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本郷塾で学ぶ英文契約

納期遅延LDの決め方~発電所案件の一例~

2024/01/12
 

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英文契約・契約英語の社内研修をオンラインで提供しています。本郷塾の代表本郷貴裕です。 これまで、英文契約に関する参考書を6冊出版しております。 専門は海外建設契約・EPC契約です。 英文契約の社内研修をご希望の方は、お問合せからご連絡ください。
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EPC契約で登場するliquidated damages(LD)には、以下のようなものがあります。

 

・納期遅延LD

・性能LD

・稼働率LD

 

今回は、納期遅延LDの定め方の一例を紹介します。

 

納期遅延LDは、「請負者であるコントラクターが納期に一日遅れたら発注者であるオーナーはどれだけの損害を被るのか?」という視点で定められます。ここでは、発電所建設案件の場合を紹介します。

 

まず、発電所の建設が遅れると、その発電所の運転開始時期が遅れることになります。運転開始が遅れれば、オーナーが電気を売るのも遅れます。その結果、電気を売ることの対価を得るのが遅れます。

 

ここで、オーナーはコントラクターに支払うEPC契約の対価について銀行などの金融機関から融資を受けている場合が多いです。というのも、EPC契約の対価は莫大な金額であることが多く、オーナーの自己資金だけで賄うことは難しいためです。

 

オーナーはその融資分を銀行に返済する義務を負っていますが、その返済のための資金は発電所の運転から得られる利益です。つまり、発電所の運転が遅れれば、その分、融資を受けた金額を返済するだけの資金を得るのも遅れ、その結果、返済が遅れます。

 

そうすると、返済が遅れたことによる遅延利息をオーナーは銀行に支払わなければならなくなります。これが、納期遅延によってオーナーが被る損害の代表的なものです。

 

これはプラント建設中に生じる利息であることから、「建中利息」と呼ばれます。英語でいうと、interest during constructionで、頭文字をとって「IDC」とも呼ばれます。

 

また、発電所完成前から、その発電所から生み出される電気を購入する契約、つまり、買電契約を締結している者がいます。この者を通常、「オフテイカー」と呼びます。このオフテイカーとオーナー間の買電契約書の中には、電気が売られ始める期限が定められており、その期限までに売電が開始されない場合には、オーナーがオフテイカーに対して遅延LDを支払うことが定められていることもあります。その場合、この遅延LDも、発電所の完成が納期に遅れたことによってオーナーが被る損害となります。

 

よって、①銀行への返済遅延によって生じる遅延利息、および②オーナーがオフテイカーに対して支払う必要がある遅延LDを基準にして、コントラクターがオーナーに対して賠償する納期遅延LDの金額が算出されることになります。もしもオーナーが提示する納期遅延LDの金額がこれらよりもはるかに大きい場合には、「それは実際にオーナーが被る損害よりも高すぎる」として、より小さい金額に修正を申し入れます。

 

ここで特に気を付けたいのが、オーナーが、「納期に遅れなければ得られたはずの利益」をLDに含めてきた場合には、拒否するべきです。この利益は、逸失利益(loss of profit)と呼ばれます。逸失利益は莫大な金額になる可能性が高いです。このようなものをコントラクターが負担させられることになれば、倒産するリスクもあります。逸失利益をLD算定の根拠にしてはいけないという決まりはありませんが、コントラクターとしてはできる限り拒否するべきです。

(※逸失利益とは何か?と逸失利益に関する条文の注意点はこちら!「間接損害と逸失利益の違い」)

 

ここで、「オーナーから銀行に支払うべき遅延利息、およびオーナーからオフテイカーに支払う遅延LDはどのようにわかるのか」という疑問を持つ人もいるかもしれません。これは、オーナーに質問するのです。このような質問をして回答を得られない場合には、次のように主張します。

 

「LDは、いくらでもよいわけではありません。算定根拠がない場合、LDについて定めた条項それ自体が無効と判断される可能性もあります。無効となると、オーナーが実際に被った損害を証明しない限り我々コントラクターは賠償する必要がなくなります。」

 

LDは、「実際に生じ得る損害」に代わるものなので、何ら根拠がない金額の場合には、裁判所や仲裁は無効と判断する可能性があります。無効になったときに困るのは、コントラクターよりもむしろオーナーのほうです。そこで、上記の様に主張し、適切な納期遅延LDの金額を算定するようにオーナーに対して促すのがよいでしょう。

これであなたもLDマスターになれる!

納期延長の場合のコントラクターの責任① 納期延長になる場合

納期遅延の場合のコントラクターの責任② LD/リキダメ

納期遅延の場合のコントラクターの責任③ 納期LDの上限

納期遅延の場合のコントラクターの責任④ sole and exclusive remedy

納期遅延LDの決め方~発電所案件の一例~

懲罰的損害賠償の禁止の原則

中間マイルストーンLDが定められている場合の対処法

性能未達LD

EPC契約の責任関係をもっと知りたい方はこちら!

EPC契約におけるコントラクターの責任関係

海外インフラ系の事業の英文契約書の頻出用語を知りたい方はこちら!

海外インフラ系の事業の英文契約書の頻出用語

 

EPC契約のポイントの目次

Scope of Work ボンドのon demand性を緩和する方法 プラントの検収条件と効果
サイトに関する情報 コントラクターによる仕事の開始時期(納期の起算点)は? 危険の移転時期とその例外
オーナーの義務 仕事の遂行 債務不履行
契約金額の定め方と追加費用の扱い 設計(design)の条文について① 納期延長の場合のコントラクターの責任① 納期延長になる場合
追加費用の負担について 設計(design)の条文について② 納期延長の場合のコントラクターの責任② LD/リキダメ
ボンドについて 仕様変更① 仕様変更とは? 納期延長の場合のコントラクターの責任③ 納期LDの上限
入札保証ボンド 仕様変更② クレーム手続きと仕様書に書かれていない事項 納期延長の場合のコントラクターの責任④ sole and exclusive remedy
前払金返還保証ボンド 仕様変更③ 納期延長と追加費用の金額が合意に至らない場合の扱い 納期延長の場合のコントラクターの責任⑤ 中間マイルストーンLD
履行保証ボンド プラントの試験① 性能未達の場合のコントラクターの責任① 性能保証と性能確認試験
瑕疵担保保証ボンド プラントの試験② 性能未達の場合のコントラクターの責任② 最低性能保証・性能LD
責任制限条項① Limitation of Liability/LOL 不可抗力の扱い③ Force Majeureの効果を得るための手続き 私がEPC契約で真っ先に確認する点③
責任制限条項② 適用される場合と適用されない場合 不可抗力の扱い④ Force Majeureが長期間継続した場合 LOIの何がリスクなのか?
瑕疵担保責任① 総論 法令変更について LOIへの対処法(対外的)
瑕疵担保責任② オーナーの通知義務とコントラクターのアクセス権 契約解除① なぜ解除の理由によって解除の効果が異なるのか? LOIへの対処法(社内的)
瑕疵担保責任③ 保証期間の延長 契約解除② オーナーの義務違反に基づくコントラクターによる契約解除 EPC契約における支払い条件
瑕疵担保責任④ Disclaim(免責)条項 契約解除③ オーナーの自己都合解除
作業中断権① 中断権の存在意義 契約解除④ コントラクターの債務不履行に基づくオーナーによる契約解除
作業中断権② 中断権行使の効果 契約解除⑤ 不可抗力事由が長期間継続した場合
不可抗力の扱い① Force Majeureとは何か? 私がEPC契約で真っ先に確認する点①
不可抗力の扱い② Force Majeureの効果 私がEPC契約で真っ先に確認する点②

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残念ながら、EPC/建設契約についての日本語のよい解説書は出版されておりません。本当に勉強しようと思ったら、原書に頼るしかないのが現状です。

原書で勉強するのは大変だと思われるかもしれませんが、契約に関する知識だけでなく、英語の勉強にもなりますし、また、留学しなくても、英米法系の契約の考え方も自然と身につくという利点がありますので、取り組んでみる価値はあると思います。

EPC/建設契約の解説書 EPC/建設契約の解説書 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 英国におけるDelay Analysisに関する指針
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol

2nd edition February 2017

 

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