コストオーバーランの原因と対策
日系企業も海外企業も、時々、コストオーバーランに陥ります。
これは、今に始まったことではありません。
ずっと昔からコストオーバーランは起こっています。
例えば、オーストラリアにあるオペラハウス。
これは世界遺産の中でも最も新しい建造物として有名です。オペラハウスにより、シドニーは有名になりました。
このオペラハウスも、建設開始時に想定していた金額の10倍以上の金額にまで費用が増えてしまったコストオーバーランだったのです。ちなみに、納期も当初の想定から10年以上も遅れてようやく完成しました。
最近では、東芝の子会社であったウェスチングハウスのコストオーバーランが注目を集めました。これにより、東芝は1兆円近い損失を被り、主力事業を売却しなければならない事態となりました。
では、このような世間を驚かせるような巨額損失の原因とは何なのでしょうか?
ケースバイケース。
確かにそうです。どの事例も全く同じではありません。
ただ、ある傾向があります。
それは、「初めての案件」であったことです。
ここでいう初めてとは、世界で初めてという意味ではなく、その企業にとって初めてだったということです。それまで経験がない案件だったのです。
実際、ウェスチングハウスのコストオーバーランについて、東芝はホームページで次のように述べていました。
「初めての案件で、ベンチマークがなかったことが原因である」
また、ある日系の重工企業の社長も、自社が被ったコストオーバーランについて、次のように述べています。
「本件は、初めての案件であった」
そうです。「初めての案件」というのは、要注意なのです。
もっとも、なぜ、初めての案件は危ないのか。具体的に初めての要素がどのように影響したのか、という点はあまり知られていません。
この点について、『英文EPC契約の実務』では、その第3章において、実際にあった3つの事例を用い、「初めて」の案件で企業がどのような失敗に陥ったのかを解説しています。
また、「初めての案件」であるということの他に、コストオーバーランに陥らせる要素としては、「想定外の外部的事象」というものがあります。想定していなかったことが突発的に起こってしまったために、工程が乱される、ということです。
これについても、『英文EPC契約の実務』の中で、第4章や章と章との間のコラムにおいて、日系企業や海外の企業が陥った事例を紹介しています。
ちなみに、「初めての案件」への対策は、契約文言というよりも、極めて実務的なものが必要となります。
一方、「想定外の外部的事象」への対策は、実務的な対策も重要ですが、契約上の手当も重要です。特に、外部的事象が生じた場合の契約上の定めの「運用」が大切になります。単に契約締結時に適切な条文を定めるだけでは足りないのです。その定められた条文をいかに使うか、が重要となります。
こういった点について、拙著『英文EPC契約の実務』では、プラント・インフラ・その他の建設業界に入ったばかりの人やまだ実務経験が浅い若手の方々にも理解できるように、丁寧に解説しております。
※ちなみに、このホームページにもコストオーバーランについていくつか記事を掲載しておりますが、『英文EPC契約の実務』に掲載されているのは、それらと異なる事例の検討です。
ぜひ、読んでみてください。
EPC契約のポイントの目次
『英文EPC契約の実務』は、お陰様で出版から4度の増刷となっております。
この本は、
・重要事項についての英語の例文が多数掲載!
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残念ながら、EPC/建設契約についての日本語のよい解説書は出版されておりません。本当に勉強しようと思ったら、原書に頼るしかないのが現状です。
原書で勉強するのは大変だと思われるかもしれませんが、契約に関する知識だけでなく、英語の勉強にもなりますし、また、留学しなくても、英米法系の契約の考え方も自然と身につくという利点がありますので、取り組んでみる価値はあると思います。
EPC/建設契約の解説書 | EPC/建設契約の解説書 | 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方 |
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 | 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 | 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。 |
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 | 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 | 英国におけるDelay Analysisに関する指針 |
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 | 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 | 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。 |
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol
2nd edition February 2017 |