納期遅延の場合のコントラクターの責任③ 納期LDの上限とオーナーの解除権について
2022/09/15

納期LDは、遅れた全期間分を支払わないといけないのか?
「納期遅延のLDを定めると、10日遅れたらいくら、30日遅れたらいくら、と自動的に損害賠償額を計算できることはわかった。となると、1年遅れたら365倍、10年遅れたら3650倍になるの?」
納期LDについて、このような疑問を持たれた方もいるかもしれません。
このご質問への答えは、「個別のEPC契約による」というものです。
どういうことかと言いますと、EPC契約で納期遅延のLDを定めている場合には、「LDの上限額」も併せて定められていることが多いのです。
例えば、「本契約に基づく納期遅延のLDは、契約金額の20%を上限とする」という定めです。
また、このような条文がなくても、「本契約に基づくコントラクターの損害賠償責任は、契約金額の100%を上限とする」という定めがあることが多いです。
よって、「納期に1日遅れたらいくらを損害賠償金額とする」という定めがあったとしても、常にそれに基づいて算出された金額をコントラクターが支払わなければならないことにはならない場合もあります。
納期LDに上限を付けるって、オーナーにとって不利じゃない?
これを聞くと今度は、「え?それって、オーナー側にとって不公平じゃない?だって、納期遅延のLDの上限に到達したら、後はどんなに遅れても、コントラクターは納期遅延についてはそれ以上責任を負わなくてよくなるんでしょう?」と思う方もいるのではないでしょうか。
私はそう思いました。
しかし、この点も、多くのEPC契約では手当てされているのです。
具体的には、納期遅延のLDの上限まで到達するほど工程が遅れると、オーナーには、契約を解除する権利が与えられる契約が多いです。
契約を解除された場合の効果は、これもEPC契約によって異なります。それまで行った仕事分だけの対価をコントラクターがもらえるものもあれば、「それまでにした仕事をオーナーが全部コントラクターに返し、その代わり、コントラクターはそれまでコントラクターに支払われた契約金額をオーナーに返済しなければならない」と定められているものもあります。
どちらにしても、契約を解除されることは、コントラクターにとっては、当初見込んでいた利益を得られなくなりますし、また、大変不名誉なことでもあります。今後、その種のプラントの建設の案件を受注することが実質的にできなくなる可能性もあるでしょう。
したがって、納期遅延のLDの金額が上限に到達すると、それ以上納期遅延について損害賠償する責任を負わなくなるとしても、決してコントラクターにとって有利になるわけではありません。
とはいえ、納期遅延のLDの上限を定めないと、遅れた分だけ無限に損害を賠償しなければならなくなる、というのもコントラクターにとっては決して望ましいものではないので、EPC契約中には、納期遅延のLDの上限を定めるべきだと思います。
この時、この納期遅延のLDの上限は、業界によって差があると思います。私の経験では、契約金額の20%~30%程度のものが多いように思います。
おさらい
納期遅延LDについて、本郷塾の4冊目の著書である『「重要英単語と例文」で英文契約書の読み書きができる』の「納期遅延」の解説部分(57~59頁)でおさらいしましょう!
重要英単語と共に、重要事項を押さえることができます!
本書の詳細は、こちらからご確認できます。
(なお、本郷塾の3冊目の著書である『英文EPC契約の実務』の141~155頁では、EPC契約における納期遅延LDについて解説しています。この本の詳細はこちらからご確認ください)
売主は、仕様書に合致する製品を買主に納入しなければならない。
この点、当然、買主はいつでもいいから製品を納めて欲しいとは考えていない。 ある一定の期限までに製品を納めて欲しいと考えている。 この期限を納期と呼ぶ。 納期は、delivery dateと書かれることが多い。 そして、売主がこれに遅れた場合の損害賠償責任が定められるのが通常である。 この損害賠償責任は、「予定された損害賠償金額(liquidated damages)」が定められることも多い。 liquidated damagesとは、略してLD(エルディー)と呼ばれることが多い。 これは、契約締結時に、契約に違反した場合に相手方に支払う損害賠償の金額を当事者間で予め合意しておくものである。 通常、損害賠償の請求は、違反をされた当事者が、その違反によって自分が実際に被る損害金額を証明しなければならない(~を証明する:prove)。 これを、「証明責任を負う」という(証明責任:burden of proof)。 もしも証拠によって損害額を証明できない場合には、例え契約違反が事実として存在していたとしても、損害賠償を得られなくなる。 ここで、納期に遅れた場合に買主が被る損害額を証明するのは必ずしも簡単ではない。 そこで、買主は、LDを契約に定めることがある。 このLDは、一日の遅れにつきいくらを損害賠償金額とするかを定めるもので、これにより、買主は単に「何日売主が納期に遅れたのか」を示すだけで、自動的に買主が得られる損害賠償額が決まる。つまり、買主の証明責任の負担がかなり減ることになる。 そして、このLDを定めれば、実際に買主がいくらの損害額を被ったのかとは無関係に、1日当たりのLD×「遅れた日数」という計算で算出された金額を売主は支払わなければならないことになる。 これは買主が被った損害額がLDの計算によって算出された金額よりも少なくても多くてもその様な扱いとなる。 もっとも、この「LDを支払えば、売主は遅れについて他に何らの責任を負わない」という点は、英米法の下では当然のことであるが、世界中のどこの法律の下でも、そのような扱いとなるかはわからない。 そこで、念のため、「LDを支払えば、売主は遅れについて他に何らの責任を負わない」という点を、sole and exclusive remedy(唯一の排他的な救済=他に救済はない、という意味)である、と明記することで確実にしようとすることがよく行われる。 なお、sole and exclusive remedyといっても、売主は製品を買主に引き渡す義務を免れるわけではない。 単に「納期に遅れたことで買主に支払う売主の損害賠償責任はLDの支払で果たしたことになる」という意味である。 また、納期遅延LDについては、上限(limitation/cap)を定めることが通常である。 つまり、売主が買主に対して負う納期遅延LDの総額は一定の金額を超えないと定めるのである。 例えば、「契約金額の20%を越えない」といった定めがなされる(~を超える:exceed)。 ここで、実際に、その上限を超えるほどに売主が遅れた場合には、買主は契約を一方的に終了させること、つまり、解除できる旨も合わせて定められることが多い(解除:termination ~を解除する:terminate)。 |
LDとpenaltyの違いについての動画解説はこちらから!
(他にも様々な事項について無料で動画解説を見ることができます。動画は毎月20日前後に4つほど追加されます。チャンネル登録いただくと、追加をメールでお知らせいたしますので、ぜひチャンネル登録をお願いいたします!)
『英文EPC契約の実務』は、お陰様で出版から4度の増刷となっております。
この本は、
・重要事項についての英語の例文が多数掲載!
・難解な英文には、どこが主語でどこが動詞なのかなどがわかるように構造図がある!
・もちろん、解説もこのブログの記事よりも詳しい!
・EPCコントラクターが最も避けたい「コストオーバーランの原因と対策」について、日系企業が落ちいた事例を用いて解説!
・英文契約書の基本的な表現と型も併せて身につけることができる!
ぜひ、以下でEPC契約をマスターしましょう!
EPC契約のポイントの目次
【私が勉強した原書(英語)の解説書】
残念ながら、EPC/建設契約についての日本語のよい解説書は出版されておりません。本当に勉強しようと思ったら、原書に頼るしかないのが現状です。
原書で勉強するのは大変だと思われるかもしれませんが、契約に関する知識だけでなく、英語の勉強にもなりますし、また、留学しなくても、英米法系の契約の考え方も自然と身につくという利点がありますので、取り組んでみる価値はあると思います。
EPC/建設契約の解説書 | EPC/建設契約の解説書 | 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方 |
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 | 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 | 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。 |
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 | 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 | 英国におけるDelay Analysisに関する指針 |
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 | 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 | 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。 |
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol
2nd edition February 2017 |
EPC契約のポイント(『英文EPC契約の実務』で解説している事項の一部です)
Delay Analysis関係
必要な立証の程度(balance of probabilities)
英文契約の基本的な表現
間接損害(indirect damage)と逸失利益(loss of profit)の違い
to one’s knowledge/to the knowledge of
Representations and warranties
仕事関係
これから法律・契約について勉強し始める社会人が陥りやすい勘違い
どうして議論がまとまらないのか?
原書で勉強するのは大変だと思われるかもしれませんが、契約に関する知識だけでなく、英語の勉強にもなりますし、また、留学しなくても、英米法系の契約の考え方も自然と身につくという利点がありますので、取り組んでみる価値はあると思います。
EPC/建設契約の解説書 | EPC/建設契約の解説書 | 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方 |
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 | 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 | 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。 |
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 | 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 | 英国におけるDelay Analysisに関する指針 |
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 | 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 | 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。 |
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol
2nd edition February 2017 |