コストプラスフィー契約は、「かかった費用全部を支払ってもらえる契約」ではない

      2022/06/15

コストプラスフィー

 

コストプラスフィー契約とは、契約締結時において、オーナーがコントラクターに対して支払う総額が固定されず、コントラクターが仕事を完成するまでに実際に生じた費用に、予め合意された割合分を足した金額をオーナーがコントラクターに対して支払うという方法をとる契約のことをいいます。

 

もっとも、全ての仕事についてコストプラスフィーとするよりも、一部の仕事だけコストプラスフィーとすることが多いかもしれません。

 

なぜなら、仕事の中には、予め総額を決めやすいものと、決めにくいものがあり、前者についてまでコストプラスフィーとする必要はないからです。

 

つまり、ある一定の仕事については固定価格(Fixed Price)とし、残りの仕事をコストプラスフィーとするのです。

 

コストプラスフィーの例文

そのような仕組みとなる例文を見てみましょう。

 

  1. Fixed Price

Owner and EPC Contractor agree that EPC Contractor shall be paid for all Engineering Services and [ ] for a fixed price, as provided in Exhibit X.

  1. Cost plus Fee

Owner and EPC Contractor agree that EPC Contractor shall be paid in accordance with Exhibit Y for all Construction Work, excluding Engineering Services and [ ] included in Exhibit X.

 

まず、上記の1つ目の例文は、Fixed Price部分を定める条文です。ここでは、Engineering Serviceと、添付資料Xに定められる仕事([]内に具体的に仕事の内容を記載します)がFixed Priceとなることを定めています。

そして、2つ目の例文は、Engineering Serviceと添付資料Xに定められている仕事を除くConstruction Workを添付資料Yに従って支払うことを定めています。このConstruction Workがコストプラスフィーで支払われる仕事となるのですが、その点は以下の添付資料Yに具体的に定めています。

 

Exhibit Y

  1. Construction Costs/Pass-Through + 4.5%

For the performance of the Work, EPC Contractor shall be paid the Cost of the Construction Work, plus a fee of four and one half percent (4.5%) of the Cost of the Construction Work (the “Contractor’s Fee”).

  1. As used herein, the term “Cost of the Construction Work” shall mean the following actual costs necessarily and reasonably incurred by EPC Contractor in the performance of the Work.

(a) [具体的に仕事を記載]

(b) [具体的に仕事を記載]

(c) [具体的に仕事を記載]

  1. Owner acknowledges that EPC Contractor’s budget for the Cost of Construction Work, as set forth in Exhibit Z, is merely an estimate and subject to change.

 

添付資料Yの1つめの例文では、コストに載せるフィーを、Construction Workにかかるコストの4.5%と定めています。

 

次に、2つ目の例文では、コストプラスフィーの「コスト」に当たる部分であるConstruction Workのコストとは具体的に何か?を定義しています。ここでは、(a)~(c)に列挙する仕事をConstruction Workとしています。これが、実際に生じた費用を支払ってもらえることになる条文です。

 

さらに、3つ目の例文では、添付資料Zには、Construction Workにかかる費用の予定を記載することにしています。ここに記載された金額は、あくまで予定に過ぎず、これを越えても、コストプラスフィーとしてコントラクターはオーナーから支払いを受けることができます。ただ、この予定よりも増えた場合、オーナーは「なぜ増えたのか?」を説明するようにコントラクターに求めてくることになるでしょう。その理由次第では、オーナーが支払を拒むこともありえます

 

なお、この他に、コントラクターには、コストプラスフィーが適用されるコスト部分の証拠記録の保管とオーナーへの開示義務が定められるのが通常です。

これは、コントラクターが実際にかかったコスト以上の金額を請求していないか、または、本来妥当とされる金額以上のコストがかかっていないかをオーナーが確認できるようにするためです。

 

コストプラスフィーの注意点

ここで注意したいのが、添付資料Yの2つ目の例文の「以下の仕事のためにコントラクターに生じる必要かつ合理的な金額」を、オーナーが支払うべきthe Cost of the Construction Workとしている点です。

記録次第では、「コントラクターに生じる必要かつ合理的な金額」ではない、となる可能性もあるのです。その場合、コストプラスフィーに関する条文の適用を受けない=支払い対象外=コントラクターが負担することになる、という結果になり得ます。

 

以上からわかるように、コストプラスフィーは、「なんでもかんでも、コントラクターに生じた費用を全部オーナーが支払ってくれる方法」ではありません。

必要かつ合理的な費用」が支払われるものです。

コントラクターは、この点を忘れず、適切に仕事を遂行し、下請などからは相見積もりをとり、なぜその金額になったのか、それが合理的といえるのかをしっかり説明できるようにしましょう。

 

英文EPC契約の実務』は、お陰様で出版から4度の増刷となっております。

この本は、

・重要事項についての英語の例文が多数掲載!

・難解な英文には、どこが主語でどこが動詞なのかなどがわかるように構造図がある!

・もちろん、解説もこのブログの記事よりも詳しい!

・EPCコントラクターが最も避けたい「コストオーバーランの原因と対策」について、日系企業が落ちいた事例を用いて解説!

・英文契約書の基本的な表現と型も併せて身につけることができる!

ぜひ、以下でEPC契約をマスターしましょう!

 

EPC契約のポイントの目次

Scope of Work ボンドのon demand性を緩和する方法 プラントの検収条件と効果
サイトに関する情報 コントラクターによる仕事の開始時期(納期の起算点)は? 危険の移転時期とその例外
オーナーの義務 仕事の遂行 債務不履行
契約金額の定め方と追加費用の扱い 設計(design)の条文について① 納期延長の場合のコントラクターの責任① 納期延長になる場合
追加費用の負担について 設計(design)の条文について② 納期延長の場合のコントラクターの責任② LD/リキダメ
ボンドについて 仕様変更① 仕様変更とは? 納期延長の場合のコントラクターの責任③ 納期LDの上限
入札保証ボンド 仕様変更② クレーム手続きと仕様書に書かれていない事項 納期延長の場合のコントラクターの責任④ sole and exclusive remedy
前払金返還保証ボンド 仕様変更③ 納期延長と追加費用の金額が合意に至らない場合の扱い 納期延長の場合のコントラクターの責任⑤ 中間マイルストーンLD
履行保証ボンド プラントの試験① 性能未達の場合のコントラクターの責任① 性能保証と性能確認試験
瑕疵担保保証ボンド プラントの試験② 性能未達の場合のコントラクターの責任② 最低性能保証・性能LD
責任制限条項① Limitation of Liability/LOL 不可抗力の扱い③ Force Majeureの効果を得るための手続き 私がEPC契約で真っ先に確認する点③
責任制限条項② 適用される場合と適用されない場合 不可抗力の扱い④ Force Majeureが長期間継続した場合 LOIの何がリスクなのか?
瑕疵担保責任① 総論 法令変更について LOIへの対処法(対外的)
瑕疵担保責任② オーナーの通知義務とコントラクターのアクセス権 契約解除① なぜ解除の理由によって解除の効果が異なるのか? LOIへの対処法(社内的)
瑕疵担保責任③ 保証期間の延長 契約解除② オーナーの義務違反に基づくコントラクターによる契約解除 EPC契約における支払い条件
瑕疵担保責任④ Disclaim(免責)条項 契約解除③ オーナーの自己都合解除
作業中断権① 中断権の存在意義 契約解除④ コントラクターの債務不履行に基づくオーナーによる契約解除
作業中断権② 中断権行使の効果 契約解除⑤ 不可抗力事由が長期間継続した場合
不可抗力の扱い① Force Majeureとは何か? 私がEPC契約で真っ先に確認する点①
不可抗力の扱い② Force Majeureの効果 私がEPC契約で真っ先に確認する点②

 

【私が勉強した原書(英語)の解説書】

残念ながら、EPC/建設契約についての日本語のよい解説書は出版されておりません。本当に勉強しようと思ったら、原書に頼るしかないのが現状です。

原書で勉強するのは大変だと思われるかもしれませんが、契約に関する知識だけでなく、英語の勉強にもなりますし、また、留学しなくても、英米法系の契約の考え方も自然と身につくという利点がありますので、取り組んでみる価値はあると思います。

EPC/建設契約の解説書 EPC/建設契約の解説書 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 英国におけるDelay Analysisに関する指針
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol

2nd edition February 2017

 

EPC契約のポイント(『英文EPC契約の実務』で解説している事項の一部です)

 

スコープオブワーク

 

EPC契約の契約金額の定め方と追加費用の扱い

 

コストプラスフィーの注意点

 

ボンドについて

 

前払金返還保証ボンド

 

履行保証ボンド

 

契約不適合責任ボンド

 

リテンションボンド

 

仕様変更

 

プラントの検収条件と効果

 

納期遅延①

納期遅延②

納期遅延③

納期遅延④

納期遅延LDの決め方(発電所建設の一例)

 

Time is of the Essenceとは?

 

性能未達LD

 

EPC契約における保険

 

責任制限①

責任制限②

 

対価をとりっぱぐれるリスクへの対処法

 

プロジェクトファイナンス

 

コンソーシアム契約

 

Delay Analysis関係

必要な立証の程度(balance of probabilities)

 

フロート

 

同時遅延

 

英文契約の基本的な表現

Shall

 

~に定められている

 

「~に定められている」の補足

 

Notwithstanding

 

~を除いて、~でない限り

 

~に従って

 

~に関する

 

~の場合

 

Whereについて

 

~の範囲で

 

例示列挙の方法

 

事前の文書による同意と承認

 

契約締結日と発効日

 

LDとpenaltyの違い

 

Gross negligenceと結果の重大性

 

間接損害(indirect damage)と逸失利益(loss of profit)の違い

 

知らせる

 

Liquidated damages

 

Otherwise

 

~を被る

 

~を履行する

 

累積責任

 

~を補償する、免責する

 

Indemnifyとbe liableの違い

 

~を保証する(guarantee)

 

遅延利息

 

Warranty

 

排他的な

 

to one’s knowledge/to the knowledge of

 

Material adverse effect

 

Covenants

 

Representations and warranties

 

Notwithstandingと責任制限条項

 

Indemnifyとdefend

 

取締役・取締役会関係の単語

 

株主総会関係の単語

 

添付資料

 

連帯責任

 

下記の、上記の

 

一般条項(Notice)

 

一般条項(Term)

仕事関係

これから法律・契約について勉強し始める社会人が陥りやすい勘違い

 

英語はある日突然聞き取れるようになるのか?

 

会社は誰のものか?

 

司法試験に落ちた後の人生とは?

 

休日を楽しめない理由とは?

 

ピカソがその絵で伝えようとしたこと

 

メンター(教育係)に初めてなる人へ①

メンター(教育係)に初めてなる人へ②

 

自分の勝因は相手の敗因にある(日露戦争から学ぶ)

 

Subject toとポツダム宣言の受諾

どうして議論がまとまらないのか?

 

歴史の本の紹介

 - EPC契約のポイント