フロートとは何か?
前回までは、クリティカルパスについて学びました。
今回は、クリティカルパスと密接な関係を持つ「フロート」について学びましょう!
フロートとは?(トータルフロート)・・・「余裕」のこと!
Delay Analysisを行う際に、必ず登場する言葉として、クリティカルパスとフロートというものがあります。これはfloatと書きます。
フロートとは何でしょう?webで検索すると、色々な意味が上がってきますが、Delay Analysisで登場する場合のフロートとは、簡単にいえば「バッファ」です。「余裕」といってもよいかもしれません。
この点、Delay Analysisの専門書では、フロートを次のように定義しています。
“the time by which an activity may be delayed or extended without affecting the total project duration.”
「トータルのプロジェクト期間に影響を及ぼすことなく、ある作業が遅れる、または延長され得る時間」
つまり、「工程のどこかの仕事が遅れたとしても、それによって納期が遅れずに済む期間」という意味です。例えば、以下の工程表中にフロートを示します。
いかがでしょう?S2の工程中の仕事bや仕事dが数日遅れても、全体の納期(3カ月目)には全く影響が出ませんよね。この部分がフロートです。
こうしてみると、フロートとは、クリティカルパス上には存在せず、クリティカルパスではない工程上に存在するものであることがわかります。そして、クリティカルパスではない工程が何らかの理由で遅れると、このフロートは以下の図のようにその分減っていきます。
最終的に全てのフロートが消費された結果、その工程上のフロートがゼロになるとどうなるでしょう?この場合には、フロートがゼロになるまで減ってしまったその工程がクリティカルパスとなるのです。以下の図では、S1とS2の二つがクリティカルパスになります。
では、ここから更にS2の工程が遅れるとどうなるか?それは、以下の図のように、S2のみがクリティカルパスになるのです。そして、これまでクリティカルパスだったS1の工程がクリティカルパスではなくなり、逆にフロートを持つようになります。
まず、フロートとは、「納期に遅れを生じさせることなくある仕事を遅らせることができる期間」を指し、それは「クリティカルパスではない工程上にある」という点を理解しましょう。
ちなみに、英語では、このフロートが減っていくことを、the float is used、the float is reduced, the float is consumedなどといった表現で表されます。
おさらい
ここで、これまでのおさらいです。
納期延長クレームは、どのような遅れが生じた場合にコントラクターがなし得るのか?
それは、クリティカルパスである工程上の仕事が遅れたとき。
なぜなら、そのような遅れの場合にだけ、契約上の納期に影響が出るから。
ここで、クリティカルパスではない工程が遅れ、フロート部分が消費される形で遅れが生じている場合には、納期に影響が出ないので、Extension of Time(EOT)、つまり、納期を延長する必要はない。
つまり、コントラクターは納期延長クレームを行うことはできない(行う必要がない)ということになります。
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EPC/建設契約の解説書 | EPC/建設契約の解説書 | 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方 |
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納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 | 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 | 英国におけるDelay Analysisに関する指針 |
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Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol
2nd edition February 2017 |