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英文契約で「強制執行力」とは?

2023/07/26
 

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今回は、「強制執行力」を意味する表現についてご紹介します。

 

「強制執行力」とは何か?

 

強制執行とは、一体何なのでしょうか?

 

強制」は、無理矢理、といった意味ですよね。

 

執行」は、例えば、「刑の執行」という言葉を聞いたことがあると思います。つまり、「何かを実行すること」といった程度の意味でしょうか。

 

となると、「強制執行」とは、「無理矢理何かを実行すること」という意味でしょうか・・・。

 

実は、「強制執行」とは、次のような意味です。

 

債務名義にあらわされた私法上の請求権の実現に向けて国が権力(強制力)を発動し、真実の債権者に満足を得させることを目的とした法律上の制度

 

「・・・難し!」

 

 

と思われた方も多いと思いますので、具体例を用いてご説明したいと思います。

 

今、あなたと私の間で、ある物の売り買いについての契約、売買契約を締結したとします。

 

あなたが売主、私が買主とします。

 

あなたは、ちゃんと、契約書に定められている納期までに私にその製品を渡してくれました。

 

契約書によると、私は製品を引き渡された時点で代金を支払わなければならないことになっていました。

 

しかし、私は、「今はお金がない」といって、代金を支払いませんでした。

 

そして、そのまま、数ヶ月間代金を支払わずにいます。

 

あなたは、「いい加減、払え!」と私に対して思います。当然ですよね。

 

しかし、私は、あなたからの度重なる請求をことごとく無視しました。というのも、払いたくなくなってしまったから。そりゃ、お金くらいあります。でも、払いたくなくなったんです。このままずっと電話もメールも無視して、家に直接来た時には居留守を使って、あなたがあきらめるのを待とう!と固く決心したんです。

 

さて、ここで、あなたは何をすることができるでしょうか?

 

警察に言う?

 

いや、たぶん、警察はこういう時、何もしてくれないと思います。

 

というのも、私は罪を犯したわけではないですから。

 

その代わり、警察はたぶんこう言ってくれるかもしれません。

 

そういうのは、弁護士に相談した上で、民事裁判所に訴えるものだよ」と。

 

そこであなたは、弁護士に相談し、民事裁判所に訴えました。

 

その結果、確かにあなたの主張は正しいことがわかり、裁判所は、私に対して、「製品の代金と、これまでの遅延利息分を支払え」という判決を下しました。

 

めでたし、めでたし・・・。

 

と、思いきや、私は、判決をも無視することに決めました。

 

「裁判所が何?関係ねえや。裁判所で「支払え」と確かに言われたけど、俺は人の言うことを簡単に聞くような人間じゃあないんだ!」という気持ちです。これまでもあなたからのメールも電話も、直接の訪問も無視してきました。それが裁判所の判決になっても同じです。

 

さて、私がこのような態度をとったら、どうなるのでしょうか?

 

このような、裁判所の判決をも無視するような人には、もはや、誰が何を言っても無駄です。

 

そう。言葉で言ってもいうことをきかない人には、昔から、力ずくで行くしかありません

 

この場合は、裁判所が、執行官という人たちを私の家に行かせ、その執行官が私の家にずかずかと入り込み、金目の物を探して、それを持ち出し、競売にかけていくらかにして、そこからあなたに代金分をあげるのです。

 

これが、「強制執行」です。

 

そして、この強制執行をすることができる力を「強制執行力」と言います。

 

 

強制執行力の重要性

 

小学校の時に、どんなに先生に注意されても悪ふざけをやめない生徒がクラスには何人かいるものです。

 

そういう人は、「先生に言いつけてやる」、と言われようが、親から怒鳴りつけられようが、関係ないのです。

 

そして、社会には、それがもっとエスカレートして、裁判所の判決をも無視する人がいたり、会社があるのです

 

そういう人たちや会社に無理矢理いうことをきかせる、結果的に従わせる、それが、強制執行なのです。

 

これがないと、世の中のルールを守らない人に契約を守らせることができません。

 

その意味で、「強制執行」は、最後の手段ではあるものの、これがないと、不誠実な債務者に、「契約に違反してもいいや」と思われてしまう大事なものです。

 

そして、この「強制執行力」は、「法的拘束力」と言われるものとほぼ同義です。

 

法的拘束力がある合意」とは、つまり、「義務を果たそうとしない債務者に、強制執行することができる契約書」ということです。

 

そして、「法的拘束力のない合意」は、つまり、契約違反をしても、強制執行をすることができない約束、という意味です。つまり、ただの紙っぺら、ということになります。

 

 

強制執行力を意味する表現

 

これは、enforceabilityと書きます。

 

また、「強瀬執行力のある」という形容詞は、enforceableと書きます。

 

そして、「強制執行力がない」は、unenforceableと書きます。

 

ちなみに、「法的拘束力のある」は、bindingで、その逆の意味、つまり、「法的拘束力のない」はnon-bindingです。

 

下の条文は、一般条項の一つで「分離条項」と呼ばれるものです。

 

実は、英文契約書で、「強制執行力」という表現は、この条文以外でほとんど出てきません。では、なぜ今回そのような滅多に出てこない文言をご紹介したのかと言いますと、「強制執行力(法的拘束力)があることが、契約書の本質だ。強制執行力(法的拘束力)があるからこそ、最終的に約束が守られることになる」という点を理解していただきたかったからです。

 

条文:

If any of the provisions contained in this Agreement is declared invalid, illegal, or unenfoceable in any respect under any applicable law, then the validity, legality, and enforceability of the remaining provisions contained in this Agreement is not in any way affected or impaired.

 

訳:

本契約の一部の条項が、法律により無効、違法、または執行不能と判断された場合でも、本契約上のその他の条項の有効性、合法性または執行力は何らの影響も受けない。

 

目次
第1回 義務 第10回 ~に関する 第19回 知らせる
第2回 権利 第11回 ~の場合 第20回 責任
第3回 禁止 第12回 ~の範囲で、~である限り 第21回 違反する
第4回 ~に定められている、~に記載されている 第13回 契約を締結する  

第22回 償還する

第5回 ~に定められている、~に記載されている (補足) 第14回 契約締結日と契約発効日 第23回 予定された損害賠償額(リキダメ、LD)
第6回 ~に従って 第15回 事前の文書による合意 第24回 故意・重過失
第7回 ~に関わらず 第16回 ~を含むが、これに限らない 第25回 救済
第8回 ~でない限り、~を除いて 第17回 費用の負担 第26回 差止
第9回 provide 第18回 努力する義務 第27回 otherwise

 

 

第28回 契約の終了

第38回 権利を侵害する 第48回 遅延利息
 

第29回 何かを相手に渡す、与える

第39回 保証する 第49回 重大な違反
 

第30回 due

第40回 品質を保証する 第50回 ex-が付く表現
第31回 瑕疵が発見された場合の対応 第41回 補償・品質保証 第51回 添付資料
第32回 ~を被る 第42回 排他的な 第52回 連帯責任
第33回 ~を履行する 第43回 第53回 ~を代理して
第34回 果たす、満たす、達成する 第44回 第54回 下記の・上記の
第35回 累積責任 第45回 瑕疵がない、仕様書に合致している 第55回 強制執行力
第36回 逸失利益免責条項で使われる様々な損害を表す表現 第46回 証明責任 第56回 in no event
第37回 補償・免責 第47回 indemnifyとliableの違い 第57回 for the avoidance of
 
第58回 無効な 第68回 representations and warranties
第59回 whereについて 第69回 material adverse effect
第60回 in which event, in which case 第70回 to the knowledge of
第61回 株主総会関係 第71回 GAAP
第62回 取締役・取締役会関係 第72回 covenants
第63回 indemnifyとdefendの違い
第64回 Notwithstandingと責任制限条項
第65回 M&Aの全体の流れ
第66回 conditions precedent
第67回 adjustment

 

【私が勉強した参考書】

基本的な表現を身につけるにはもってこいです。

ライティングの際にどの表現を使えばよいか迷ったらこれを見れば解決すると思います。

アメリカ法を留学せずにしっかりと身につけたい人向けです。契約書とどのように関係するかも記載されていて、この1冊をマスターすればかなり実力がupします。 英文契約書のドラフト技術についてこの本ほど詳しく書かれた日本語の本は他にありません。 アメリカ法における損害賠償やリスクの負担などの契約の重要事項についての解説がとてもわかりやすいです。

 

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