約因(consideration)とは何か?~英米法における契約成立条件~

      2019/11/08

 

約因は重要か?~約因の位置づけ~

日本の法律の下では、契約は、当事者間で約束を交わせば成立します。

 

しかし、英米法の下では、そうではない、といわれます。「約因」(consideration)が必要だとされています。

 

約因とは何か?これは、英文契約書の参考書であればどれにでも説明されています。それだけ重要だということでしょう。

 

しかし、この約因の有無が、特に企業に勤める方々にとって問題になることはまずありません。

 

というのは、日系企業が海外の企業との間で行う取引は、約因があるのが普通だからです。

 

よって、「約因とは何か?」を知らなくても、困ることはまずありません。

 

しかし、「約因がないと契約は成立しない」といわれると、「果たして、今、自分が行おうとしている取引に約因はあるのだろうか?契約書に何か特別な記載をしておかないと、あとになって契約は成立していない、だから、お金を支払わない、とか相手から言われたら困るな・・・」と感じて不安になってしまうこともあるでしょう。

 

というわけで、前置きが長くなりましたが、「別に知らなくても本当は困らないのだけれど、知っておいた方が、気が楽になる」という、そんな約因について以下に説明します。

 

約因とは何か?

約因とは、「一方の約束を導き出す原因となった相手方の約束や行為」です。

 

これだけだと難しいので、例を示しましょう。

 

売買を考えてみます。これは、売主がモノやサービスを買主に提供することを約束するものです。ここで、なぜ、売主は、買主にモノやサービスを提供しようと考えるのでしょうか?

 

それは、買主が、お金を支払ってくれると約束するからです。買主がお金を支払うといわなければ、売主も何も提供しようと思わないでしょう。

つまり、「一方(売主)の約束(モノやサービスを提供すること)を導き出す原因となった相手方(買主)の約束(お金を払うこと)や行為

 

となるので、「売買には約因がある」といえます。

 

となると、これは売買に限らないことがわかると思います。

 

一方の当事者が、相手方に何かを提供するのに対して、相手方がその対価を支払う、という場合には、全て約因が存在することになるのです。

 

つまり、ライセンス契約であろうが、企業買収契約であろうが、約因があるのです。

 

よって、企業が普通に行う取引においては、約因がない、ということはまず起こらないのです。

 

片務的な秘密保持契約の約因の有無について

しかし、ここでこう思った人もいることでしょう。

片務的な秘密保持契約は、約因がないのではないか?

 

というのも、片務的な秘密保持契約=一方の当事者だけが秘密保持義務を負う場合には、「情報を秘密にします」という約束をするのは片方の当事者だけで、もう片方の当事者は何も約束をしないからです(※もう片方の当事者は、「情報を提供します」という約束は普通はしません)。これでは、「一方の約束を導き出す原因となった相手方の約束や行為」があるとはいえない!つまり、約因はないではないか!・・・と。

 

しかし、結論からいえば、この片務的な秘密保持契約にも、約因はあります。実際、片務的な秘密保持契約は毎日のように世界中で結ばれています。それらが実は契約として成立していなかった、などという問題になることはありません。よって、理由はともかく、約因はあるわけです。

 

では、その理由は何でしょう?

 

ポイントは、約因とは、「一方の約束を導き出す原因となった相手方の約束や行為」の中の「行為」の部分です。つまり、お互いに約束をし合う関係になくても、片方が何らかの行為をするなら、約因がある、といってよいのです。

 

片務的な秘密保持契約における「行為」とは何でしょうか?

 

それは、「情報を提供する」というものです(※繰り返しますが、これは「約束」ではありません。情報を提供してもしなくてもどちらでもよいのです)。

 

つまり、片方の当事者は、「秘密情報を秘密にする」と約束します。これは、「相手が秘密情報を開示・提供したら」です。相手から何も提供されないのであれば、秘密にするものは何もありません。相手による「情報を提供するという行為」が前提としてあって、片方の当事者はそれを「秘密にすると約束する」ことになります。

 

というわけで、約因は、約束が2つなければならないわけではなく約束は1つで、その代わり、その約束を導き出すことになる相手方の何らかの「行為」があればよいので、片務的な秘密保持契約でも、約因がある、ということになります。

 

約因の経済的な価値のつり合いについて

ちなみに、約因は、約束と約束、または約束と行為が、経済的に同じ程度のものでなければならないわけではありません

 

例えば、売買において、客観的には経済的価値がまったくないようなツボについて、すさまじい金額を出して買う、という場合でも、約因はあることになります。「約束と約束」、または「約束と行為」があればよいのです。

 

契約書中の約因の記載について

さらに、約因がその取引についてある旨は、契約書中に明記されていなくても問題ありません

 

契約書の頭書には、以下のような記載があるのが通常です。

This Agreement, made and entered into on this 1st day of July, 2018, by and between ABC Co., Ltd, a company organized and existing under the laws of Japan and having its principal office at [住所] (hereinafter referred to as the “Purchaser”) and XYZ Co., Ltd, a company organized and existing under the laws of the State of New York, Unite States of America and having its principal office at [住所] (hereinafter referred to as the “Seller”);

 

WITNESSETH:

WHEREAS, the Purchaser has been engaged in design, manufacture and sale of [本契約で購入する製品と関係する製品];

 

WHEREAS, the Seller has been engaged in design, manufacture and sale of Products (hereinafter defined); and

 

WHEREAS, the Purchaser desires to purchase from the Seller and the Seller desires to sell to the Purchaser the Products;

 

NOW, THEREFORE, in consideration of the premises and mutual covenants set forth herein, the parties hereto agree as follows:

Vocabulary

make and enter into (契約)を締結する organize ~を設立する exist 存在する principal office 主たる事務所 hereinafter referred to as 以下、~と言う engage ~に従事する design 設計 manufacture 製造 mutually 相互に in consideration of ~の約因として premise 前提 covenant 誓約 set forth in ~に定められている as follows 以下のように

 

本契約は、2018年7月1日に、日本法に基づき設立され、存続しており、「(住所を記入)」に主たる事務所を有しているABC会社(以下、「買主」という)とニューヨーク州法に基づき設立され、存続しており、「(住所を記入)」に主たる事務所を有しているXYZ会社(以下、「売主」という)との間で締結されたものであり、

 

買主は「(本契約で購入する製品と関係する製品を記入)」の設計、製造、および販売に携わっており、

 

売主は製品(以下にて定義される)の設計、製造および販売に携わっており、

 

買主は売主から製品を購入したいと考えており、売主は買主に製品を販売したいと考えている。

 

よってここに、本契約に定める前提および相互の誓約を約因として、両当事者は以下の通り合意する。

この中のin consideration of・・・という記載が、「この取引には約因がありますよ」ということを示す部分ですが、このような記載がなくても、その「取引の実態」として、「約束と約束」、または「約束と行為」があれば、約因があることになります

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