実務で必要なスキルを24時間どこにいても学べる!

本郷塾で学ぶ英文契約

英文契約における「差止」とは?→(injunction)

2024/01/13
 

▶4/30(火)まで、今年の春から企業法務部で働くことになった方や企業法務部の若手の方々に向けて、本郷塾にて単体でご提供している英文契約の講座から、秘密保持契約や売買契約など、企業法務部ならどなたでもかかわることになると思われる9つの講座(講義時間は合計約37時間)をお得なセット割でご提供いたします。詳しくは、こちらをご覧ください。

英文契約基礎から実践講座

この記事を書いている人 - WRITER -
英文契約・契約英語の社内研修をオンラインで提供しています。本郷塾の代表本郷貴裕です。 これまで、英文契約に関する参考書を6冊出版しております。 専門は海外建設契約・EPC契約です。 英文契約の社内研修をご希望の方は、お問合せからご連絡ください。
詳しいプロフィールはこちら

 

第26回です!

 

今回は、「差止」という表現についてご紹介したいと思います。

 

差止は、第25回の「救済」の中で少しだけ(ほんの少しだけですが・・・)お話ししました。

 

つまり、義務違反の場合に相手方に与えられる損害賠償請求権とか解除権等と同じく「救済」の一つです。

 

しかし、この「差止」は、他の救済とは大分異なる性格を持っています。

 

何が異なるかと言いますと、この差止が認められる場合は、他の救済の場合と比較して、かなり限定されているということです。

 

実は、救済は、「金銭賠償」で行うべき、という原則があります。

 

契約に違反したことによって、違反された契約当事者は損害を被りますが、それは「金銭で補填されれば十分だよね」ということです。

 

売買契約や請負契約において、瑕疵担保期間中に製品に欠陥が発見された場合には、買主は売主に対してその欠陥を修理するように求めることができるという救済がありますが、この買主による修理は無償で行われるので、実質的には、金銭での賠償と同じです。つまり、欠陥の修理も、金銭賠償の原則にかなっていると一応言えます。

 

しかし、この「差止」は、金銭的な賠償では補填できないような損害が生じえる場合に、そもそもそのような損害が生じないようにしよう、という救済方法なのです。

 

例えば、秘密保持契約において、本来秘密にしておくことが義務付けられている相手方当事者の秘密情報を勝手に第三者に漏えいしようとしたとします。もしも情報が漏えいされると、取り返しのつかないような損害を、情報のもともとの所有者は被ってしまうかもしれません。その損害は、金銭に換算しようとしても、あまりにも莫大で、また、そのような莫大な金額を、義務違反者は支払えないかもしれません。

 

そのような場合、金銭賠償の原則を貫くと、非常に不都合が生じます。つまり、「金銭で賠償すればよいでしょう」と言えない場合があるわけです。

 

そのような特殊な場合に限って裁判所は「差止」を認める、ということになっています。

 

では、この「差止」とは、英語ではどのような表現なのでしょうか。

 

stop?

 

違います。

 

suspension?(中断)

 

違います。

 

答えは、injunctionです。

 

これもあまり聞きなれない英語ではないでしょうか?

 

実はこのinjunctionという表現は、英文契約書の中でも、非常に限られた場面でしか出てきません。

 

というのも、もともとこの差止というものが救済として使われる場面が、上記に定めたように金銭的な賠償では損害をカバーしきれない恐れがある場合というように非常に限られているからです。

 

具体的には、秘密保持義務の違反に関する条文の中で出てくることが多いです。

 

以下が例文です(難しい単語がたくさん出てきますがご容赦ください)。

The Receiving Party acknowledges that the unauthorized disclosure or use of the Confidential Information would cause irreparable damages for which monetary indemnity would not be adequate remedy. Accordingly, The Receiving Party is entitled to seek and obtain an injunction enjoining breach of this Agreement or disclosure of the Confidential Information from any court of competent jurisdiction.

※irreparable:回復困難な

※enjoin:命じる

※court of competent jurisdiction:管轄権をもつ裁判所

訳:情報受領当事者は、秘密情報の不当な開示または不当な使用が金銭的な補償では十分な救済とならないであろう回復困難な損害額を生じさせることを認識している。したがって、情報受領当事者は、本契約の違反または秘密情報の開示を命じる差止を求め、そしてそれを正当な管轄権を持つ裁判所から得る権利がある。

 

秘密情報の開示についての注意点

今回、私がもっとも認識していただきたいと思うのは、上記の例文が示す通り、「情報漏えい」をされると、会社にとって金銭賠償では回復困難な損害が生じてしまうリスクがある!ということです。

 

情報を相手方に開示する際に、契約書で「漏えいしてはいけない」とか、「漏えいしたら損害賠償として○円支払う」とか定めたとしても、もしも相手方がそれでも情報を第三者に漏らした場には、自社は取り返しのつかない損害を被ってしまうかもしれないわけです。

 

ではどうすればよいのか?

 

まず、そもそも信用できなそうな相手には自社の重要な情報は開示しないことです。契約書をちゃんと結ぶんだから誰に開示してもよいだろう、ということにはならないわけです。

 

次に、その情報を開示する必要は本当にあるのか?という点をよく検討していただきたいと思います。契約書があれば大丈夫、安心、ではないわけです。一番の情報保護は、「そもそも他社に開示する必要がないものは開示しないこと」です。

 

 

では、上記のまとめです。

 

・契約違反の救済は、原則として金銭賠償である。つまり、損害賠償の支払いである。

 

・ただし、例外的に、金銭的な賠償ではカバーしきれないような損害が生じるおそれがある場合にだけ、差止が認められる。これは、裁判所が義務違反者に対して命令することで実行される。

 

・この差止は、秘密保持義務違反の場合を定める条文中に定められるのが一般的。

 

・差止は、injunctionという表現である

 

目次
第1回 義務 第10回 ~に関する 第19回 知らせる
第2回 権利 第11回 ~の場合 第20回 責任
第3回 禁止 第12回 ~の範囲で、~である限り 第21回 違反する
第4回 ~に定められている、~に記載されている 第13回 契約を締結する  

第22回 償還する

第5回 ~に定められている、~に記載されている (補足) 第14回 契約締結日と契約発効日 第23回 予定された損害賠償額(リキダメ、LD)
第6回 ~に従って 第15回 事前の文書による合意 第24回 故意・重過失
第7回 ~に関わらず 第16回 ~を含むが、これに限らない 第25回 救済
第8回 ~でない限り、~を除いて 第17回 費用の負担 第26回 差止
第9回 provide 第18回 努力する義務 第27回 otherwise

 

 

第28回 契約の終了

第38回 権利を侵害する 第48回 遅延利息
 

第29回 何かを相手に渡す、与える

第39回 保証する 第49回 重大な違反
 

第30回 due

第40回 品質を保証する 第50回 ex-が付く表現
第31回 瑕疵が発見された場合の対応 第41回 補償・品質保証 第51回 添付資料
第32回 ~を被る 第42回 排他的な 第52回 連帯責任
第33回 ~を履行する 第43回 第53回 ~を代理して
第34回 果たす、満たす、達成する 第44回 第54回 下記の・上記の
第35回 累積責任 第45回 瑕疵がない、仕様書に合致している 第55回 強制執行力
第36回 逸失利益免責条項で使われる様々な損害を表す表現 第46回 証明責任 第56回 in no event
第37回 補償・免責 第47回 indemnifyとliableの違い 第57回 for the avoidance of
 
第58回 無効な 第68回 representations and warranties
第59回 whereについて 第69回 material adverse effect
第60回 in which event, in which case 第70回 to the knowledge of
第61回 株主総会関係 第71回 GAAP
第62回 取締役・取締役会関係 第72回 covenants
第63回 indemnifyとdefendの違い
第64回 Notwithstandingと責任制限条項
第65回 M&Aの全体の流れ
第66回 conditions precedent
第67回 adjustment

 

【私が勉強した参考書】

基本的な表現を身につけるにはもってこいです。

ライティングの際にどの表現を使えばよいか迷ったらこれを見れば解決すると思います。

アメリカ法を留学せずにしっかりと身につけたい人向けです。契約書とどのように関係するかも記載されていて、この1冊をマスターすればかなり実力がupします。 英文契約書のドラフト技術についてこの本ほど詳しく書かれた日本語の本は他にありません。 アメリカ法における損害賠償やリスクの負担などの契約の重要事項についての解説がとてもわかりやすいです。

 

この記事を書いている人 - WRITER -
英文契約・契約英語の社内研修をオンラインで提供しています。本郷塾の代表本郷貴裕です。 これまで、英文契約に関する参考書を6冊出版しております。 専門は海外建設契約・EPC契約です。 英文契約の社内研修をご希望の方は、お問合せからご連絡ください。
詳しいプロフィールはこちら

- Comments -

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

Copyright© 本郷塾で学ぶ英文契約 , 2016 All Rights Reserved.