のようにも感じます。

契約書に明記される場合もある

そのためか、契約書には、時々、この契約不適合責任に基づく修理・交換にかかる費用と責任上限についての関係について、以下のように明記されることがあります。

 

  • 責任上限が適用されないことを明記する条文の例

Clause X (責任上限の条文) hereof shall not limit the following liability of the Supplier required by Clause Y (契約不適合責任の条文) hereof;

(i) the repair or replacement of a Defect; and

(ii) the compensation of damage caused by such Defect.

訳:本契約の第X条 (責任上限の条文)は、本契約の第Y条(契約不適合責任の条文)によって求められる売主の以下の責任を制限するものではない。

(i)不適合の修理または交換

(ii)不適合によって生じる損害の賠償

 

  • 責任上限が適用されることを明記する条文の例①

Notwithstanding anything provided herein, the aggregate liability of the Supplier to the Purchaser in relation to this Contract, including liability under Article X (契約不適合責任の条文), whether in contract, tort or otherwise, shall not exceed an amount equal to 100% of the Contract Price.

訳:本契約の他のいかなる定めにもかかわらず、本契約に関し、売主の買主に対する累積責任は、契約上、不法行為上またはその他の場合においても、契約金額の100%を超えない。

 

  • 責任上限が適用されることを明記する条文の例②

The Maximum Liability Amount (責任上限の金額を定義したもの) shall include the following liability of the Supplier required by Clause Y (契約不適合責任の条文) hereof;

(i) the repair or replacement of a Defect; and

(ii) the compensation of damage caused by such Defect.

訳:責任上限金額は、本契約の第Y条 (契約不適合責任の条文)によって求められる売主の以下の責任を含む。

(i)不適合の修理または交換

(ii)不適合によって生じる損害の賠償

 

逸失利益の免責を記載できていれば、責任上限が問題になるケースは少ない

プラント建設案件やプラント用機器供給契約の場合でいうと、契約不適合責任に基づく修理・交換が実際になされるのは、通常、全体の一部分のみであることが多いと思われます。

検収後にプラント全体や機器を丸ごと作り直さないといけないなどということは、通常ないはずです。

すると、修理・交換に係る費用だけで、契約金額の100%を超えることはまずないでしょう。

そして、間接損害や逸失利益の賠償が免責されるなら、あとは納期遅延LDや性能未達LDなどを加えても、売主の損害賠償責任が100%まではいかないのが通常です。

よって、そもそも、売主の賠償責任の金額が責任上限まで達する場面は実はあまり多くないかもしれません。

もちろん、責任上限の値がいつも契約金額の100%とは限らず、案件によっては20%とか40%などもあり得るので、そのような場合には、問題となりえますが、それでも、問題となる数は少ないと思われます。

実際、私自信は、「契約不適合責任に基づく修理・交換費用を加えると、責任上限を超えてしまう」といったケースに遭遇したことはありません。

結論

というわけで、色々と書きましたが、結論としては、「契約不適合責任に基づく修理・交換にかかる費用に対して責任上限が適用されるかどうかは、はっきりとはわからない(国によって異なるかもしれない)」ので、準拠法の国の弁護士・専門家に根拠と共に確認し、場合によっては契約に明記しておいた方がよいかもしれません。

特に、規模が大きな案件ではそのようにした方がよいでしょう。

 

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