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本郷塾で学ぶ英文契約

under no circumstances

2023/07/20
 

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英文契約基礎から実践講座

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英文契約・契約英語の社内研修をオンラインで提供しています。本郷塾の代表本郷貴裕です。 これまで、英文契約に関する参考書を6冊出版しております。 専門は海外建設契約・EPC契約です。 英文契約の社内研修をご希望の方は、お問合せからご連絡ください。
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今回は、英文契約書の中でよく見かける、「in no event」と「under no circumstances」という表現についてお話ししたいと思います。

 

まず、次の例文を見ていただきたいと思います。

 

The Seller shall in no event be liable to the Purchaser for loss of profit or for any indirect, special or consequential loss or damages suffered by the Purchaser due to the Seller’s breach of the Contract.

 

訳:売主は、売主の本契約の違反によって買主が被った逸失利益、間接損害、特別損害、結果損害について決して責任を負うものではない

 

ここのin no eventは、「決して~でない」という意味です。

 

つまり、否定を強調しているのです。

 

では、もしも上記の条文が、次のようなものであったらどうでしょうか?

 

The Seller shall not be liable to the Purchaser for loss of profit or for any indirect, special or consequential loss or damages suffered by the Purchaser due to the Seller’s breach of the Contract.

 

最初の例文のin no eventの部分を単なるnotに置き換えただけです。

 

訳すと、「売主は、自己の本契約の違反によって買主が被った逸失利益、間接損害、特別損害、結果損害について責任を負うものではない。」となります。

 

2つの日本語訳を比較すると、「決して」という文言がなくなっただけです。

 

ここで問題です。

 

上記2つの条文は、法的な効果に違いがあるのでしょうか

 

 

 

答えは、「違いはない」です。

 

「決してない」と「ない」は、法的には同じ意味なのです。

 

「決してない」は例外を一切認めない意味であり、「ない」だけだと、例外的に否定されない場合があり得る、というような違いはないのです。

 

もしも上記の様な違いが効果として認められるなら、私たちは、契約書中で否定したい場合には、常にin no eventを使わないと危なくてしょうがない、ということになってしまいます。

 

結論として、in no eventと単なる否定は、同じと考えてよいです。

 

とすると、次のように考えられないでしょうか?

 

「in no event」なんて文言は、不要!使う必要はない!ていうか、こんな文言、誰が英文契約書中で使い始めた?混乱するだろうが!

 

その通りです。

 

むしろ、in no eventなんて使うと、単に文字数が増えるだけです。

 

では、どうして英文契約書では、ときどきin no eventなんて余計な文言が使われ続けているのでしょうか?

 

それはわかりません。

 

ただ、私は次のように考えています。

 

人間は、感情の生き物だから。

 

人は、単に「ない」と書くだけではなんだか物足りない!あえて強調しておきたい!

 

という気持ちになるときがあるのです。

 

たとえそれが法的な効果として違いを生じさせるものではないと知っていても、つい、強く言いたくなる時があるのです。

 

そのためでしょうか。

 

このin no eventは、通常、特に重要な場面でしか使われていません。

 

その代表例が、損害賠償の制限についての条文です。

 

損害賠償の原則からすると、相手方に生じさせた損害は合理的な因果関係が認められる限り負わなければなりません。

 

しかし、その原則を覆し、損害賠償の上限を付けたり、逸失利益を免責する条文については、「決して、そのような賠償責任を負うものではない」と強調されていることが多いです。

 

これは、under no circumstancesも同じです。

 

こんな表現、法的には普通の否定文と同じです。しかし、「いかなる状況においてもない!」と強調したくなるのです。

 

というわけで、今回理解していただきたいのは、「in no event」も「under no circumstances」も無理して使う必要はない、ということです。

 

もちろん、使っても大丈夫です。

 

 

・・・それにしても、契約書という一見無味乾燥に思える法律文書にさえ、人は感情を入れたくなるということは、結局人は、どこまで行っても、感情の生き物なんだな、と思わせられますね・・・。

 

目次
第1回 義務 第10回 ~に関する 第19回 知らせる
第2回 権利 第11回 ~の場合 第20回 責任
第3回 禁止 第12回 ~の範囲で、~である限り 第21回 違反する
第4回 ~に定められている、~に記載されている 第13回 契約を締結する  

第22回 償還する

第5回 ~に定められている、~に記載されている (補足) 第14回 契約締結日と契約発効日 第23回 予定された損害賠償額(リキダメ、LD)
第6回 ~に従って 第15回 事前の文書による合意 第24回 故意・重過失
第7回 ~に関わらず 第16回 ~を含むが、これに限らない 第25回 救済
第8回 ~でない限り、~を除いて 第17回 費用の負担 第26回 差止
第9回 provide 第18回 努力する義務 第27回 otherwise

 

 

第28回 契約の終了

第38回 権利を侵害する 第48回 遅延利息
 

第29回 何かを相手に渡す、与える

第39回 保証する 第49回 重大な違反
 

第30回 due

第40回 品質を保証する 第50回 ex-が付く表現
第31回 瑕疵が発見された場合の対応 第41回 補償・品質保証 第51回 添付資料
第32回 ~を被る 第42回 排他的な 第52回 連帯責任
第33回 ~を履行する 第43回 第53回 ~を代理して
第34回 果たす、満たす、達成する 第44回 第54回 下記の・上記の
第35回 累積責任 第45回 瑕疵がない、仕様書に合致している 第55回 強制執行力
第36回 逸失利益免責条項で使われる様々な損害を表す表現 第46回 証明責任 第56回 in no event
第37回 補償・免責 第47回 indemnifyとliableの違い 第57回 for the avoidance of
 
第58回 無効な 第68回 representations and warranties
第59回 whereについて 第69回 material adverse effect
第60回 in which event, in which case 第70回 to the knowledge of
第61回 株主総会関係 第71回 GAAP
第62回 取締役・取締役会関係 第72回 covenants
第63回 indemnifyとdefendの違い
第64回 Notwithstandingと責任制限条項
第65回 M&Aの全体の流れ
第66回 conditions precedent
第67回 adjustment

 

【私が勉強した参考書】

基本的な表現を身につけるにはもってこいです。

ライティングの際にどの表現を使えばよいか迷ったらこれを見れば解決すると思います。

アメリカ法を留学せずにしっかりと身につけたい人向けです。契約書とどのように関係するかも記載されていて、この1冊をマスターすればかなり実力がupします。 英文契約書のドラフト技術についてこの本ほど詳しく書かれた日本語の本は他にありません。 アメリカ法における損害賠償やリスクの負担などの契約の重要事項についての解説がとてもわかりやすいです。

 

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