EPC契約における作業中断権① 中断権の存在意義

      2020/01/30

 

EPC契約の中には、Suspensionという条項があるのが一般的です。

 

これは、「中断」を意味します。

 

EPC契約におけるコントラクターの義務の履行を中断する場合の定めです。

 

これは不思議な気がしないでしょうか?

 

本来、EPC契約は、納期までにプラントを完成させることを最大の目的の一つとしているはずです。

 

その目的を果たすためには、中断なんて不要なはずです。

 

EPC契約に定められている義務を、当事者で合意したスケジュールに従って粛々と遂行していくことがコントラクターに求められることです。

 

中断なんてしたら、納期までに間に合わなくなる可能性は大です。

 

どうして、「中断権」なんていう一見余計なものを定めているのでしょうか?

 

 

作業を中断される場合

 

EPC契約において、作業が中断されるのは、大きくは以下の2つの場合とされています。

 

①    オーナーが中断を望み、オーナーが中断をコントラクターに求める場合

②    オーナーのEPC契約上の義務違反があり、コントラクターが中断を求める場合

 

以下、説明します。

 

 

オーナーの作業中断権

 

まず、①についてです。

 

一般的に、「オーナーは、プラントの検収までの間に、いつでも、理由なく、コントラクターの作業を中断させることができる」とEPC契約中に定められています。

 

オーナーが具体的にいかなる理由で中断を望むのかはわかりません。ケースバイケースでしょう。

 

ただ、EPC契約履行中に何らかの事情の変更がオーナーにあり、急きょ、工程を遅らせたい、と考えた場合に、それができるように、上記のような中断権がオーナーに与えられています。

 

もっとも、オーナーが中断してほしいと考える理由が、コントラクターの契約違反等のコントラクターに原因がある場合もあります。

 

例えば、コントラクターが仕様書とは異なる設計や機器製造をしているのを、オーナーが気付いた時には、まずは作業を中断してコントラクターと協議したいと思うでしょう。

 

 

コントラクターの作業中断権

 

次に、②です。

 

EPC契約において、プラントを完成させるために必要な大部分の作業は、コントラクターが行うことになっております。

 

しかし、中には、オーナーの義務と定められているものもあります。

 

例えば、プラントを建設するためのサイトの占有権の取得、サイトへのアクセス権の取得、その他の許認可の取得等です。

 

これらは、コントラクターによるサイトでのプラント建設の大前提になるものです。

 

これらが確保されていないと、コントラクターはサイトで建設を行うことができません。

 

そこで、このようなオーナーの義務違反の場合には、コントラクターが自分の義務を遂行することができないので、作業を中断することができる、つまり、中断権がコントラクターに付与されるべきです。

 

さらに、EPC契約におけるオーナーの最大の義務と言えば、コントラクターへの対価の支払い義務です。

 

この対価を得るためにコントラクターは仕事をしているのです。

 

よって、コントラクターにとって、この対価の支払いをオーナーが滞らせることは、絶対に許せないことです。

 

もしもオーナーが、対価の支払いを滞らせた場合には、コントラクターはどうしたらよいでしょうか?

 

それは、「お金をくれないなら、もう仕事しないよ」とオーナーに伝えることでしょう。

 

つまり、この対価の支払いをオーナーが不当に滞らせた場合にも、コントラクターは作業を中断することができるようにしたいですよね。

 

中断されれば、納期までにプラントが完成されることを強く望んでいるオーナーは、対価を支払うようになるでしょう。

 

コントラクターにとっての中断は、オーナーに対価を支払わせるための武器でもあるわけです。

 

したがって、コントラクターとしては、対価の支払い義務をはじめとしたオーナーによるEPC契約義務違反があった場合に、中断権がコントラクターの付与されるのが通常です。

 

時々、オーナーに中断権が与えられているのに、コントラクターには与えられていないEPC契約を見ることがあります。

 

これは、オーナーの契約義務違反に対して、コントラクターに効果的な武器がないことになるので、ぜひ、コントラクターにも中断権が与えられているのかしっかりと確認し、もしも漏れていれば、明記するようにしてください。

 

次回は、中断権を行使した場合の効果について説明します。

 

 

EPC契約のポイントの目次

Scope of Work ボンドのon demand性を緩和する方法 プラントの検収条件と効果
サイトに関する情報 コントラクターによる仕事の開始時期(納期の起算点)は? 危険の移転時期とその例外
オーナーの義務 仕事の遂行 債務不履行
契約金額の定め方と追加費用の扱い 設計(design)の条文について① 納期延長の場合のコントラクターの責任① 納期延長になる場合
追加費用の負担について 設計(design)の条文について② 納期延長の場合のコントラクターの責任② LD/リキダメ
ボンドについて 仕様変更① 仕様変更とは? 納期延長の場合のコントラクターの責任③ 納期LDの上限
入札保証ボンド 仕様変更② クレーム手続きと仕様書に書かれていない事項 納期延長の場合のコントラクターの責任④ sole and exclusive remedy
前払金返還保証ボンド 仕様変更③ 納期延長と追加費用の金額が合意に至らない場合の扱い 納期延長の場合のコントラクターの責任⑤ 中間マイルストーンLD
履行保証ボンド プラントの試験① 性能未達の場合のコントラクターの責任① 性能保証と性能確認試験
瑕疵担保保証ボンド プラントの試験② 性能未達の場合のコントラクターの責任② 最低性能保証・性能LD
責任制限条項① Limitation of Liability/LOL 不可抗力の扱い③ Force Majeureの効果を得るための手続き 私がEPC契約で真っ先に確認する点③
責任制限条項② 適用される場合と適用されない場合 不可抗力の扱い④ Force Majeureが長期間継続した場合 LOIの何がリスクなのか?
瑕疵担保責任① 総論 法令変更について LOIへの対処法(対外的)
瑕疵担保責任② オーナーの通知義務とコントラクターのアクセス権 契約解除① なぜ解除の理由によって解除の効果が異なるのか? LOIへの対処法(社内的)
瑕疵担保責任③ 保証期間の延長 契約解除② オーナーの義務違反に基づくコントラクターによる契約解除 EPC契約における支払い条件
瑕疵担保責任④ Disclaim(免責)条項 契約解除③ オーナーの自己都合解除
作業中断権① 中断権の存在意義 契約解除④ コントラクターの債務不履行に基づくオーナーによる契約解除
作業中断権② 中断権行使の効果 契約解除⑤ 不可抗力事由が長期間継続した場合
不可抗力の扱い① Force Majeureとは何か? 私がEPC契約で真っ先に確認する点①
不可抗力の扱い② Force Majeureの効果 私がEPC契約で真っ先に確認する点②

 

【私が勉強した原書(英語)の解説書】

残念ながら、EPC/建設契約についての日本語のよい解説書は出版されておりません。本当に勉強しようと思ったら、原書に頼るしかないのが現状です。

原書で勉強するのは大変だと思われるかもしれませんが、契約に関する知識だけでなく、英語の勉強にもなりますし、また、留学しなくても、英米法系の契約の考え方も自然と身につくという利点がありますので、取り組んでみる価値はあると思います。

 

EPC/建設契約の解説書 EPC/建設契約の解説書 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 英国におけるDelay Analysisに関する指針
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol

2nd edition February 2017

 - EPC契約のポイント