英語の契約書でTime is of the Essenceとは?
英文契約書の中には、Time is of the Essenceという文言が定められていることが時々あります。
これは、直訳すれば、「時間は重要だ」とか「時間は本質的だ」という意味になりますが、これを定めることでどのような効果が生じるのかを中心に、Time is of the Essenceについてここで初心者の方にもわかりやすく解説いたします!
Time is of the Essenceの”Time”とは?
この文言が、例えば売買契約の売主の製品供給義務について定められている場合には、このTimeは「納期」を意味していると考えてよいでしょう。
一方、この文言が、買主の対価支払い義務について定められている場合には、このTimeは「買主による支払い期限」と意味していることになります。
さらに、例えば建設契約において、注文者が請負人に対して、建設現場のサイトを明け渡すこと、つまり、そこで工事をできるように手配する義務について定める条文にこのTime is of the Essenceが定められている場合には、このTimeは「注文者による請負人へのサイト明け渡し義務の期限」を意味していることになります。
このように、Time is of the Essenceといっても、誰のどの義務について定めているかは、契約書を読んでみないとわからないのです。
Time is of the Essenceを定めることで生じる効果
次に、このTime is of the Essenceが定められることで、どのような効果が出るのでしょうか?
例えば、売主による製品供給義務についてこの文言が定められていた場合に、売主がTime、つまり納期に遅れたら、どうなるのでしょうか?
通常、納期に遅れたら、売主は買主に損害を賠償しなければなりません。
もしかして、このTime is of the Essenceという文言がない場合には、売主が例え納期に遅れたとしても、買主に損害を賠償しなくてもよいことになるのでしょうか?
「納期は重要だ」とはされていないのだから・・・。
そうではありません。
この文言があろうがなかろうが、売主は、納期に遅れれば、買主に対する損害賠償責任を負うことに変わりはありません。
このTime is of the Essenceは、「納期はとても重要なので、それに間に合わない場合には、買主は契約を解除できる」ということになります。
つまり、問題になるのは、「損害賠償」ではなく、「解除」です。
Time is of the Essenceと定められていたら注意すべきこと
売主や請負人としては、納期に少しでも遅れたからといって契約を解除されるというのは嫌なはずです。
よって、もしもTime is of the Essenceという文言が買主・注文者から提示された契約ドラフト中にある場合には、その意図をよく確認したほうがよいでしょう。
つまり、買主は、「納期に1日でも遅れたら契約を解除したいと考えているのか?」と。
もしもそうなら、売主は、納期に関していつも以上に厳格に考える必要が出てきます。
少なくとも、「納期に間に合わない場合には、納期遅延LDを支払えばよい」という考えで契約を締結するのは危険だといえます。
1日でも遅れた途端に、「解除する」といわれかねないからです。
建設契約やEPC契約にTime is of the Essenceが定められることは通常ない
ちなみに、建設契約においては、このTime is of Essenceという文言が納期について定められることは通常はありません。
その理由は、建設契約では、多少納期に遅れたというだけで、注文者は契約を解除しようとは考えてないのが通常だからです。
もちろん、納期に間に合ってほしいと注文者は考えているでしょうし、別に間に合わなくてもよい、などと考えてはいないはずです。
ただ、納期に遅れた場合には、納期遅延のliquidated damages(詳しくはこちら!)を請負人から支払ってもらえればよい、と考えているのです。
そのため、Timeは注文者にとって、Essence(必要不可欠)とまでは考えられていないのです。
もっとも、Time is of the Essenceと契約書に定められていなくても、納期に大幅に遅れ、当事者間で合意した納期遅延LDの上限額(詳しくはこちら!)にまで達したような場合には、注文主には契約を解除する権利が生じる旨が契約に定められているのが通常です。
この点、時々、納期に遅れた場合に備えて、納期遅延のLDを定めておきながら、一方で、Time is of the Essenceと定めている契約書も見かけます。
それは、おそらく、ドラフトした人が、Time is of the Essenceの使い方をよく理解していないのだろうと思われます。
よって、建設契約にTime is of the Essenceと定められている場合には、削除するようにしましょう。
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