間接損害(indirect damage)と逸失利益(loss of profit)の違い

      2022/06/15

次のような条文を見たことがある人も多いでしょう。

 

The Contractor is not required to be liable to the Owner for any indirect damage in connection with this Agreement.

「コントラクター(請負者)は、オーナー(注文者)に対し、本契約に関する何らの間接損害も賠償する責任を負わない。」

 

しかし、コントラクターが上記のような条文のまま契約を結ぶのはとても危険です。というのも、この条文だと、コントラクターが最も負いたくないと考える損害について責任を負わなければならなくなり得るからです。

 

それは、「逸失利益」と呼ばれるものです。

 

例えば、火力発電所の建設案件を想定します。火力発電所を建設し、無事に検収に至り、オーナーが商業運転を開始した際に、発電所に欠陥(瑕疵)が発見されたとします。瑕疵担保期間内でれば、コントラクターはこの瑕疵を無償で修理しなければなりません。すると、発電所の運転を止めなければならなくなります。この運転を止めている期間中に、オーナーが本来であれば得られていたはずの利益が逸失利益です。つまり、「契約違反がなければ本来得られていた利益」を逸失利益と呼びます。

この逸失利益は、通常、莫大な金額になります。これをコントラクターが負担させられることになると、コントラクターは簡単に倒産してしまいかねません。コントラクターとしては、逸失利益については責任を負わない、つまり、免責されることを契約書に明記しておくべきです。

 

この点、次のように考える人もいるでしょう。

 

「間接損害=逸失利益ではないのか?上記の例文のように間接損害(indirect damage)を免責する条文があれば、逸失利益の賠償も免責されるのではないか?」



この考えは間違いです。

 

間接損害は、逸失利益を含む場合もあれば、含まない場合もあるのです。どのような場合に間接損害の中に逸失利益が含まれるのかは一概には言えません。ただ、間接損害とは、一般に、「契約違反から通常生じる損害ではないが、特別な事情が介在することで生じ得る損害」を指します。日本の民法で言えば、第416条2項に当たるものです。つまり、ある事案においてコントラクターによる契約違反からオーナーが逸失利益を被るのが「通常」であると判断できる場合には、その逸失利益は間接損害ではなく、直接損害(契約違反から通常生じ得る損害)に分類されることになるのです。

 

よって、「間接損害を免責する」と定めるだけでは、コントラクターが逸失利益を免責してもらえるのかどうかわからないのです。

 

このことから、確実に逸失利益を免責してもらうためには、「loss of profit」(逸失利益を意味する単語)についてコントラクターが責任を問われない点を契約書に明記する必要があるのです。

 

具体的には、以下の様に定めます。

 

The Contractor is nor required to be liable to the Owner for any indirect, special, consequential, incidental damage, and loss of profit in connection with this Agreement.

 

indirect damage、special damage、そしてconsequential damageは同じ意味と考えてよいですが、loss of profitはまさに逸失利益を意味しますので、これを忘れずに定めましょう。

なお、incidental damageは、損害が拡大するのを防ぐために必要となる対処を行う際に生じる費用を指します。

 

目次
第1回 義務 第10回 ~に関する 第19回 知らせる
第2回 権利 第11回 ~の場合 第20回 責任
第3回 禁止 第12回 ~の範囲で、~である限り 第21回 違反する
第4回 ~に定められている、~に記載されている 第13回 契約を締結する  

第22回 償還する

第5回 ~に定められている、~に記載されている (補足) 第14回 契約締結日と契約発効日 第23回 予定された損害賠償額(リキダメ、LD)
第6回 ~に従って 第15回 事前の文書による合意 第24回 故意・重過失
第7回 ~に関わらず 第16回 ~を含むが、これに限らない 第25回 救済
第8回 ~でない限り、~を除いて 第17回 費用の負担 第26回 差止
第9回 provide 第18回 努力する義務 第27回 otherwise

 

 

第28回 契約の終了

第38回 権利を侵害する 第48回 遅延利息
 

第29回 何かを相手に渡す、与える

第39回 保証する 第49回 重大な違反
 

第30回 due

第40回 品質を保証する 第50回 ex-が付く表現
第31回 瑕疵が発見された場合の対応 第41回 補償・品質保証 第51回 添付資料
第32回 ~を被る 第42回 排他的な 第52回 連帯責任
第33回 ~を履行する 第43回 第53回 ~を代理して
第34回 果たす、満たす、達成する 第44回 第54回 下記の・上記の
第35回 累積責任 第45回 瑕疵がない、仕様書に合致している 第55回 強制執行力
第36回 逸失利益免責条項で使われる様々な損害を表す表現 第46回 証明責任 第56回 in no event
第37回 補償・免責 第47回 indemnifyとliableの違い 第57回 for the avoidance of
 
第58回 無効な 第68回 representations and warranties
第59回 whereについて 第69回 material adverse effect
第60回 in which event, in which case 第70回 to the knowledge of
第61回 株主総会関係 第71回 GAAP
第62回 取締役・取締役会関係 第72回 covenants
第63回 indemnifyとdefendの違い
第64回 Notwithstandingと責任制限条項
第65回 M&Aの全体の流れ
第66回 conditions precedent
第67回 adjustment

 

英文契約の基本的な表現

Shall

 

~に定められている

 

「~に定められている」の補足

 

Notwithstanding

 

~を除いて、~でない限り

 

~に従って

 

~に関する

 

~の場合

 

Whereについて

 

~の範囲で

 

例示列挙の方法

 

事前の文書による同意と承認

 

契約締結日と発効日

 

LDとpenaltyの違い

 

Gross negligenceと結果の重大性

 

間接損害(indirect damage)と逸失利益(loss of profit)の違い

 

知らせる

 

Liquidated damages

 

Otherwise

 

~を被る

 

~を履行する

 

累積責任

 

~を補償する、免責する

 

Indemnifyとbe liableの違い

 

~を保証する(guarantee)

 

遅延利息

 

Warranty

 

排他的な

 

to one’s knowledge/to the knowledge of

 

Material adverse effect

 

Covenants

 

Representations and warranties

 

Notwithstandingと責任制限条項

 

Indemnifyとdefend

 

取締役・取締役会関係の単語

 

株主総会関係の単語

 

添付資料

 

連帯責任

 

下記の、上記の

 

一般条項(Notice)

 

一般条項(Term)

EPC契約のポイント(『英文EPC契約の実務』で解説している事項の一部です)

 

スコープオブワーク

 

EPC契約の契約金額の定め方と追加費用の扱い

 

コストプラスフィーの注意点

 

ボンドについて

 

前払金返還保証ボンド

 

履行保証ボンド

 

契約不適合責任ボンド

 

リテンションボンド

 

仕様変更

 

プラントの検収条件と効果

 

納期遅延①

納期遅延②

納期遅延③

納期遅延④

納期遅延LDの決め方(発電所建設の一例)

 

Time is of the Essenceとは?

 

性能未達LD

 

EPC契約における保険

 

責任制限①

責任制限②

 

対価をとりっぱぐれるリスクへの対処法

 

プロジェクトファイナンス

 

コンソーシアム契約

 

Delay Analysis関係

必要な立証の程度(balance of probabilities)

 

フロート

 

同時遅延

 

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歴史の本の紹介

 - 英文契約の基本的な表現の習得