英文契約で「排他的・独占的」(exclusive)とは?
今回は、「排他的な」という意味を表す表現についてご紹介します。
「排他的な」なんて言葉、聞いたことがない、という方は結構いらっしゃるのではないでしょうか。
「漢字から察するに、「他者を排除する」という意味なのだろうな」となんとな~く感じますよね。
この「排他的な」を表す表現は、英語では、exclusiveです。
では、この「他者を排除する」という意味を持つ言葉は、契約書の中でどのような場面で使われるのでしょうか?
exclusiveが使われる3つの場面
大きくは、以下の3つの場面があります。
1.契約相手に対してある権利・特権を与える場合に、「この権利・特権は、あなたにだけ与えますよ(他には与えません!)」と約束する場合
2.複数の契約当事者が何かを一緒に協力してやっていこうとする場合に、「他の企業や他の人と組まないでね。俺たちだけでこの件はやっていこうね!」と約束する場合
3.一方当事者による契約違反によって損害を被った他方当事者が相手方に対して持ち得る救済方法が一つしかないことを明記する場合(「あなたが得られる救済方法はそれだけです!」ということ)
以下、一つずつ解説していきます(今回は上記の1の場合のみ解説し、2および3は次回以降で解説します)。
「契約相手に対してある権利・特権を与える場合に、「この権利・特権は、あなたにだけ与えますよ(他には与えません!)」と約束する場合」
これは、例えば、次のような場合です。
ライセンス契約における排他的実施許諾
あなたの会社が、A国の企業から、あなたの会社が製造しているある製品に関する技術について、その製品をA国で設計・製造・販売するためにライセンスしてほしいと頼まれました。(ライセンスするということは、「技術を使っていいよ」と許諾することです)
あなたの会社は、「まあ、自分たちはA国でその製品をこれまで売ってたわけでもないし、今後もその予定はないし、ライセンスしてもいいかな」と思いました。
そこで、両者はライセンス契約を締結するための協議を開始しました。
そのときに必ず問題になるのが、「ライセンスを排他的なものにするか、それとも非排他的なものにするか」です。
「排他的なライセンス」にするということは、「この技術をA国で使うことをライセンスするのは、あなたにだけですよ」とすることです。つまり、後に、また別の企業が同じ内容のライセンスを求めてきた場合、あなたの会社は後から求めてきたその企業に対してライセンスしてはいけないことになります。
※A国以外の国でその技術を使って製品を設計・製造・販売することをライセンスすることは禁止されません。
以下、例文です。
The Licensor hereby grants to the Licensee an exclusive license and right to use the Technical Information in order for the Licensee to design, manufacture and sell the Product in country A.
訳:ライセンサー(ライセンスする当事者)は、本契約により、ライセンシー(ライセンスされる当事者)に対して、ライセンシーがA国で製品を設計、製造および販売するために技術情報を実施する排他的なライセンスを許諾する。
なお、「非排他的なライセンス」は、non-exclusive licenseと言います。
では、exclusiveともnon-excusiveとも明記しなかった場合、つまり、単にthe licenseを許諾する、と定めた場合、排他的と非排他的のどちらとして扱われることになるのでしょうか。
この点、おそらく、exclusiveと明記されていない限り、「非排他的なライセンス」と扱われるのだろうと思われます。
しかし、この排他的か非排他的かはライセンス契約の重要ポイントの一つなので、そのどちらであるのかを明記しないというのは避けるべきです。後日、相手方から、「こっちは排他的だと思ってた!」と言われる余地を残してしまうことになります。そのような主張に対してメールで対応したり、相手方と電話会議を開いたりするのも面倒です。要は、ライセンス契約に、exclusiveかnon-exclusiveなのかを明記すれば足りることなのです。
よって、「exclusiveと書かない限り排他的とは扱われないはずだ!」としてあえてnon-exclusiveとも明記しない、なんてことはせずに、しっかりと定めましょう。
ちなみに、ライセンス契約に関するどの参考書の例文にも、exclusiveかnon-exclusiveかを明記していないものはまず見たことがありません。
M&A契約締結に向けた交渉・協議段階における独占交渉権
企業買収案件では、長期間、買おうとする企業と買われる側の株主は交渉・協議をすることになるのが通常です。
その交渉・協議中に、買われる側の企業の株主が、実は同時に他の企業とも協議をしていて、「やっぱり、他の企業に売ることにする」と突然言い出されるのは、買おうとする側の企業としては嫌ですよね。
買おうとする側の企業は、「少なくとも、ある一定期間は、自分達だけと交渉・協議して欲しい」と思うでしょう。
そこで、買収契約のための交渉・協議のために結ばれる覚書(MOU)中に、「買われる側の会社の株主は、この期間はexclusiveに交渉すること」といった条文が定められることがあります。
つまり、「私達(買われる企業の株主)とこの期間交渉できる特権をあなた(買おうとする企業)にだけ与えます!」という条文です。この特権を優先交渉権とか独占交渉権(exclusive rightまたはexclusivity)と言います。
目次 | ||
第1回 義務 | 第10回 ~に関する | 第19回 知らせる |
第2回 権利 | 第11回 ~の場合 | 第20回 責任 |
第3回 禁止 | 第12回 ~の範囲で、~である限り | 第21回 違反する |
第4回 ~に定められている、~に記載されている | 第13回 契約を締結する |
第22回 償還する |
第5回 ~に定められている、~に記載されている (補足) | 第14回 契約締結日と契約発効日 | 第23回 予定された損害賠償額(リキダメ、LD) |
第6回 ~に従って | 第15回 事前の文書による合意 | 第24回 故意・重過失 |
第7回 ~に関わらず | 第16回 ~を含むが、これに限らない | 第25回 救済 |
第8回 ~でない限り、~を除いて | 第17回 費用の負担 | 第26回 差止 |
第9回 provide | 第18回 努力する義務 | 第27回 otherwise |
第28回 契約の終了 |
第38回 権利を侵害する | 第48回 遅延利息 |
第29回 何かを相手に渡す、与える |
第39回 保証する | 第49回 重大な違反 |
第30回 due |
第40回 品質を保証する | 第50回 ex-が付く表現 |
第31回 瑕疵が発見された場合の対応 | 第41回 補償・品質保証 | 第51回 添付資料 |
第32回 ~を被る | 第42回 排他的な | 第52回 連帯責任 |
第33回 ~を履行する | 第43回 | 第53回 ~を代理して |
第34回 果たす、満たす、達成する | 第44回 | 第54回 下記の・上記の |
第35回 累積責任 | 第45回 瑕疵がない、仕様書に合致している | 第55回 強制執行力 |
第36回 逸失利益免責条項で使われる様々な損害を表す表現 | 第46回 証明責任 | 第56回 in no event |
第37回 補償・免責 | 第47回 indemnifyとliableの違い | 第57回 for the avoidance of |
第58回 無効な | 第68回 representations and warranties | |
第59回 whereについて | 第69回 material adverse effect | |
第60回 in which event, in which case | 第70回 to the knowledge of | |
第61回 株主総会関係 | 第71回 GAAP | |
第62回 取締役・取締役会関係 | 第72回 covenants | |
第63回 indemnifyとdefendの違い | ||
第64回 Notwithstandingと責任制限条項 | ||
第65回 M&Aの全体の流れ | ||
第66回 conditions precedent | ||
第67回 adjustment |
【私が勉強した参考書】