納期遅延の場合のコントラクターの責任④ 必ず明記!sole and exclusive remedy!!

      2022/09/15

 

sole and exclusive remedy

 

このような表現を見たことがあるでしょうか?

 

これは、LDを定める際には、必ずセットでEPC契約に定められるべき表現です。

 

sole and exclusive remedyとは、「唯一の排他的な救済」という意味になります。

 

これがLDについて定められた場合の意味は、「LDを支払えば、それ以上、オーナーはコントラクターに対して責任を追及できません」というものになります。

 

以前、LDは、「その金額が実際に生じた損害額よりも少ない場合でも、裁判所ですら、LDとして定められた金額以上の損害賠償をするようにコントラクターに対して言えない」と説明しました。

 

しかし、これはあくまで日本の民法に従う場合です。

 

他の国の法律で、このLDがどのような扱いになるのかは、わかりません。

 

つまり、そのEPC契約が従う国の法律(「準拠法」といいます)を見ないと、その法律の下でLDがどのように扱われるのかはわからないのです。

 

そこで、EPC契約には、「LDを支払えば、それ以上、コントラクターは損害賠償を支払う必要はない」ということを明確にするために、「このLDは、sole and exclusive remedyだ」と定めるのです。

 

もしもこの定めがないと、準拠法によっては、LDも支払い、かつ、実際にオーナーが被った損害がLDよりも大きい金額だということをオーナーが証明できた場合には、コントラクターはその差額も支払わなければならないことになりかねません。

 

それでは、LDは、単に、オーナーの立証責任を緩和するためにしか機能しなくなるので、圧倒的にオーナーに有利な制度ということになってしまいます。そうすると、コントラクターにとっては、LDを定めるメリットがまるでなくなります。

 

LDを定めれば、オーナーは損害額の証明責任がなくなる一方、実際に生じた損害がLDより大きくても、コントラクターはそれ以上の賠償責任を負わない。

 

このような立て付けになっている場合にのみ、納期遅延のLDを定めることがコントラクターにとってメリットが生じるのです。

 

FIDICとENAAの記載(2016年11月16日追記)

 

なお、FIDICにも、ENAAにも、sole and exclusive remedyという文言そのものではないものの、同趣旨の定めがなされております。

 

FIDICでは8.7(Delay Damages)に、ENAA2010ではGC 26.2に定められています。

 

したがって、このLDがsole and exclusive remedyであることは、EPC契約には、必ず明記するようにするようにご注意ください。

 

オーナー側がこれに抵抗を示した場合には、ENAAやFIDIC等のモデルフォームを例に出して、「LDとは一般的にそういうものだ」という説明をするべきです。

 

なお、この納期LDのsole and exclusive remedyの条文とほぼセットで定められている条文があります。

 

それは、「納期LDを支払いは、コントラクターを本EPC契約上の義務から解放するものではない」といったような条文です。

 

この点、「sole and exclusive remedyであることと矛盾するのでは?」と思ってしまう方が時々いらっしゃるようです。

 

しかし、両者は何ら矛盾していません。というのも、この、「納期LDを支払いは、コントラクターを本EPC契約上の義務から解放するものではない」という条文が言っているのは、「コントラクターには、とにかく最後までプラントを完成させる義務が依然として残っているよ。納期LDを支払ったからといって、プラントを完成させる必要がなくなった、という意味ではないよ」ということを定めているに過ぎないからです。

 

おさらい

納期遅延LDについて、本郷塾の4冊目の著書である『「重要英単語と例文」で英文契約書の読み書きができる』の「納期遅延」の解説部分(57~59頁)でおさらいしましょう!

重要英単語と共に、重要事項を押さえることができます!

本書の詳細は、こちらからご確認できます。

(なお、本郷塾の3冊目の著書である『英文EPC契約の実務』の141~155頁では、EPC契約における納期遅延LDについて解説しています。この本の詳細はこちらからご確認ください)

売主は、仕様書に合致する製品を買主に納入しなければならない。

この点、当然、買主はいつでもいいから製品を納めて欲しいとは考えていない。

ある一定の期限までに製品を納めて欲しいと考えている。

この期限を納期と呼ぶ。

納期は、delivery dateと書かれることが多い。

そして、売主がこれに遅れた場合の損害賠償責任が定められるのが通常である。

この損害賠償責任は、「予定された損害賠償金額(liquidated damages)」が定められることも多い。

liquidated damagesとは、略してLD(エルディー)と呼ばれることが多い。

これは、契約締結時に、契約に違反した場合に相手方に支払う損害賠償の金額を当事者間で予め合意しておくものである。

通常、損害賠償の請求は、違反をされた当事者が、その違反によって自分が実際に被る損害金額を証明しなければならない(~を証明する:prove)。

これを、「証明責任を負う」という(証明責任:burden of proof)。

もしも証拠によって損害額を証明できない場合には、例え契約違反が事実として存在していたとしても、損害賠償を得られなくなる。

ここで、納期に遅れた場合に買主が被る損害額を証明するのは必ずしも簡単ではない。

そこで、買主は、LDを契約に定めることがある。

このLDは、一日の遅れにつきいくらを損害賠償金額とするかを定めるもので、これにより、買主は単に「何日売主が納期に遅れたのか」を示すだけで、自動的に買主が得られる損害賠償額が決まる。つまり、買主の証明責任の負担がかなり減ることになる。

そして、このLDを定めれば、実際に買主がいくらの損害額を被ったのかとは無関係に、1日当たりのLD×「遅れた日数」という計算で算出された金額を売主は支払わなければならないことになる。

これは買主が被った損害額がLDの計算によって算出された金額よりも少なくても多くてもその様な扱いとなる。

もっとも、この「LDを支払えば、売主は遅れについて他に何らの責任を負わない」という点は、英米法の下では当然のことであるが、世界中のどこの法律の下でも、そのような扱いとなるかはわからない。

そこで、念のため、「LDを支払えば、売主は遅れについて他に何らの責任を負わない」という点を、sole and exclusive remedy(唯一の排他的な救済=他に救済はない、という意味)である、と明記することで確実にしようとすることがよく行われる。

なお、sole and exclusive remedyといっても、売主は製品を買主に引き渡す義務を免れるわけではない。

単に「納期に遅れたことで買主に支払う売主の損害賠償責任はLDの支払で果たしたことになる」という意味である。

また、納期遅延LDについては、上限(limitation/cap)を定めることが通常である。

つまり、売主が買主に対して負う納期遅延LDの総額は一定の金額を超えないと定めるのである。

例えば、「契約金額の20%を越えない」といった定めがなされる(~を超える:exceed)。

ここで、実際に、その上限を超えるほどに売主が遅れた場合には、買主は契約を一方的に終了させること、つまり、解除できる旨も合わせて定められることが多い(解除:termination ~を解除する:terminate)。

 

 

 

 

LDとpenaltyの違いについての動画解説こちらから!

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EPC契約のポイントの目次

Scope of Work ボンドのon demand性を緩和する方法 プラントの検収条件と効果
サイトに関する情報 コントラクターによる仕事の開始時期(納期の起算点)は? 危険の移転時期とその例外
オーナーの義務 仕事の遂行 債務不履行
契約金額の定め方と追加費用の扱い 設計(design)の条文について① 納期延長の場合のコントラクターの責任① 納期延長になる場合
追加費用の負担について 設計(design)の条文について② 納期延長の場合のコントラクターの責任② LD/リキダメ
ボンドについて 仕様変更① 仕様変更とは? 納期延長の場合のコントラクターの責任③ 納期LDの上限
入札保証ボンド 仕様変更② クレーム手続きと仕様書に書かれていない事項 納期延長の場合のコントラクターの責任④ sole and exclusive remedy
前払金返還保証ボンド 仕様変更③ 納期延長と追加費用の金額が合意に至らない場合の扱い 納期延長の場合のコントラクターの責任⑤ 中間マイルストーンLD
履行保証ボンド プラントの試験① 性能未達の場合のコントラクターの責任① 性能保証と性能確認試験
瑕疵担保保証ボンド プラントの試験② 性能未達の場合のコントラクターの責任② 最低性能保証・性能LD
責任制限条項① Limitation of Liability/LOL 不可抗力の扱い③ Force Majeureの効果を得るための手続き 私がEPC契約で真っ先に確認する点③
責任制限条項② 適用される場合と適用されない場合 不可抗力の扱い④ Force Majeureが長期間継続した場合 LOIの何がリスクなのか?
瑕疵担保責任① 総論 法令変更について LOIへの対処法(対外的)
瑕疵担保責任② オーナーの通知義務とコントラクターのアクセス権 契約解除① なぜ解除の理由によって解除の効果が異なるのか? LOIへの対処法(社内的)
瑕疵担保責任③ 保証期間の延長 契約解除② オーナーの義務違反に基づくコントラクターによる契約解除 EPC契約における支払い条件
瑕疵担保責任④ Disclaim(免責)条項 契約解除③ オーナーの自己都合解除
作業中断権① 中断権の存在意義 契約解除④ コントラクターの債務不履行に基づくオーナーによる契約解除
作業中断権② 中断権行使の効果 契約解除⑤ 不可抗力事由が長期間継続した場合
不可抗力の扱い① Force Majeureとは何か? 私がEPC契約で真っ先に確認する点①
不可抗力の扱い② Force Majeureの効果 私がEPC契約で真っ先に確認する点②

 

【私が勉強した原書(英語)の解説書】

残念ながら、EPC/建設契約についての日本語のよい解説書は出版されておりません。本当に勉強しようと思ったら、原書に頼るしかないのが現状です。

原書で勉強するのは大変だと思われるかもしれませんが、契約に関する知識だけでなく、英語の勉強にもなりますし、また、留学しなくても、英米法系の契約の考え方も自然と身につくという利点がありますので、取り組んでみる価値はあると思います。

EPC/建設契約の解説書 EPC/建設契約の解説書 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 英国におけるDelay Analysisに関する指針
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol

2nd edition February 2017

EPC契約のポイント(『英文EPC契約の実務』で解説している事項の一部です)

 

スコープオブワーク

 

EPC契約の契約金額の定め方と追加費用の扱い

 

コストプラスフィーの注意点

 

ボンドについて

 

前払金返還保証ボンド

 

履行保証ボンド

 

契約不適合責任ボンド

 

リテンションボンド

 

仕様変更

 

プラントの検収条件と効果

 

納期遅延①

納期遅延②

納期遅延③

納期遅延④

納期遅延LDの決め方(発電所建設の一例)

 

Time is of the Essenceとは?

 

性能未達LD

 

EPC契約における保険

 

責任制限①

責任制限②

 

対価をとりっぱぐれるリスクへの対処法

 

プロジェクトファイナンス

 

コンソーシアム契約

 

Delay Analysis関係

必要な立証の程度(balance of probabilities)

 

フロート

 

同時遅延

 

英文契約の基本的な表現

Shall

 

~に定められている

 

「~に定められている」の補足

 

Notwithstanding

 

~を除いて、~でない限り

 

~に従って

 

~に関する

 

~の場合

 

Whereについて

 

~の範囲で

 

例示列挙の方法

 

事前の文書による同意と承認

 

契約締結日と発効日

 

LDとpenaltyの違い

 

Gross negligenceと結果の重大性

 

間接損害(indirect damage)と逸失利益(loss of profit)の違い

 

知らせる

 

Liquidated damages

 

Otherwise

 

~を被る

 

~を履行する

 

累積責任

 

~を補償する、免責する

 

Indemnifyとbe liableの違い

 

~を保証する(guarantee)

 

遅延利息

 

Warranty

 

排他的な

 

to one’s knowledge/to the knowledge of

 

Material adverse effect

 

Covenants

 

Representations and warranties

 

Notwithstandingと責任制限条項

 

Indemnifyとdefend

 

取締役・取締役会関係の単語

 

株主総会関係の単語

 

添付資料

 

連帯責任

 

下記の、上記の

 

一般条項(Notice)

 

一般条項(Term)

仕事関係

これから法律・契約について勉強し始める社会人が陥りやすい勘違い

 

英語はある日突然聞き取れるようになるのか?

 

会社は誰のものか?

 

司法試験に落ちた後の人生とは?

 

休日を楽しめない理由とは?

 

ピカソがその絵で伝えようとしたこと

 

メンター(教育係)に初めてなる人へ①

メンター(教育係)に初めてなる人へ②

 

自分の勝因は相手の敗因にある(日露戦争から学ぶ)

 

Subject toとポツダム宣言の受諾

どうして議論がまとまらないのか?

 

歴史の本の紹介

 

原書で勉強するのは大変だと思われるかもしれませんが、契約に関する知識だけでなく、英語の勉強にもなりますし、また、留学しなくても、英米法系の契約の考え方も自然と身につくという利点がありますので、取り組んでみる価値はあると思います。

EPC/建設契約の解説書 EPC/建設契約の解説書 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 英国におけるDelay Analysisに関する指針
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol

2nd edition February 2017

 - EPC契約のポイント