英文契約の基本的な表現 第23回 liquidated damages

      2019/11/22

英文契約の基本的な表現の第23回目です!

 

今回は、liquidated damagesについてご紹介します。

 

このliquidated damagesという表現をこれまで見たことがない、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

英文契約をこれまで読む機会があまりなかった方だと、おそらく、これが初めてです、ということもあるかと思います。

 

このliquidated damagesとは、「予定された損害賠償金額」を指します。

 

これは、日本の法律の中では、民法の第420条第1項に定められています。

 

 

民法第420条第1項

当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。この場合において、裁判所は、その額を増減することができない。

 

 

予定された損害賠償金額とは何か?




 

これは、契約当事者間で、あらかじめ、義務違反の場合に相手方に賠償する損害賠償金額を合意したもの、を指します。

 

通常、損害賠償は、実際に義務違反が生じ、その義務違反によって損害が発生してからその金額が決まるものです。

 

損害額は、損害を被った者が立証しなければなりません。損害額を立証できない場合には、いくら義務違反があっても、損害を賠償しようがないので、賠償されないことになります。

また、仮に立証できるとしても、それに多大な時間がかかる場合があります。

 

そこで考え出されたのが、予定された損害賠償金額、という制度です。



 

義務違反が生じた場合に、なんらかの損害が生じることは確実だが、しかし、具体的にいくらの損害額が生じるのか立証が困難な場合に、あらかじめ当事者間で、「契約違反の場合には、○円支払います」と合意しておくと、本当に契約違反が生じた場合には、その合意に従って損害賠償をすればよく、いちいち損害額を立証する必要はなくなるというメリットがあります。

 

つまり、義務に違反された当事者の立証責任を軽減する役割があります。

 

では、どんな契約でも、この「予定された損害賠償金額」を定めておけばよいのでは?と思われた方もいらっしゃるかと思います。

 

しかし、この「予定された損害賠償金額」を契約に定めると、次のような扱いとなります。

 

現実に生じた損害が、仮に予定された損害賠償金額よりも高額であった場合でも、義務に違反したものは、予定された損害賠償金額を支払えば、それ以上は損害を賠償する必要はない。

 

これは、裁判所も拘束されます。

 

例えば、予定された損害賠償金額が1000万円だったとします。

 

実際に義務違反が生じたところ、違反された当事者に、1100万円の損害が生じたとします。

 

その場合、差額100万円分は、違反された当事者は支払ってもらえないのです。これを不当だとして裁判所に訴えても、裁判所は、「え、だって、予定された損害賠償金額があるのなら、それに従って支払われるだけですよ。」と判断することになっています。これも、民法の第420条第1項に明確に定められていますね。念のため、もう一度ここで引用します。

 

民法第420条第1項

当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。この場合において、裁判所は、その額を増減することができない。

 

これは、現実の損害が、「予定された損害賠償金額」よりも少ない場合もそうです。義務に違反した当事者は、「実際に生じた損害は、予定された損害賠償金額よりも少ないじゃないか!だから、自分は実際に生じた損害額しか支払う必要はない!」という主張は認められません。

 

このように、一見、ものすごく便利な制度にも思えますが、一度契約書に定めてしまうと、実際に生じた損害額がいくらであろうが関係なく、その金額を賠償することでその義務違反についての責任は終了となる、という点に注意してください。

 

なお、このliquidated damagesが契約書に定められる場合には、一緒に、その上限金額も定められることが多いです。

 

例えば、「納期に売主が遅れた場合には、予定された損害賠償金額として、一日の遅れ当たり○円買主に支払わなければならない。ただし、この予定された損害賠償金額の総額は、▲円を上限とする」という定めがなされることがあります。

 

これは、どんなに納期に遅れても、この上限までしか売主は損害賠償責任を負わないという意味です。

 

以下、例文です。

 

The aggregate liquidated damages payable by the Seller to the Purchaser for the delay in the Time for the Delivery hereunder in no event exceed the amount equal to 20 % of the Contract Price.

訳:本契約に基づき、売主から買主に対して支払われる納期遅延のためのLDの総額は、契約金額の20%を超えないものとする。

 

このような上限を定めるか否かも当事者間の合意によります。予定された損害賠償金額を定めた場合に、必ずそのような上限を定めなければならないわけではありません。ただ、通常はそのような上限を定めることが多いように思います。


 

目次
第1回 義務 第10回 ~に関する 第19回 知らせる
第2回 権利 第11回 ~の場合 第20回 責任
第3回 禁止 第12回 ~の範囲で、~である限り 第21回 違反する
第4回 ~に定められている、~に記載されている 第13回 契約を締結する  

第22回 償還する

第5回 ~に定められている、~に記載されている (補足) 第14回 契約締結日と契約発効日 第23回 予定された損害賠償額(リキダメ、LD)
第6回 ~に従って 第15回 事前の文書による合意 第24回 故意・重過失
第7回 ~に関わらず 第16回 ~を含むが、これに限らない 第25回 救済
第8回 ~でない限り、~を除いて 第17回 費用の負担 第26回 差止
第9回 provide 第18回 努力する義務 第27回 otherwise

 

 

第28回 契約の終了

第38回 権利を侵害する 第48回 遅延利息
 

第29回 何かを相手に渡す、与える

第39回 保証する 第49回 重大な違反
 

第30回 due

第40回 品質を保証する 第50回 ex-が付く表現
第31回 瑕疵が発見された場合の対応 第41回 補償・品質保証 第51回 添付資料
第32回 ~を被る 第42回 排他的な 第52回 連帯責任
第33回 ~を履行する 第43回 第53回 ~を代理して
第34回 果たす、満たす、達成する 第44回 第54回 下記の・上記の
第35回 累積責任 第45回 瑕疵がない、仕様書に合致している 第55回 強制執行力
第36回 逸失利益免責条項で使われる様々な損害を表す表現 第46回 証明責任 第56回 in no event
第37回 補償・免責 第47回 indemnifyとliableの違い 第57回 for the avoidance of
第58回 無効な
第59回 whereについて
第60回 in which event, in which case
第61回 株主総会関係
第62回 取締役・取締役会関係

 

【私が勉強した参考書】

基本的な表現を身につけるにはもってこいです。

ライティングの際にどの表現を使えばよいか迷ったらこれを見れば解決すると思います。

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 - 英文契約の基本的な表現の習得