同時遅延とは?~建設契約における納期延長と追加費用のクレーム⑤~
同時遅延とは?
同時遅延とは、「請負者が納期延長を得られる遅れ(請負者に原因がない遅れ)」と、「請負者が納期延長を得られない遅れ(請負者に原因がある遅れ)」が同時に生じる場合をいいます。
例えば、発注者がサイトへのアクセス権を請負者に与えるのに遅れることや、Force Majeureが原因で納期に遅れが生じる場合は、請負者が納期延長を得られる旨が契約に定められる代表的なケースです。
このとき、同時に請負者が自分の原因で工事に必要となる機械や材料を調達できないでいるために、工事の開始が遅れ、それが原因で納期に遅れたという場合が同時遅延に当たります。
このような同時遅延が生じた場合に、
- 請負者に納期延長を与えるべきか否か、
- 仮に納期延長を与えるとして、その期間は何日間とするか、
- 遅れによって請負者に生じる追加費用を発注者に請求できるか否か
が問題となります。
というのも、請負者に原因がない遅れの場合には、請負者は納期延長を得られるべきですが、請負者のせいで遅れた場合には、逆に納期延長を与えられるべきではないからです。
この両方が同時に起こったら・・・というのが同時遅延の問題です。
同時遅延とクリティカルパスの関係
まず、押えていただきたいのは、同時遅延は、あくまで2つ以上の遅れがクリティカルパス上の仕事に生じている場合をいうという点です。
例えば、以下の問題は、仕事Xがクリティカルパス上にあり、この1つの仕事Xが遅れた原因が2つある場合です。
問題
建設工事において、クリティカルパス上にある仕事Xを請負者が建設スケジュール通りに開始するためには、以下の2つの条件が満たされている必要があった。 ・発注者が契約に定められている期限までに建設サイトに請負者が入れるようにすること、つまり、建設サイトへのアクセス権を請負者に与えること。 ・仕事Xを行うために必要な建設用の材料が、仕事Xの開始予定日までに請負者が準備できていること。 今、上記2つについて、どちらも建設スケジュールから10日遅れた。 この場合、請負者は、発注者に対して、納期遅延LDを支払う責任を負うのだろうか? |
図①
これとは異なり、2つの異なる仕事がどちらもクリティカルパス上にあり、それぞれの仕事が同時に遅れる場合もあります。
どちらの場合も、「2つ以上の遅れがクリティカルパス上の仕事に生じている」といえるので、正真正銘の同時遅延です。
一方、仮に2つ以上の遅れが生じたのが時期的に同時であっても、どちらか片方の仕事でもクリティカルパス上にない場合には、それは同時遅延ではありません。
下の図②と図➂で、上記を目で確認しましょう。
図②
ここでは、a、b、およびcの全ての仕事はクリティカルパス上にあります。
仕事aと仕事bがそれぞれ遅れた結果、最後になされるべき仕事cが納期である10/1に遅れた状況を表しています。
ここで、仕事aが請負者の原因で遅れ、仕事bが発注者の原因で遅れた場合、両方ともクリティカルパス上の仕事に遅れているので、同時遅延となります。
一方、下の図➂では、aおよびcはクリティカルパス上にありますが、bはクリティカルパス上にはありません。
図➂
仕事bは最終的には仕事cと同じタイミングで終われば、納期に影響を与えないからです。
よって、仕事aにおける請負者に原因がある遅れと仕事bにおける発注者に原因がある遅れは同じタイミングで生じた場合でも、仕事bの遅れは納期に何ら影響を与えていないので、仕事aと仕事bに生じた遅れは、同時遅延には当たらないということになります。
以下では、シンプルに理解していただけるように、図①にあるように、クリティカルパス上にある1つの仕事について、2つの原因で遅れる場合を例に解説していきますが、実際には、図②にあるように、クリティカルパス上にある2つの異なる仕事にそれぞれ遅れが生じる場合もある、ということは理解しておきましょう。
同時遅延の種類
なお、同時遅延と呼ばれるものは、次の2つの場合に分けられます。
A:原因と効果が同時の場合
B:原因が別のタイミングで発生するが、効果が同時である場合(効果が一部重なる場合)
ここまで例に挙げた同時遅延は、Aの「原因と効果が同時」の場合です。
Aの場合とBの場合で、処理のされ方が異なります。
次の記事では、それぞれの場合の処理のされ方を詳しく見ていきます。