英文契約で「契約の終了」(terminate/expireの違い)とは?
今回は、「契約の終了」を表す表現についてご紹介します。
まず、契約は、どのような場合に終了するのでしょうか。
真っ先に思いつくのは、おそらく、「契約期間が満了した場合」ではないでしょうか。
通常、契約には、「契約期間」が定められています。
契約期間とは、その契約が有効である期間です。ちなみに、「契約期間」は、termと言います。
その期間を過ぎると、原則として、契約に定められている事項は効力を失います。つまり、契約当事者は、定められている「義務」を果たさなくてもよくなりますし、定められている「権利」を使うことはできなくなります。
ここで、「原則として、契約に定められている事項は効力を失う」と書きましたが、例外があります。実は、例外的に、契約期間を過ぎても、依然として契約の一部の効力を持続させることもできるのです。その方法は、契約書に、「第○条については、契約期間を過ぎても有効にします」と定めておくことです。
この具体例としては、秘密保持契約における秘密保持義務があります。
秘密保持契約の第2条に、「秘密情報を受領したものは、第三者に対して秘密情報を開示してはならない」と定められていたとします。
そして、同じく秘密保持契約の別の条文に、「本契約の第2条は、契約期間満了後5年間は有効とする」と定められていたとします。
この場合、例えばこの秘密保持契約の契約期間が3年だったとしてそれが過ぎたとしても、第2条については、さらに5年間有効です。つまり、契約期間が過ぎてから5年間は、ずっと秘密情報を誰にも開示してはいけない状態が継続するのです。
そして、この「契約期間の満了」を表す英語の表現は、次のようなものがあります。
termination
expiration
もっとも、terminationよりも、後者のexpirationが「契約期間の満了」を表す言葉として一般的には使われています。
では、契約が終わる場合として、契約期間満了の他には何があるでしょうか?
「契約の解除」があります。
解除とは、契約期間が満了する前に、契約当事者が契約を強制的に終了させることを言います。契約の期間満了は、当事者の意思とは無関係に、ある一定の期間が過ぎれば、契約が終わります。つまり、契約が終わる原因が、単なる時間の経過による場合は、「契約期間の満了」で、契約当事者の意思がきっかけで終了する場合には、「契約解除」となります。
この「契約解除」を表す表現は、次の通りです。
termination
そうです。terminationは、契約期間満了の場合も、契約解除の場合も、両方で使えます。しかし、上記に書いたとおり、契約期間満了の場合には、expirationを使うことが多く、terminationは契約解除の場合に使われることが多いです。
そしてこの契約の解除には、次のように大きくは4種類あります。
合意解除
一つ目は、「契約の合意解除」と呼ばれるものです。
「契約の合意解除」とは、契約の当事者が「もうこの契約、終わりにしようよ」と合意して、解除するものです。
契約は、当事者間の権利義務を定めたものです。その当事者のみんなが、もう契約を終わりにしよう、と思ったのであれば、それ以上その契約を有効にしておく必要はないですよね?このような合意解除に至る理由はケースバイケースですが、おそらく、その契約で果たしたいと契約当事者が考えていた目的が無事に果たされたため、あとは、「これ以上、契約にお互いに縛られる必要はなくなった」といった場合が一つのケースとして考えられます。
自己都合解除
二つ目は、売買契約や請負契約等のように、製品や役務を提供する者と、その対価を支払う者との間で締結される契約において、対価を支払う者が、一方的に契約を解除するもの、これを、「自己都合解除」と言います。
この自己都合解除をする権利は、対価を支払う者の方のみに与えられている契約がほとんどです。
では、なぜ、製品や役務を提供する者には自己都合解除はないのに、対価を支払う者には自己都合解除が与えられるのでしょうか?
それは、売買契約や請負契約においては、お金を払う側、つまり、買主側が、その製品や役務を欲しいと思うから契約が成り立つのであって、契約締結後に、その製品や役務が不要になってしまったのなら、製品の製造途中でも、役務の提供途中でも、その段階で契約を終わらせたほうが、無駄がないからです。
買主にとっていらなくなった製品やサービスをそのまま続けても、誰も喜びませんよね?もしも買主がいらなくなったにも関わらず、製品を買主に引き渡しても、買主はそれを欲しいとはもはや思っていないので、ゴミになるだけです。おそらく、引き渡された後は、捨てられる運命にあるでしょう。
そうであれば、買主側が、「もういらない」と思ったら、その時点で契約は終了できるようにしたほうが無駄がなくなります。
もっとも、売主の方は、対価をもらえると思って、材料を買ったり、途中まで物を作ったりしていたのですから、それまでに費やした費用分は最低でも支払われるべきです。
そのため、自己都合解除を買主に認める代わりに、「それまでにした仕事の対価を買主は売主に対して支払わなければならない」と定められている契約が多いです。
もしも、そのような買主の対価の支払い義務が契約に明記されていない場合には、ぜひ明記するようにしましょう。
以下、自己都合解除を表す条文の例です。
The Purchaser is entitled to terminate this Agreement anytime for any reason.
訳:買主は、この契約を、いつでも、いかなる理由によっても、解除することができる。
債務不履行解除
3つ目は、債務不履行解除です。
契約に定められている義務を、契約当事者が適切に行わない場合には、契約違反となります。その場合、違反をした当事者は、相手方に対して損害賠償を支払う責任が生じます。この損害賠償責任に加えて、契約を解除する権利が相手方に生じます。
この債務不履行解除は、買主側でも、売主側にもあるのが通常です。
例えば、売主としては、買主が対価を全然支払ってくれないようであれば、契約を解除して、かつ、被った損害を賠償してもらいます。
一方、買主は、売主が納期に製品を引き渡さないとか、引き渡された製品が性能を満たしていない等の場合には、契約を解除した上で、損害賠償を請求できるように契約で定められていることが多いです。
以下、債務不履行解除の例です。
If any of the following event occurs, the Purchaser is entitled to terminate this Agreement by giving thirty (30) days prior written notice to the Seller;
(1) the Seller fails to deliver the Product by the date specified in the attachment hereto; or
(2) the Product does not conform to the specifications attached hereto.
不可抗力が長期間継続した場合の解除
最後の四つ目は、不可抗力が長期間継続した場合の解除です。
不可抗力、つまり、当事者間のコントロールを超えた出来事、例えば、大地震とか、戦争とかによって、契約上の義務を履行できなくなり、それが何十日と継続すると、もはや契約を有効のままにしていてもしょうがなくなります。もうその不可抗力が終わるまで、契約上の義務を履行できないわけですから、契約を有効にしていることのメリットがありません。
よって、契約では、そのような場合には、契約当事者のどちらかが、契約を解除できると定めていることがあります。
以下、不可抗力の場合の契約解除の例文です。
If the Forth Majeure continues over for ninety (90) days, either Party is entitled to terminate this Agreement by giving the written notice to the other Party with immediately effect.
訳:もしも不可抗力が90日以上続いたら、いずれかの契約当事者は相手方に対して書面による通知により本契約を解除する権利がある。
まとめ
以上をまとめると、次にようになります。
「契約の終了」は、大きく2つの場合がある。
一つは、契約期間の満了→expiration
もう一つは、契約の解除→termination
契約の解除(terminate)には、大きく4つの場合がある。
一つ目は、合意解除(両当事者による合意)
二つ目は、自己都合解除(買主側にのみ与えられており、売主側にはないことが通常)
三つ目は、債務不履行解除(契約上の義務に違反した場合に、相手方当事者に与えられる)
四つ目は、不可抗力が長期間継続した場合の解除(買主側にのみ、または両当事者に与えられる)
これを覚えれば英文契約をずっと読みやすくなる!英単語レベル2
3.「~を履行する」
7.「添付資料」
10.「契約の終了」
英文契約を読むなら、まずはこの英文契約の基本的な表現と型を押さえましょう!レベル1
英文契約を読む際に、まずこれだけは押さえておくべき!という英文契約の基本的な型を構成する英単語は以下のようなものです。
・hereto/hereof/herein/hereinafterやthereof/thereby/thereafterなど
・shall 義務
・shall not 禁止
・may 権利
・if, when, whereなど、「~の場合」を表す表現
・unlessやexceptなど、「~でない限り」、「~を除いて」を表す表現
・otherwise「別途」を表す表現
・notwithstanding ~にかかわらず
・regarding, in connection with, in respect ofなど「~に関して」を表す表現
・to the extent ~の範囲で
・pursuant to, in accordance withなどの「~に従って」を表す表現
・provided inやspecified inなど、「~に定められている」を表す表現
・however provided that 「ただし」を表す表現
目次 | ||
第1回 義務 | 第10回 ~に関する | 第19回 知らせる |
第2回 権利 | 第11回 ~の場合 | 第20回 責任 |
第3回 禁止 | 第12回 ~の範囲で、~である限り | 第21回 違反する |
第4回 ~に定められている、~に記載されている | 第13回 契約を締結する |
第22回 償還する |
第5回 ~に定められている、~に記載されている (補足) | 第14回 契約締結日と契約発効日 | 第23回 予定された損害賠償額(リキダメ、LD) |
第6回 ~に従って | 第15回 事前の文書による合意 | 第24回 故意・重過失 |
第7回 ~に関わらず | 第16回 ~を含むが、これに限らない | 第25回 救済 |
第8回 ~でない限り、~を除いて | 第17回 費用の負担 | 第26回 差止 |
第9回 provide | 第18回 努力する義務 | 第27回 otherwise |
第28回 契約の終了 |
第38回 権利を侵害する | 第48回 遅延利息 |
第29回 何かを相手に渡す、与える |
第39回 保証する | 第49回 重大な違反 |
第30回 due |
第40回 品質を保証する | 第50回 ex-が付く表現 |
第31回 瑕疵が発見された場合の対応 | 第41回 補償・品質保証 | 第51回 添付資料 |
第32回 ~を被る | 第42回 排他的な | 第52回 連帯責任 |
第33回 ~を履行する | 第43回 | 第53回 ~を代理して |
第34回 果たす、満たす、達成する | 第44回 | 第54回 下記の・上記の |
第35回 累積責任 | 第45回 瑕疵がない、仕様書に合致している | 第55回 強制執行力 |
第36回 逸失利益免責条項で使われる様々な損害を表す表現 | 第46回 証明責任 | 第56回 in no event |
第37回 補償・免責 | 第47回 indemnifyとliableの違い | 第57回 for the avoidance of |
第58回 無効な | 第68回 representations and warranties | |
第59回 whereについて | 第69回 material adverse effect | |
第60回 in which event, in which case | 第70回 to the knowledge of | |
第61回 株主総会関係 | 第71回 GAAP | |
第62回 取締役・取締役会関係 | 第72回 covenants | |
第63回 indemnifyとdefendの違い | ||
第64回 Notwithstandingと責任制限条項 | ||
第65回 M&Aの全体の流れ | ||
第66回 conditions precedent | ||
第67回 adjustment |
【私が勉強した参考書】