英文契約の基本的な表現 第42回 「排他的な」という表現 その1
2022/05/23

今回は、「排他的な」という意味を表す表現についてご紹介します。
「排他的な」なんて言葉、聞いたことがない、という方は結構いらっしゃるのではないでしょうか。
「漢字から察するに、「他者を排除する」という意味なのだろうな」となんとな~く感じますよね。
この「排他的な」を表す表現は、英語では、exclusiveです。
では、この「他者を排除する」という意味を持つ言葉は、契約書の中でどのような場面で使われるのでしょうか?
exclusiveが使われる3つの場面
大きくは、以下の3つの場面があります。
1.契約相手に対してある権利・特権を与える場合に、「この権利・特権は、あなたにだけ与えますよ(他には与えません!)」と約束する場合
2.複数の契約当事者が何かを一緒に協力してやっていこうとする場合に、「他の企業や他の人と組まないでね。俺たちだけでこの件はやっていこうね!」と約束する場合
3.一方当事者による契約違反によって損害を被った他方当事者が相手方に対して持ち得る救済方法が一つしかないことを明記する場合(「あなたが得られる救済方法はそれだけです!」ということ)
以下、一つずつ解説していきます(今回は上記の1の場合のみ解説し、2および3は次回以降で解説します)。
「契約相手に対してある権利・特権を与える場合に、「この権利・特権は、あなたにだけ与えますよ(他には与えません!)」と約束する場合」
これは、例えば、次のような場合です。
ライセンス契約における排他的実施許諾
あなたの会社が、A国の企業から、あなたの会社が製造しているある製品に関する技術について、その製品をA国で設計・製造・販売するためにライセンスしてほしいと頼まれました。(ライセンスするということは、「技術を使っていいよ」と許諾することです)
あなたの会社は、「まあ、自分たちはA国でその製品をこれまで売ってたわけでもないし、今後もその予定はないし、ライセンスしてもいいかな」と思いました。
そこで、両者はライセンス契約を締結するための協議を開始しました。
そのときに必ず問題になるのが、「ライセンスを排他的なものにするか、それとも非排他的なものにするか」です。
「排他的なライセンス」にするということは、「この技術をA国で使うことをライセンスするのは、あなたにだけですよ」とすることです。つまり、後に、また別の企業が同じ内容のライセンスを求めてきた場合、あなたの会社は後から求めてきたその企業に対してライセンスしてはいけないことになります。
※A国以外の国でその技術を使って製品を設計・製造・販売することをライセンスすることは禁止されません。
以下、例文です。
The Licensor hereby grants to the Licensee an exclusive license and right to use the Technical Information in order for the Licensee to design, manufacture and sell the Product in country A.
訳:ライセンサー(ライセンスする当事者)は、本契約により、ライセンシー(ライセンスされる当事者)に対して、ライセンシーがA国で製品を設計、製造および販売するために技術情報を実施する排他的なライセンスを許諾する。
なお、「非排他的なライセンス」は、non-exclusive licenseと言います。
では、exclusiveともnon-excusiveとも明記しなかった場合、つまり、単にthe licenseを許諾する、と定めた場合、排他的と非排他的のどちらとして扱われることになるのでしょうか。
この点、おそらく、exclusiveと明記されていない限り、「非排他的なライセンス」と扱われるのだろうと思われます。
しかし、この排他的か非排他的かはライセンス契約の重要ポイントの一つなので、そのどちらであるのかを明記しないというのは避けるべきです。後日、相手方から、「こっちは排他的だと思ってた!」と言われる余地を残してしまうことになります。そのような主張に対してメールで対応したり、相手方と電話会議を開いたりするのも面倒です。要は、ライセンス契約に、exclusiveかnon-exclusiveなのかを明記すれば足りることなのです。
よって、「exclusiveと書かない限り排他的とは扱われないはずだ!」としてあえてnon-exclusiveとも明記しない、なんてことはせずに、しっかりと定めましょう。
ちなみに、ライセンス契約に関するどの参考書の例文にも、exclusiveかnon-exclusiveかを明記していないものはまず見たことがありません。
M&A契約締結に向けた交渉・協議段階における独占交渉権
企業買収案件では、長期間、買おうとする企業と買われる側の株主は交渉・協議をすることになるのが通常です。
その交渉・協議中に、買われる側の企業の株主が、実は同時に他の企業とも協議をしていて、「やっぱり、他の企業に売ることにする」と突然言い出されるのは、買おうとする側の企業としては嫌ですよね。
買おうとする側の企業は、「少なくとも、ある一定期間は、自分達だけと交渉・協議して欲しい」と思うでしょう。
そこで、買収契約のための交渉・協議のために結ばれる覚書(MOU)中に、「買われる側の会社の株主は、この期間はexclusiveに交渉すること」といった条文が定められることがあります。
つまり、「私達(買われる企業の株主)とこの期間交渉できる特権をあなた(買おうとする企業)にだけ与えます!」という条文です。この特権を優先交渉権とか独占交渉権(exclusive rightまたはexclusivity)と言います。
英文契約の基本的な表現
間接損害(indirect damage)と逸失利益(loss of profit)の違い
to one’s knowledge/to the knowledge of
Representations and warranties
EPC契約のポイント(『英文EPC契約の実務』で解説している事項の一部です)
Delay Analysis関係
必要な立証の程度(balance of probabilities)
仕事関係
これから法律・契約について勉強し始める社会人が陥りやすい勘違い
どうして議論がまとまらないのか?