正しいことと楽しいこと

      2023/07/12

 

中学3年生の時のあの日のことを、私は今でも時々思い出します。

 

それは、中学3年生の始業式が終わり、クラスの一年間のスローガンを決める日の出来事です。

 

黒板には、スローガンの候補がいくつか並んで書かれていました。

 

「クラス一丸となって協力し、三冠王を取る!」

 

「みんなでつかもう!三冠王」

 

「最後の中学生活をみんなで最高に楽しいものにしていこう!」

 

こういった感じのものだったと思います。

 

「三冠王」とは、学校で行われる学年別の3つの競技大会全てで優勝する、ということを意味していました。

 

3つの競技大会とは、具体的には、5月に行われる運動会、7月に行われる合唱コンクール、そして10月に行われる球技大会です(確か)。

 

三冠王をとることは、そのクラスが如何に一丸となって頑張ったか、を表すもので、クラス担任の先生の中には、これに並々ならぬ情熱を持つ人もいました。

 

私は3年1組でした。1組のクラス担任の先生は、これまで自分が受け持ったクラスで三冠王を成し遂げたことが無く、「今年こそは!」とかなり意気込んでいました。噂では、三冠王をとれるように、足の速い人やクラスをうまくまとめられる人を自分のクラスに無理やりまとめた、と父兄から言われていたほどでした。

 

そんなクラス担任であることを知っていた私たちは、スローガンには「三冠王」の言葉を入れた方がよい、と思い、上記のような案を考えたのだと思います。

 

一応、いくつかの案が出され、最後は多数決で決めよう、ということになったとき、クラスメートの1人が、クラスで一番のお調子者Aに対して、こう言いました。

 

「おい、A!おまえ、他になんかいい案ねーのかよ!」

 

お調子者Aは、いきなりそんなことを言われて驚いた様子でした。そのときの体の動きもやはりお調子者らしく独特で、クラスメートの多くはその様子を見てクスクスと笑いました。

 

私は、どうせAは何も考えていなかっただろうから、きっと何も答えられないだろう、と思いました。

 

しかし、Aは、少し考えた後、顔をやや斜め上に向けてこう叫びました。

 

「シュワッと三冠王!!!」

 

クラスは一瞬、静寂になり、そしてすぐにクラスでワーっと爆笑が置きました。

 

「なんだよ、シュワッとって!」

 

「真面目に考えろ!この野郎―!!」

 

私は、Aがまたとっさにおかしなことをいうな~、と少し馬鹿にしたような気持ちでした。そしてすかさず、クラス担任の先生の顔を見ました。先生は、この案をどう感じたのかと思ったからです。

 

先生はこの奇妙な案に対して何も言いませんでしたが、顔はにこやかな表情をしていました。

 

私はそれを見て、「先生はAがふざけていることについて怒ってはいないようだ。でも、これをスローガンにすることは認めないだろうな」と思いました。

 

しかし、司会者は、この「シュワッと三冠王!!!」を他のまじめな案の横に書き、それも含めて多数決で決めます、と言いました。

 

すると、「おいおい、それも多数決の中に入れるのかよ~!」とクラスメートの誰かが言いました。そのとき、また、クラスに爆笑が置きました。

 

そして、多数決が始まりました。

 

「「クラス一丸となって協力し、三冠王を取る!」がいいと思う人~?」

 

数人の生徒が手を挙げました。

 

「「みんなでつかもう!三冠王」がいいと思う人~?」

 

これもまた数人が手を挙げました。

 

そして、「「シュワッと三冠王!!!」がいいと思う人~?」と司会者が言った途端、なんと、クラスのほぼ全員が一斉に手を挙げたのです。

 

そして司会者は、手を挙げている人の数を数えることもなく、「今年の1組のクラスのスローガンは、「シュワッと三冠王!!!」に決まりましたー!三冠王目指して頑張りましょう!」と言ったのです。

 

実は、私は、自分がどの案に手を挙げたのか全く覚えていないのです。

 

どうして覚えていないのか、もしかすると私は、「シュワッと三冠王!!!」には手を挙げなかったのかもしれません。そして、他のオーソドックスな真面目な案に手を挙げて、周りから、「相変わらず真面目なやつ。つまんねーの。」と思われたために、気まずい気持ちになり、恥ずかしさのあまり、その時の記憶を意図的に忘れたことにしてしまったのかもしれません。そう思わざるを得ないほど、そのあたりの記憶がないのです。しかし、なんとなくうっすらと、自分が恥ずかしい気持ちになったような記憶があります・・・。

 

 

ともかく、司会者は、「シュワッと三冠王!!!」がその年の1組のスローガンだと言いましたが、最後に決めるのはクラス担任の先生です。

 

先生が、「もっと真面目に考えろ!」と言えば、おそらく多数決はやり直しになったことでしょう。

 

そして私は、おそらくそうなるだろうと思っていたような気がします。いや、それどころか、それを期待していたのかもしれません。

 

しかし、先生は、「決まった?よし、じゃあ、このスローガンをこの模造紙に書いてこのあたりに張っておいてね」と言ったのです。

 

私は驚いて、「え!?中学生活最後のクラスのスローガンがあんなんでいいの?」と本気で思ったような気がします。

 

他のクラスメートは、先生のその言葉に、「よっしゃー!おもしれースローガンになったぜ!!」と大はしゃぎでした。

 

案を出したAは、クラスメートに対して「イェーイ!俺の案で決まったぜ!」と言いながら両手でピースをしていました。

 

その後すぐに、このスローガンは学年で有名になり、他のクラスからわざわざ模造紙にでかでかと迫力ある字で書かれたこのスローガンを見に来る生徒もいました。

 

「いいな~!俺らのクラスもこんなスローガンにしようぜ!」

 

「これ、よく先生が許したな!」

 

「これを考えたのはAか!お前、勇気あるな~!」

 

他のクラスの生徒たちは口々に色々なことを言って、みんなやや興奮していました。

 

そういう言葉を聞いて、1組の生徒たちは誇らしげな顔をしていました。「俺たちのクラスは、こういう楽しいクラスなんだぜ!」という気持ちだったのではないでしょうか。

 

その後、1組は運動会、合唱コンクール、そして球技大会と、実際に三冠王をとりました。まさに、スローガン通りになったのです。

 

 

 

その後私は、高校進学、大学進学、大学院進学、といったように、常に正しい答えを出すことを求められる道を生きてきました。

 

その道では、「楽しい答え」は不正解として、次のステージに進むことはできません。ひたすら正しい答えを覚えるため、導き出すための勉強をしていました。

 

そうしてあの出来事から10年以上が経ち、社会人になってあるとき、私はふと、この出来事を思い出しました。

 

中学1年生の時と2年生の時のスローガンは、もはや全く思い出すことができません。しかし、中学3年生の時のあの日のこととスローガン、そして中学生活最後の1年がとても楽しい日々であったかのようにも思えます。

 

それも、Aがあのとき「シュワッと三冠王!!!」と叫んでくれたおかげです。

 

そしてある時、「そういえば、もう自分は、必ずしも正しい答えを探さないといけない世界にはいないのではないか?」そんな風に思うようになりました。

 

どちらを選ぶべきか?どちらが「正しい答え」で、どちらが「楽しい答え」なのか?

 

 

 

人生においては、仮に間違いだと多くの人から言われても、「楽しい答え」をより多く選んで生きていきたい、そんな風に思う今日この頃です。

 

みなさんは、あえて、「正しい答え」よりも、「楽しい答え」を選んだことはありますか?

 

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