納期LDの上限とオーナーの解除権について
納期LDは、遅れた全期間分を支払わないといけないのか?
「納期遅延のLDを定めると、10日遅れたらいくら、30日遅れたらいくら、と自動的に損害賠償額を計算できることはわかった。となると、1年遅れたら365倍、10年遅れたら3650倍になるの?」
納期LDについて、このような疑問を持たれた方もいるかもしれません。
このご質問への答えは、「個別のEPC契約による」というものです。
どういうことかと言いますと、EPC契約で納期遅延のLDを定めている場合には、「LDの上限額」も併せて定められていることが多いのです。
例えば、「本契約に基づく納期遅延のLDは、契約金額の20%を上限とする」という定めです。
また、このような条文がなくても、「本契約に基づくコントラクターの損害賠償責任は、契約金額の100%を上限とする」という定めがあることが多いです。
よって、「納期に1日遅れたらいくらを損害賠償金額とする」という定めがあったとしても、常にそれに基づいて算出された金額をコントラクターが支払わなければならないことにはならない場合もあります。
納期LDに上限を付けるって、オーナーにとって不利じゃない?
これを聞くと今度は、「え?それって、オーナー側にとって不公平じゃない?だって、納期遅延のLDの上限に到達したら、後はどんなに遅れても、コントラクターは納期遅延についてはそれ以上責任を負わなくてよくなるんでしょう?」と思う方もいるのではないでしょうか。
私はそう思いました。
しかし、この点も、多くのEPC契約では手当てされているのです。
具体的には、納期遅延のLDの上限まで到達するほど工程が遅れると、オーナーには、契約を解除する権利が与えられる契約が多いです。
契約を解除された場合の効果は、これもEPC契約によって異なります。それまで行った仕事分だけの対価をコントラクターがもらえるものもあれば、「それまでにした仕事をオーナーが全部コントラクターに返し、その代わり、コントラクターはそれまでコントラクターに支払われた契約金額をオーナーに返済しなければならない」と定められているものもあります。
どちらにしても、契約を解除されることは、コントラクターにとっては、当初見込んでいた利益を得られなくなりますし、また、大変不名誉なことでもあります。今後、その種のプラントの建設の案件を受注することが実質的にできなくなる可能性もあるでしょう。
したがって、納期遅延のLDの金額が上限に到達すると、それ以上納期遅延について損害賠償する責任を負わなくなるとしても、決してコントラクターにとって有利になるわけではありません。
とはいえ、納期遅延のLDの上限を定めないと、遅れた分だけ無限に損害を賠償しなければならなくなる、というのもコントラクターにとっては決して望ましいものではないので、EPC契約中には、納期遅延のLDの上限を定めるべきだと思います。
この時、この納期遅延のLDの上限は、業界によって差があると思います。私の経験では、契約金額の20%~30%程度のものが多いように思います。
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納期遅延の場合のコントラクターの責任④ sole and exclusive remedy
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EPC/建設契約の解説書 | EPC/建設契約の解説書 | 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方 |
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納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 | 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 | 英国におけるDelay Analysisに関する指針 |
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 | 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 | 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。 |
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol
2nd edition February 2017 |