英文契約でreasonable effortとbest effortの違い
英文契約書を読んでいると、ときどき登場する努力義務ですが、reasonable effortとbest effortの間に違いはあるのでしょうか?
つまり、例えば契約書上で、自分たちの企業が何らかの努力義務として、best effortでそれをしなければならない、と定められている場合に、あえて、reasonable effortと修正する必要があるのでしょうか。
この点、世界において、その判断は一律に決まってはいないようです。
「差はある」とする英国の裁判での判断では、両者を次にように区別しています。
まず、best effortは、考えられる「合理的なあらゆる手段」を用いなければならない、という意味と捉えています。
一方、reasonable effortは、考えられる合理的な手段のうち、「どれか1つ」を行えば、努力義務を果たしたことになる、という意味と捉えています。
ある目的を果たすためにとりえる「選択肢の全部」をしなければならないか、「その中の1つでよい」か、という違いの様です。
以下に、その裁判の判断部分を示します。
Rhodia v. Huntsman (2007)
“an obligation to use reasonable endeavors to achieve the aim probably only requires a party to take one reasonable course, not all of them, whereas an obligation to use best endeavors probably requires a party to take all reasonable course he can.”
「その目的を果たすために「合理的な努力を果たす義務」は、おそらく、契約当事者が合理的な手段の全てではなく、その1つを取ることを求めているに過ぎない。一方、「最大限の努力を果たす義務」は、おそらく、契約当事者に、彼がなし得るあらゆる合理的な手段を取ることを求めている。」
※effortは代わりに上記の様にendeavorが使われることがあります。
対策
では、上記を踏まえると、契約書をチェックする際には、どうするのが望ましいのかといえば、それは、できるだけ、自社の努力義務はreasonable effortと、相手に努力義務を貸す際には、best effortとする、ということになるでしょう。
差があるという判断がなされるか否かは不明でも、差があると判断される可能性があるのであれば、上記の様な対応がリスク対策としては望ましいといえますよね。
さらに、努力義務を定める際に、「これは果たしてもらわないと困る」という場合には、以下の様にその義務を明記しておくべきでしょう。
~reasonable effort, including [含ませたい行為]
逆に、「これは努力義務の中に含ませたくない」と思うものは、以下の様に、その義務を明確に外しておくことが考えられます。
~best effort but without [含ませたくない行為]
ちなみに、EPC契約(設計~建設契約)などでは、工事の作業が遅れた場合に、その遅れができるだけ拡大しないように、コントラクターには努力義務が課されていることが多いです。そしてこの影響拡大防止義務(mitigationと呼びます)を果たすことが、コントラクターがオーナーに対して、納期延長のクレームを行うための条件とされています。以下、条文例です。
The Contractor shall constantly use his best endeavors to prevent delay in the progress of the Works, however caused, and to prevent the completion of the Works being delayed.
「コントラクターは、仕事の進捗における遅れを防止するうために、そして、もしも遅れが生じた場合には、仕事の完成(納期)に遅れが生じないように、最大限の努力を常に果たさなければならない。」
目次 | ||
第1回 義務 | 第10回 ~に関する | 第19回 知らせる |
第2回 権利 | 第11回 ~の場合 | 第20回 責任 |
第3回 禁止 | 第12回 ~の範囲で、~である限り | 第21回 違反する |
第4回 ~に定められている、~に記載されている | 第13回 契約を締結する |
第22回 償還する |
第5回 ~に定められている、~に記載されている (補足) | 第14回 契約締結日と契約発効日 | 第23回 予定された損害賠償額(リキダメ、LD) |
第6回 ~に従って | 第15回 事前の文書による合意 | 第24回 故意・重過失 |
第7回 ~に関わらず | 第16回 ~を含むが、これに限らない | 第25回 救済 |
第8回 ~でない限り、~を除いて | 第17回 費用の負担 | 第26回 差止 |
第9回 provide | 第18回 努力する義務 | 第27回 otherwise |
第28回 契約の終了 |
第38回 権利を侵害する | 第48回 遅延利息 |
第29回 何かを相手に渡す、与える |
第39回 保証する | 第49回 重大な違反 |
第30回 due |
第40回 品質を保証する | 第50回 ex-が付く表現 |
第31回 瑕疵が発見された場合の対応 | 第41回 補償・品質保証 | 第51回 添付資料 |
第32回 ~を被る | 第42回 排他的な | 第52回 連帯責任 |
第33回 ~を履行する | 第43回 | 第53回 ~を代理して |
第34回 果たす、満たす、達成する | 第44回 | 第54回 下記の・上記の |
第35回 累積責任 | 第45回 瑕疵がない、仕様書に合致している | 第55回 強制執行力 |
第36回 逸失利益免責条項で使われる様々な損害を表す表現 | 第46回 証明責任 | 第56回 in no event |
第37回 補償・免責 | 第47回 indemnifyとliableの違い | 第57回 for the avoidance of |
第58回 無効な | 第68回 representations and warranties | |
第59回 whereについて | 第69回 material adverse effect | |
第60回 in which event, in which case | 第70回 to the knowledge of | |
第61回 株主総会関係 | 第71回 GAAP | |
第62回 取締役・取締役会関係 | 第72回 covenants | |
第63回 indemnifyとdefendの違い | ||
第64回 Notwithstandingと責任制限条項 | ||
第65回 M&Aの全体の流れ | ||
第66回 conditions precedent | ||
第67回 adjustment |
【私が勉強した参考書】