英文契約の基本的な表現 第47回 indemnify and hold harmless…とbe liable for…の違いについての考察

      2022/05/23

以下の条文は、indemnity条項、またはhold harmless条項と言われている条文です

 

これは、売買契約や請負契約等において、売主の製品や仕事が原因で第三者が損害を被った場合に、売主が買主を免責し、買主に迷惑が掛からないようにするために定められる条文です。

The Seller shall indemnify and hold harmless the Purchaser from and against all damages, claims, losses, expenses, including without limitation, reasonable attorney’s fees, made against the Purchaser in respect of the death, human bodily injury or damage to any property arising out of the Seller’s performance of the obligation hereunder and due to the Seller’s negligence.

 

訳:売主は本契約に基づく売主の義務の履行から生じた生命、身体、その他の財産への侵害で、かつ、売主の過失に基づくものに関して買主に対して課せられた、合理的な弁護士費用を含むがこれに限らない全ての損害賠償額、損害賠償請求支払額、損失額、諸費用について、買主を補償し、免責する

 

このindemnity条項は、その構文が分かりにくいことから、英文契約の中でも有名な条項だと言えると思います。

 

indemnity条項についての疑問

 

企業法務として働いてしばらくしたころ、私はこのindemnity条項について、ある疑問を抱きました。

 

それは、このindemnity条項を、「be liable for」を使って書いてはいけないのだろうか?というものです。

 

具体的には、上の条文を次のように書くと何か不都合があるのでしょうか?

 

The Seller shall indemnify and hold harmless be liable to the Purchaser from and against for all damages, claims, losses, expenses, including without limitation, reasonable attorney’s fees, made against the Purchaser in respect of the death, human bodily injury or damage to any property arising out of the Seller’s performance of the obligation hereunder and due to the Seller’s negligence.

この条文の意味は、「売主は、本契約に基づく売主の義務の履行から生じた生命、身体、その他の財産への侵害で、かつ、売主の過失に基づくものに関して買主に対して課せられた、合理的な弁護士費用を含むがこれに限らない全ての損害賠償額、損害賠償請求支払額、損失額、諸費用について責任を負う」となります。

 

実質的には、「とにかく買主が被った損害等について売主が責任を負う」という意味になるので、こちらでも良いように思ったのです。

 

そして、be liable forを使って書いたほうがindemnify and hold harmless…を使って書くよりも、表現が簡単で、ずっと書きやすいように感じました。

 

実際、他社から送付されてきた契約書や、英文契約の参考書における第三者が被った損害についての条項として、indemnify条項ではなくbe liable forを使って書かれているものも見たこともありました。

 

この点、様々な英文契約に関する参考書を調べてみたのですが、「第三者の損害に関してはbe liable forで書いてはダメで、必ずindemnify and hold harmlessを用いて書かなければならない」ということを言っているものはありませんでした

 

ということは、be liable forを使って書いてもよいのだろうか・・・?

 

しかし、実態としては、第三者の損害についての条項は、indemnify and hold harmlessを使って定めるのが通常で、また、実務上そのように定められている数も、be liable forを使って書くよりも圧倒的に多いと言えると思います。

 

なぜindemnify and hold harmlessと書くのか?

 

上記にも書いたとおり、be liable forを使って定めていけないのか否かははっきりとはわからなかったのですが、どうして、indemnify and hold harmless…なんて難しい表現が使われているのかについて、自分なりに考えてみました。

 

まず、売買契約や請負契約において、対象となる製品や仕事が原因で第三者に損害が生じた場合、その第三者は誰に直接損害賠償を請求するのが普通なのか?と考えると、それは買主・注文者に対してでしょう。

 

なぜなら、第三者と売主・請負人との間には、契約関係がないので、第三者は契約責任を売主・請負人に対して問うことができないからです。

 

そのため、第三者が売主・請負人に対して直接請求しようと思ったら、不法行為責任に基づくことになります。

 

不法行為責任に基づく請求は、立証の観点から、被害者である第三者に不利です。

 

この点、日本では製造物責任法(PL法)があります。

 

このPL法によれば、損害を受けた第三者は、立証の観点で不利益を被ることなく、売主・請負人に対して損害賠償を請求することができます。

 

そしてこのPL法と同趣旨の法律は、米国にもありますし、その他の海外の国々にもあることでしょう。

 

よって、損害を被った第三者は、理論的には、直接、売主・請負人に対して損害賠償を請求できる条件が整っているはずだと言えます。

 

しかし、それでも、第三者は、自分が直接取引したわけではない売主・請負人に対して請求するよりも、買主・注文者に請求しやすいのだろうと思います。

 

売主から直接問題となっている製品を買って使用していた買主、請負人に仕事をさせていた注文者の方が、第三者からみて、請求の対象者としてわかりやすい、という実態があるのだろうと思います。

 

そうすると、買主・注文者としては、自分が第三者から損害賠償を請求された場合には、原因を作った売主・請負人に対応してもらうこと、そして、買主が一旦第三者に支払った賠償額分を支払ってもらう必要が生じます。

 

よって、条文としても、単に「売主は買主に対して責任を負う」という定めではなく、より実態に合った「売主は買主を免責し、補償する」という定めになったのではないかと思います(「責任を負う」という表現よりも「免責し、補償する」の方がより具体的な表現)。

 

確かに、「be liable for」よりも、「indemnify and hold harmless」の方が、第三者から買主が請求されている状態から売主が買主を救い出すニュアンスが出ているように思えますよね。

 

というわけで、今回のまとめです。

  • 第三者の損害についての条文として、indemnify and hold harmless…ではなく、be liable forで書いていけないのかどうかは英文契約関係の書籍を色々読んだがはっきりとはわからなかった。

 

  • 実態としては、be liable forを使って書かれている条文も見たことはあるが、indemnify and hold harmlessを使って定めているものの方が圧倒的に数は多い。

 

  • 損害を被った第三者は、買主・注文者に対して損害賠償を請求してくるという実態があることを考えると、be liable forよりもindemnify and hold harmlessの方がより実態に合致した条文のように思える(私見です)。

英文契約の基本的な表現

Shall

 

~に定められている

 

「~に定められている」の補足

 

Notwithstanding

 

~を除いて、~でない限り

 

~に従って

 

~に関する

 

~の場合

 

Whereについて

 

~の範囲で

 

例示列挙の方法

 

事前の文書による同意と承認

 

契約締結日と発効日

 

LDとpenaltyの違い

 

Gross negligenceと結果の重大性

 

間接損害(indirect damage)と逸失利益(loss of profit)の違い

 

知らせる

 

Liquidated damages

 

Otherwise

 

~を被る

 

~を履行する

 

累積責任

 

~を補償する、免責する

 

Indemnifyとbe liableの違い

 

~を保証する(guarantee)

 

遅延利息

 

Warranty

 

排他的な

 

to one’s knowledge/to the knowledge of

 

Material adverse effect

 

Covenants

 

Representations and warranties

 

Notwithstandingと責任制限条項

 

Indemnifyとdefend

 

取締役・取締役会関係の単語

 

株主総会関係の単語

 

添付資料

 

連帯責任

 

下記の、上記の

 

一般条項(Notice)

 

一般条項(Term)

EPC契約のポイント(『英文EPC契約の実務』で解説している事項の一部です)

 

スコープオブワーク

 

EPC契約の契約金額の定め方と追加費用の扱い

 

コストプラスフィーの注意点

 

ボンドについて

 

前払金返還保証ボンド

 

履行保証ボンド

 

契約不適合責任ボンド

 

リテンションボンド

 

仕様変更

 

プラントの検収条件と効果

 

納期遅延①

納期遅延②

納期遅延③

納期遅延④

納期遅延LDの決め方(発電所建設の一例)

 

Time is of the Essenceとは?

 

性能未達LD

 

EPC契約における保険

 

責任制限①

責任制限②

 

対価をとりっぱぐれるリスクへの対処法

 

プロジェクトファイナンス

 

コンソーシアム契約

 

Delay Analysis関係

必要な立証の程度(balance of probabilities)

 

フロート

 

同時遅延

 

仕事関係

これから法律・契約について勉強し始める社会人が陥りやすい勘違い

 

英語はある日突然聞き取れるようになるのか?

 

会社は誰のものか?

 

司法試験に落ちた後の人生とは?

 

休日を楽しめない理由とは?

 

ピカソがその絵で伝えようとしたこと

 

メンター(教育係)に初めてなる人へ①

メンター(教育係)に初めてなる人へ②

 

自分の勝因は相手の敗因にある(日露戦争から学ぶ)

 

Subject toとポツダム宣言の受諾

どうして議論がまとまらないのか?

 

歴史の本の紹介

 

 - 英文契約の基本的な表現の習得