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本郷塾で学ぶ英文契約

私がEPC契約で真っ先に確認する点①

2024/01/12
 
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英文契約・契約英語の社内研修をオンラインで提供しています。本郷塾の代表本郷貴裕です。 これまで、英文契約に関する参考書を6冊出版しております。 専門は海外建設契約・EPC契約です。 英文契約の社内研修をご希望の方は、お問合せからご連絡ください。
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EPC契約をどこから読み始めるか?

 

EPC契約を検討する際、どこから読み始めるでしょうか?

 

私は、EPC契約に限らず、あらゆる契約書の検討で真っ先に確認することにしているのは、以下の点です。

 

「コントラクターが何ら落ち度なく仕事をしたにも関わらず、対価をとりっぱぐれることになっていないか」

 

というのも、EPC契約において、コントラクターが最も得たいのは、「契約締結時に想定していた利益」であるところ、これを得るためには、上記の点が適切に定められていることが最低条件だと思うからです。

 

つまり、これらが適切に定められていれば、「うちはしっかり仕事をしたにも関わらず、契約締結時に想定していただけの利益を得られなかった」という事態が起きることは、かなり防ぐことができると思います。

 

上記の点を必ずしも真っ先に確認しなければならないわけではありませんが、これらを最初に検討するようにすれば、一番重要な点について検討漏れが生じるということを防ぐことに役立つように思います。

 

この点、もしかすると、「注文者であるオーナーがコントラクターに対価を支払うなんていうことは当たり前じゃないか。要は、契約金額が間違いなく定められていればよいのだろう?」と思った方もいるかもしれません。

 

もちろん、契約金額が契約書に適切に定められていることは重要です。

 

しかし、それだけでは、足りないと思います。

 

そもそも、「オーナーが十分な資金を持っていない場合」には、どうなるでしょうか?

 

資金がなければ、契約書に対価が明記されていても、コントラクターに対して払うことができないですよね。

 

EPC契約は、数十億~数百億円レベル、あるいは、数千億円レベルの契約金額になるものもあります。

 

そのような莫大な対価を全額支払うことができるだけの資金をオーナーが持っている、あるいは調達することができる、ということを、コントラクターは十分に確認する必要があります。

 

 

例題

ここで一つ問題です。以下の場合、コントラクターはどのような対応を取るべきでしょうか?

 

海外のEPC案件で、コントラクターは決められた仕事をしっかりと遂行していました。

 

その案件では、前払金の他に、ある一定のレベルまで仕事が行われると、オーナーは、その進捗に応じて一定の対価をコントラクターに支払う条件になっていました。ここでは仮に、その進捗払いを20億円分としておきましょう。

 

コントラクターはオーナーに、20億円の支払いを請求しました。

 

しかしオーナーは、全く支払いません。

 

「コントラクターの行った仕事に問題があるから支払わない」というようなコメントすらもしてきません。

 

そのうちコントラクターは、「どうやらオーナーは対価として支払うための資金がないようだ」ということが分かってきました。

 

コントラクターは、そのオーナーが、有名な企業Aの子会社だったので、もしもその子会社の資金が足りなくなれば、親会社であるA社がオーナーに資金を援助してくれるのだろうと思って、そのオーナーの資金力それ自体はあまり気にしていませんでした。

 

しかし、親会社Aは子会社であるオーナーを援助する気は全くないようでした。

 

この場合、「親会社Aに直接相談に行く」という方法もあるかもしれません。つまり、「あなたの子会社がお金を払ってくれないので、代わりに払ってほしい」とお願いに行くのです。

 

しかし、親会社Aが、「子会社は独立した法人だから、それを自分たちが援助しなければならない法的義務はない」と主張してくると思います。

 

もしも、オーナーの対価の支払い義務について、コントラクターがその親会社であるA社から保証を得ているのであれば、それに基づいてコントラクターは親会社Aに対して対価の支払いを請求することができるでしょうが、そうでもない限り、A社はこの件については全く関係ない会社なのです。

 

とはいえ、親会社と子会社の関係なのだから、例えば、日本の商法で言うところの「法人格否認の法理」のような考え方で、親会社Aがコントラクターに責任を負う、という考え方もあるでしょう。

 

しかし、法人格否認の法理は、他の会社をあたかも自分の手足の如く支配して活動している場合に適用されるものであって、単に「親子関係にある」というだけで適用される法理ではありません。

 

では、「もはや裁判や仲裁でオーナーを訴えるしかない」と思うかもしれません。

 

しかし、オーナーが資金を持っていないのであれば、仮に裁判や仲裁を起こしてコントラクターの進捗払い分の20億円の債権が認められたとしても、オーナーは支払うことができません。

 

つまり、裁判や仲裁で勝っても、コントラクターは対価を得られない状態に陥るのです。

 

オーナーの資金力の確認

では、コントラクターは、一体どうすればよかったのでしょうか?

 

当たり前のことだと思われるかもしれませんが、まずは、オーナーそれ自体の資金力を確認するべきでした。

 

ここで、オーナーの支払い原資としては、大きくは、①オーナーは銀行等の第三者から融資を受けようとしている場合と、②オーナー自身が既に持っている資金で対価を支払うかの2通りがあると思います。

 

まず、①第三者から融資を受け、それでコントラクターに対価を支払うことにしている場合には、オーナーと第三者間の融資契約における融資金額が、EPC契約の対価をカバーしているかどうかを確認するべきでしょう。

 

その上で、その融資契約がオーナーと第三者間で締結されることを、オーナーとコントラクター間のEPC契約の契約発効条件にするべきでしょう(融資契約の単なる締結に止まらず、例えば「実際に最初の進捗払い金額に相当する金額が銀行からオーナーに支払われた場合」という定めをすることが可能なら、その方がより確実でしょう)。発効条件にするということは、つまり、融資契約が締結されるまで、コントラクターは何ら作業を開始する義務はなく、かつ、納期の起算も開始されないということです。

 

このようにすれば、EPC契約を締結後に、オーナーが融資を受けようと考えていた第三者が、「やっぱり融資するのやめた」と言った場合には、EPC契約が発効されないことになり、コントラクターはまだ作業を開始していないので、自分がした仕事に対する対価をとりっぱぐれる事態には陥らないはずです。

 

では、オーナーが第三者から融資を受けるのではなく、②「自己資金で支払う」という場合にはどうすればよいでしょうか。

 

この場合には、できればオーナーには、letter of credit(以下、「LC」)を開設させ、その開設をEPC契約の発効条件とするべきだと思います。

 

LCは、オーナーが銀行に対して開設を依頼します。このLCが開設されるということは、そのLCが保証する金額分は銀行が確保できているということになります。つまり、EPC契約締結後に、コントラクターに対して支払う対価がなくなる、という懸念はかなり払拭されるでしょう。

 

ここで、「自己資金で支払う」というオーナーの言葉を鵜呑みにし、オーナーの親会社からの保証もなく、かつ銀行にLCを開設するでもない場合には、オーナーがいつその資金を別の用途に使用してしまうかわかりません。コントラクターが一生懸命仕事をしている最中に別のことにお金を使い果たし、「コントラクターに支払う金額はなくなってしまった」という事態になりえます。

 

この点、「オーナーが自己資金を使い果たしてコントラクターに対価を支払えなくなるなんてことをしたら、その後オーナーは世間から信用を失う結果になり、その後の事業に悪影響が出るので、そのようなバカなことはしない」と思う方もいるかもしれません。

 

しかし、オーナーがそのような世間の批評を気にしない企業だとしたらどうなるでしょうか。「払えないものは払えない」と開き直られたら、困るのはコントラクターの方です。

 

基本的にはEPC契約ではオーナーは何等の支払保証もしない、というスタンスを取ることの方が多いと思われますが、できればLCを開設してもらうようにするべきでしょう。

 

まとめ

以上から、オーナーの支払い能力の観点から、次のことに注意していただきたいと思います。

 

①    オーナーが第三者から融資を受けて、そこからコントラクターに対価を支払おうとしている場合:

オーナーと第三者間の融資契約における融資金額がEPC契約の対価をカバーしていることを確認の上、その融資契約の締結をEPC契約の発効条件とし、融資契約が締結されるまではコントラクターは何らの作業を開始する義務がなく、納期の起算も始まらないようにする。

 

②    オーナーの自己資金でコントラクターに対価を支払おうとしている場合:

EPC契約の対価に相当する金額についてLCを開設させる。そしてこのLCをEPC契約の発効条件とする。

これでEPC契約をチェックする優先順位がわかる!

私がEPC契約で真っ先に確認する点①

私がEPC契約で真っ先に確認する点②

私がEPC契約で真っ先に確認する点③

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EPC契約のポイントの目次

Scope of Work ボンドのon demand性を緩和する方法 プラントの検収条件と効果
サイトに関する情報 コントラクターによる仕事の開始時期(納期の起算点)は? 危険の移転時期とその例外
オーナーの義務 仕事の遂行 債務不履行
契約金額の定め方と追加費用の扱い 設計(design)の条文について① 納期延長の場合のコントラクターの責任① 納期延長になる場合
追加費用の負担について 設計(design)の条文について② 納期延長の場合のコントラクターの責任② LD/リキダメ
ボンドについて 仕様変更① 仕様変更とは? 納期延長の場合のコントラクターの責任③ 納期LDの上限
入札保証ボンド 仕様変更② クレーム手続きと仕様書に書かれていない事項 納期延長の場合のコントラクターの責任④ sole and exclusive remedy
前払金返還保証ボンド 仕様変更③ 納期延長と追加費用の金額が合意に至らない場合の扱い 納期延長の場合のコントラクターの責任⑤ 中間マイルストーンLD
履行保証ボンド プラントの試験① 性能未達の場合のコントラクターの責任① 性能保証と性能確認試験
瑕疵担保保証ボンド プラントの試験② 性能未達の場合のコントラクターの責任② 最低性能保証・性能LD
責任制限条項① Limitation of Liability/LOL 不可抗力の扱い③ Force Majeureの効果を得るための手続き 私がEPC契約で真っ先に確認する点③
責任制限条項② 適用される場合と適用されない場合 不可抗力の扱い④ Force Majeureが長期間継続した場合 LOIの何がリスクなのか?
瑕疵担保責任① 総論 法令変更について LOIへの対処法(対外的)
瑕疵担保責任② オーナーの通知義務とコントラクターのアクセス権 契約解除① なぜ解除の理由によって解除の効果が異なるのか? LOIへの対処法(社内的)
瑕疵担保責任③ 保証期間の延長 契約解除② オーナーの義務違反に基づくコントラクターによる契約解除 EPC契約における支払い条件
瑕疵担保責任④ Disclaim(免責)条項 契約解除③ オーナーの自己都合解除
作業中断権① 中断権の存在意義 契約解除④ コントラクターの債務不履行に基づくオーナーによる契約解除
作業中断権② 中断権行使の効果 契約解除⑤ 不可抗力事由が長期間継続した場合
不可抗力の扱い① Force Majeureとは何か? 私がEPC契約で真っ先に確認する点①
不可抗力の扱い② Force Majeureの効果 私がEPC契約で真っ先に確認する点②

 

【私が勉強した原書(英語)の解説書】

残念ながら、EPC/建設契約についての日本語のよい解説書は出版されておりません。本当に勉強しようと思ったら、原書に頼るしかないのが現状です。

原書で勉強するのは大変だと思われるかもしれませんが、契約に関する知識だけでなく、英語の勉強にもなりますし、また、留学しなくても、英米法系の契約の考え方も自然と身につくという利点がありますので、取り組んでみる価値はあると思います。

EPC/建設契約の解説書 EPC/建設契約の解説書 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 英国におけるDelay Analysisに関する指針
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol

2nd edition February 2017

 

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