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約因(consideration)とは?

2024/01/07
 

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約因は重要か?~約因の位置づけ~

日本の法律の下では、契約は、当事者間で約束を交わせば成立します。

 

しかし、英米法の下では、そうではない、といわれます。「約因」(consideration)が必要だとされています。

 

約因とは何か?これは、英文契約書の参考書であればどれにでも説明されています。それだけ重要だということでしょう。

 

しかし、この約因の有無が、特に企業に勤める方々にとって問題になることはまずありません。

 

というのは、日系企業が海外の企業との間で行う取引は、約因があるのが普通だからです。

 

よって、「約因とは何か?」を知らなくても、困ることはまずありません。

 

しかし、「約因がないと契約は成立しない」といわれると、「果たして、今、自分が行おうとしている取引に約因はあるのだろうか?契約書に何か特別な記載をしておかないと、あとになって契約は成立していない、だから、お金を支払わない、とか相手から言われたら困るな・・・」と感じて不安になってしまうこともあるでしょう。

 

というわけで、前置きが長くなりましたが、「別に知らなくても本当は困らないのだけれど、知っておいた方が、気が楽になる」という、そんな約因について以下に説明します。

 

約因とは何か?

約因とは、「一方の約束を導き出す原因となった相手方の約束や行為」です。

 

これだけだと難しいので、例を示しましょう。

 

売買を考えてみます。これは、売主がモノやサービスを買主に提供することを約束するものです。ここで、なぜ、売主は、買主にモノやサービスを提供しようと考えるのでしょうか?

 

それは、買主が、お金を支払ってくれると約束するからです。買主がお金を支払うといわなければ、売主も何も提供しようと思わないでしょう。

つまり、「一方(売主)の約束(モノやサービスを提供すること)を導き出す原因となった相手方(買主)の約束(お金を払うこと)や行為

 

となるので、「売買には約因がある」といえます。

 

となると、これは売買に限らないことがわかると思います。

 

一方の当事者が、相手方に何かを提供するのに対して、相手方がその対価を支払う、という場合には、全て約因が存在することになるのです。

 

つまり、ライセンス契約であろうが、企業買収契約であろうが、約因があるのです。

 

よって、企業が普通に行う取引においては、約因がない、ということはまず起こらないのです。

 

片務的な秘密保持契約の約因の有無について

しかし、ここでこう思った人もいることでしょう。

片務的な秘密保持契約は、約因がないのではないか?

 

というのも、片務的な秘密保持契約=一方の当事者だけが秘密保持義務を負う場合には、「情報を秘密にします」という約束をするのは片方の当事者だけで、もう片方の当事者は何も約束をしないからです(※もう片方の当事者は、「情報を提供します」という約束は普通はしません)。これでは、「一方の約束を導き出す原因となった相手方の約束や行為」があるとはいえない!つまり、約因はないではないか!・・・と。

 

しかし、結論からいえば、この片務的な秘密保持契約にも、約因はあります。実際、片務的な秘密保持契約は毎日のように世界中で結ばれています。それらが実は契約として成立していなかった、などという問題になることはありません。よって、理由はともかく、約因はあるわけです。

 

では、その理由は何でしょう?

 

ポイントは、約因とは、「一方の約束を導き出す原因となった相手方の約束や行為」の中の「行為」の部分です。つまり、お互いに約束をし合う関係になくても、片方が何らかの行為をするなら、約因がある、といってよいのです。

 

片務的な秘密保持契約における「行為」とは何でしょうか?

 

それは、「情報を提供する」というものです(※繰り返しますが、これは「約束」ではありません。情報を提供してもしなくてもどちらでもよいのです)。

 

つまり、片方の当事者は、「秘密情報を秘密にする」と約束します。これは、「相手が秘密情報を開示・提供したら」です。相手から何も提供されないのであれば、秘密にするものは何もありません。相手による「情報を提供するという行為」が前提としてあって、片方の当事者はそれを「秘密にすると約束する」ことになります。

 

というわけで、約因は、約束が2つなければならないわけではなく約束は1つで、その代わり、その約束を導き出すことになる相手方の何らかの「行為」があればよいので、片務的な秘密保持契約でも、約因がある、ということになります。

 

約因の経済的な価値のつり合いについて

ちなみに、約因は、約束と約束、または約束と行為が、経済的に同じ程度のものでなければならないわけではありません

 

例えば、売買において、客観的には経済的価値がまったくないようなツボについて、すさまじい金額を出して買う、という場合でも、約因はあることになります。「約束と約束」、または「約束と行為」があればよいのです。

 

契約書中の約因の記載について

さらに、約因がその取引についてある旨は、契約書中に明記されていなくても問題ありません

 

契約書の頭書には、以下のような記載があるのが通常です。

This Agreement, made and entered into on this 1st day of July, 2018, by and between ABC Co., Ltd, a company organized and existing under the laws of Japan and having its principal office at [住所] (hereinafter referred to as the “Purchaser”) and XYZ Co., Ltd, a company organized and existing under the laws of the State of New York, Unite States of America and having its principal office at [住所] (hereinafter referred to as the “Seller”);

WITNESSETH:

WHEREAS, the Purchaser has been engaged in design, manufacture and sale of [本契約で購入する製品と関係する製品];

 

WHEREAS, the Seller has been engaged in design, manufacture and sale of Products (hereinafter defined); and

 

WHEREAS, the Purchaser desires to purchase from the Seller and the Seller desires to sell to the Purchaser the Products;

 

NOW, THEREFORE, in consideration of the premises and mutual covenants set forth herein, the parties hereto agree as follows:

 

Vocabulary

make and enter into (契約)を締結する organize ~を設立する exist 存在する principal office 主たる事務所 hereinafter referred to as 以下、~と言う engage ~に従事する design 設計 manufacture 製造 mutually 相互に in consideration of ~の約因として premise 前提 covenant 誓約 set forth in ~に定められている as follows 以下のように

 

本契約は、2018年7月1日に、日本法に基づき設立され、存続しており、「(住所を記入)」に主たる事務所を有しているABC会社(以下、「買主」という)とニューヨーク州法に基づき設立され、存続しており、「(住所を記入)」に主たる事務所を有しているXYZ会社(以下、「売主」という)との間で締結されたものであり、

買主は「(本契約で購入する製品と関係する製品を記入)」の設計、製造、および販売に携わっており、

売主は製品(以下にて定義される)の設計、製造および販売に携わっており、

買主は売主から製品を購入したいと考えており、売主は買主に製品を販売したいと考えている。

よってここに、本契約に定める前提および相互の誓約を約因として、両当事者は以下の通り合意する。

 

この中のin consideration of・・・という記載が、「この取引には約因がありますよ」ということを示す部分ですが、このような記載がなくても、その「取引の実態」として、「約束と約束」、または「約束と行為」があれば、約因があることになります

なお、以下のyoutube動画でも、今回ご紹介した約因(consideration)について詳しく解説しているので、ご覧ください。

youtube解説動画 約因(consideration)

 

目次
第1回 義務 第10回 ~に関する 第19回 知らせる
第2回 権利 第11回 ~の場合 第20回 責任
第3回 禁止 第12回 ~の範囲で、~である限り 第21回 違反する
第4回 ~に定められている、~に記載されている 第13回 契約を締結する  

第22回 償還する

第5回 ~に定められている、~に記載されている (補足) 第14回 契約締結日と契約発効日 第23回 予定された損害賠償額(リキダメ、LD)
第6回 ~に従って 第15回 事前の文書による合意 第24回 故意・重過失
第7回 ~に関わらず 第16回 ~を含むが、これに限らない 第25回 救済
第8回 ~でない限り、~を除いて 第17回 費用の負担 第26回 差止
第9回 provide 第18回 努力する義務 第27回 otherwise

 

 

第28回 契約の終了

第38回 権利を侵害する 第48回 遅延利息
 

第29回 何かを相手に渡す、与える

第39回 保証する 第49回 重大な違反
 

第30回 due

第40回 品質を保証する 第50回 ex-が付く表現
第31回 瑕疵が発見された場合の対応 第41回 補償・品質保証 第51回 添付資料
第32回 ~を被る 第42回 排他的な 第52回 連帯責任
第33回 ~を履行する 第43回 第53回 ~を代理して
第34回 果たす、満たす、達成する 第44回 第54回 下記の・上記の
第35回 累積責任 第45回 瑕疵がない、仕様書に合致している 第55回 強制執行力
第36回 逸失利益免責条項で使われる様々な損害を表す表現 第46回 証明責任 第56回 in no event
第37回 補償・免責 第47回 indemnifyとliableの違い 第57回 for the avoidance of
 
第58回 無効な 第68回 representations and warranties
第59回 whereについて 第69回 material adverse effect
第60回 in which event, in which case 第70回 to the knowledge of
第61回 株主総会関係 第71回 GAAP
第62回 取締役・取締役会関係 第72回 covenants
第63回 indemnifyとdefendの違い
第64回 Notwithstandingと責任制限条項
第65回 M&Aの全体の流れ
第66回 conditions precedent
第67回 adjustment

【私が勉強した参考書】

基本的な表現を身につけるにはもってこいです。

ライティングの際にどの表現を使えばよいか迷ったらこれを見れば解決すると思います。

アメリカ法を留学せずにしっかりと身につけたい人向けです。契約書とどのように関係するかも記載されていて、この1冊をマスターすればかなり実力がupします。 英文契約書のドラフト技術についてこの本ほど詳しく書かれた日本語の本は他にありません。 アメリカ法における損害賠償やリスクの負担などの契約の重要事項についての解説がとてもわかりやすいです。
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