EPC契約における危険の移転時期とその例外
2019/11/18

危険とは?
プラントの検収の効果の一つに、プラントの危険がコントラクターからオーナーに移転する、というものがあります。
この危険の移転とは何でしょうか?
これは、EPC契約のいずれの当事者の原因でもない出来事によって、プラントが毀損・消滅した場合に、どちらの当事者がその毀損・消滅について責任を負うのか、というものです。
危険の移転時期
この危険を誰が負うのかは、EPC契約当事者間の合意で決めることができます。
この点、危険は、プラントの検収まではコントラクターが負い、検収後はオーナーが負うとされているのが一般的です。
その理由は、プラントの検収までの間は、そのプラントを支配・管理しているのはコントラクターだからです。
一方、検収されれば、そのプラントを支配・管理しているのはオーナーになりますし、また、その段階に至れば、オーナーはプラントを運転して利益を得ることができます。利益を得るものが危険をも負担するとするのが公平でしょう。
そのため、検収後はオーナーが危険を負担する、というのが一般的です。
危険の移転時期の例外(支配・管理の観点からの例外)
もっとも、これにはいくつか例外があります。
まず、プラントが検収されたとしても、プラントの一部については未だコントラクターが修理する責任を負っている部分がある場合、その部分の支配・管理はオーナーに移転したとは言えません。
そのため、そのような未だコントラクターが修理している部分については、検収後といえども、コントラクターにある、と定められているのが通常です。
また、検収後に開始した保証期間中に瑕疵が発見され、その瑕疵をコントラクターが修理・交換している間は、その瑕疵部分についての危険はコントラクターにあると定められていることが通常です。
この理由も、瑕疵部分の支配・管理がコントラクターにあるためです。
危険の移転時期の例外(保険の観点からの例外)
さらに、戦争、侵略行為、暴動、革命、騒擾、飛行機による圧力波等が原因でプラントが毀損・消滅した場合には、検収前であろうとも、オーナーが危険を負担する、そして、この場合に、オーナーがコントラクターに修理するように要求したら、それをコントラクターが修理し、それにかかった費用をオーナーに負担してもらう、と定められているEPC契約が多いです。
この理由は、戦争、侵略行為、暴動、革命、騒擾、飛行機による圧力波等には保険が適用されないためです。
保険会社が保険の対象外とする事由は、保険会社がそのリスクを金銭的に見積もることができないものです。
つまり、保険会社にとっても、リスクを回収できないと考えているものなのです。
そのような危険については、コントラクターも負担できるはずがありません。保険のプロですら負えないリスクをコントラクターに負わせるのは不公平です。
このようなリスクについては、「プラントを建設したい!」と考えるオーナーに負ってもらうのが公平だ、という考えから、上記の様な扱いになっています。
危険の負担についての条文では、いつ危険が移転するのか、そして戦争、侵略行為、暴動、革命、騒擾、飛行機による圧力波等の保険でカバーされないような事由は、常にオーナーが危険を負担することが明記されているかを確認するようにしてください。
EPC契約のポイントの目次
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EPC/建設契約の解説書 | EPC/建設契約の解説書 | 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方 |
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 | 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 | 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。 |
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 | 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 | 英国におけるDelay Analysisに関する指針 |
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 | 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 | 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。 |
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol
2nd edition February 2017 |