英文の契約書(特にM&A契約)でto one’s knowledge ofとは?
to the knowledge of~という表現は、英語の契約書、特にM&A契約でよく使われる表現です。
意味は、「~の知る限りにおいて」というものです。
ここでは、この表現の実際の使われ方をわかりやすく解説します!
前置詞toの意味
前置詞であるtoは、ある方向に向かっていくニュアンスが根底にありますが、この中には、「限界」を定めるもの、つまり、「程度や範囲」を規定する意味を持つことがあります。
to one’s knowledge of~という表現で使われているtoがまさにそれです。
この程度・範囲を意味するtoの例として、次のようなものがあります。
- to date→現在までのところで
- to the extent that S V→SがVする範囲で
よって、to the knowledge of~で、「~の認識するところまで」→「~の知る限り」となります。
使われ方
では、このto the knowledge of ~はどのように使われるのでしょうか。
それは、以前ご紹介したレプワラ(representations and warranties=表明保証→解説はこちら!)において、レプワラをする当事者が、「自分の知る限りにおいて、○○であることを保証します」というように使われます。
以下は例文です。
The Seller hereby represents and warrants to the Purchaser except as set forth in Exhibit A hereof, as of the date hereof, to the knowledge of the Seller, there are no Proceedings pending against the Company.
「売主は、買主に対して、本契約により、本契約の添付資料Aに定められているものを除いて、売主の知る限りにおいて、対象会社に対して何等の紛争もないことを表明保証する。」
例えば、M&A契約における売主であっても、買収の対象となる会社の状態について完璧に把握できているわけではないわけです。調査しても、しきれない部分はどうしても出てきてしまいます。
しかし、買主からは、レプワラするように強く求められます。
そこで、売主は、「レプワラはするけれど、それは、自分たちが知っている限りにおいてですよ」というように条件を付けるのです。つまり、レプワラした内容と異なる事実が後に明らかになった場合でも、「そんな事実があるなんて知らなかったんだから、しょうがないでしょ?(だから、責任を負いません)」と売主がいえるようにする、ということです。
(レプワラに条件を付けることでレプワラ違反の責任を限定するという機能をもつ点は、以前ご紹介した、material adverse effect(重大な悪影響)と似ていますね)
注意点
もっとも、買主としては、レプワラ違反の責任を売主に追求しようとしたときに、なんでもかんでも「ああ、それについては、本当はどうであったのか、私たちは知らなかったんです(だから、責任を負いません)」と売主がいうことで全て責任を免れるとなると、レプワラの意味がなくなります。
よって、このto the knowledge of~という表現がレプワラについていたとしても、その意味は、「売主の役員が事前に合理的に調査をしていれば知り得た範囲で」というように限定するのが合理的といえます。
つまり、「実際に売主が知っていたかどうか」は問題ではなく、「ちゃんと調査していれば知り得たのかどうか」でレプワラ違反の責任の有無が決まるようにするのです。売主が知らなかった理由がもしも「ちゃんと事前にするべき調査をしていなかったから」である場合には、売主はレプワラ違反の責任を免れないことになります。
そこで、契約条文中で使われているto the knowledge of~が、上記のような限定された意味であることを明確にするために、その意味を定義することがよく行われます。
そうすることで、「それ、知らなかったから」という理由で簡単に売主がレプワラ違反の責任を免れるのをある程度防ぐことができます。
M&Aで登場する重要な表現を以下にまとめたので、そちらもご参考ください。
M&Aの全体像 | conditions precedent | adjustment |
representations and warranties | material adverse effect | to the knowledge of ~ |
GAAP | covenants |