EPC契約におけるTarget Price方式の例文を読んでみよう!
Target Price方式とは、Fixed Priceとコストプラスフィーの中間的な方法です。
まず、プラント建設の対価の一部または全部について、コストプラスフィー方式が採用されます。つまり、コントラクターが仕事を遂行する中で実際に生じた費用が支払われる方法です。
ただ、このコストプラスフィーが採用される仕事について、Target Priceと呼ばれる金額をオーナーとコントラクター間で合意し、契約書中に定めます。これは、目標額のようなものです。
その後、実際にプラントを建設した結果、Target Priceを上回る金額で仕事が完成した場合には、コントラクターは、Target Priceとして合意した金額に加えて、(実際にかかった金額-Target Price)についてオーナーとコントラクター間で予め合意した割合分しか追加でもらえないことになります。残りは、コントラクターの自己負担となるのです。
逆に、Target Priceを下回る金額で仕事が完成した場合には、コントラクターは、実際にかかった金額に加えて、(Target Price-実際にかかった金額)についてオーナーとコントラクター間で予め合意した一定の割合分を追加でもらうことができます。
上記だけではイマイチ理解できないかもしれませんので、Target Priceと実際にかかった金額との差額の分担について定める例文を見てみましょう。
The payment structure of this Contract is designed to encourage Contractor to perform the Work at or below the Target Price.
At the same time, the payment structure is designed so that Contractor bears a proportion of any costs if the Project is not completed at or below the Target Price(→Target Price以下の金額で仕事を完成させられなかった場合).
In that regard:
- If the Actual Cost is greater than Target Price, the amount of the excess (the “Excess”) shall be borne in accordance with the following (the aggregate of Contractor’s share of such Excess is defined herein as the “Contractor’s Excess Cost Liability”):
Amount of Excess
(Target Priceを超えた金額) |
Contractor Share
(コントラクターの負担分) |
Owner Share |
Up to and including $5 million | 20 % | 80 % |
Greater than $5 million , and up to and including $10 million | 50 % | 50 % |
All amounts in excess of $10 million | 80 % | 20 % |
上記は、(実際にかかった金額-Target Price)=Excess(超過分)とし、このExcessをコントラクターとオーナーでどのような割合で分担しあうか(bear)を定めているのです。
上記は、以下の様になります。
- 超過額が5百万米ドルまでであれば、超過額のコントラクターが20%分を自己負担します。
- 超過額が5百万米ドルを超えて10百万米ドルまでであれば、コントラクターが50%分を自己負担します。
- そして、超過額が10百万米ドルを超える場合には、コントラクターが80%分を負担します。
このように、超過額が増えるほど、コントラクターの負担分が多くなるようにすると、コントラクターは超過額が大きくならないように努力しようと努めることが期待できます。オーナーにとっても受け入れやすくなりると考えられます。
一方、以下は、Target Priceよりも少ない金額で仕事を完成できた場合についての例文です。
2 If the Actual Cost is less than Target Price, the amount by which the Target Price exceeds the Actual Cost (the “Savings”) shall be divided between Contractor and Owner in accordance with the following:
Amount of Savings
(節約できた金額) |
Contractor Share
(コントラクターの分け前) |
Owner Share |
Up to and including $1 million | 20 % | 80 % |
Greater than $1 million | 50 % | 50 % |
(Target Price-実際にかかった金額)=Savings(節約分)とし、このSavingsという分け前をコントラクターとオーナーでどのような割合で分け合うか(divide)を定めています。
つまり、
- 節約額が1百万米ドルまでは、そのうち20%分をコントラクターがもらえることになります。
- 節約額が1百万米ドルを超える場合には、そのうち50%をコントラクターがもらえることになります。
このように、節約額が多くなるほど、コントラクターがもらえる分け前が大きくなるようにすると、コントラクターはTarget Priceよりも下回る金額で仕事を完成させようと努力することが期待できるでしょう。
純粋なコストプラスフィー方式では、最終的にいくらの対価をコントラクターに支払わなければならないかが予測しにくいため、オーナーの同意を得られないことが多いと思われます。
一方、このTarget Price方式は、コストプラスフィー方式よりは、オーナーがコントラクターに支払う金額がどこまでも上昇するのを防ぐ仕組みといえるので、オーナーにとっては、受け入れやすいものといえます。
この点、結局はFixed Priceがオーナーにとって一番よいではないか、と思われるかもしれません。
しかし、契約締結時には、完成させるための費用の見積が困難な案件では、Fixed Price方式では、コントラクターが多くの予備費を積むことになりがちです。そのような案件でも、Target Price方式を採用すれば、コントラクターが大きな予備費を契約金額に入れ込むことを防ぐことができ、結果的に、オーナーにとっては、Fixed Priceよりも低い金額でプラントを完成させられることもあるわけです。
というわけで、必ずしも、オーナーにとって、Fixed Price方式がベストの方法とはいえず、その意味で、コントラクターとしては、Target Price方式を受け入れてもらえる余地はあるといえます。
EPC契約のポイントの目次
『英文EPC契約の実務』は、海外で翻訳出版されることになりました!
また、お陰様で出版から6度の増刷となっております。
この本は、
・重要事項についての英語の例文が多数掲載!
・難解な英文には、どこが主語でどこが動詞なのかなどがわかるように構造図がある!
・もちろん、解説もこのブログの記事よりも詳しい!
・EPCコントラクターが最も避けたい「コストオーバーランの原因と対策」について、日系企業が落ちいた事例を用いて解説!
・英文契約書の基本的な表現と型も併せて身につけることができる!
ぜひ、以下でEPC契約をマスターしましょう!
ちなみに、海外案件に携わり始める方々に向けた以下の本も好評発売中です!
『はじめてでも読みこなせる英文契約書』(税込みで2,640円)
海外との契約業務に関わることになった新入社員や若手社員の方々。法学部出身でなくても、法務部でなくてもわかると好評で、これまで既に10度の増刷となっており、2024年1月時点で発行部数が1万2000部に到達いたしました!
英文契約の参考書よりも潜在的な読者数が圧倒的に多い一般的な英語の参考書ですら、発行部数が5000部に到達しないケースがほとんどだそうです。その中で1万部を達成できたのは、ご購入いただいた方々が、職場の後輩やお知り合いの方々に本書をおススメしていただけているからだと思います。
中には、職場で英文契約書の勉強会を開く際に、本書を参考書としてご利用いただけているとの声もいただいております。ありがとうございます。
【私が勉強した原書(英語)の解説書】
残念ながら、EPC/建設契約についての日本語のよい解説書は出版されておりません。本当に勉強しようと思ったら、原書に頼るしかないのが現状です。
原書で勉強するのは大変だと思われるかもしれませんが、契約に関する知識だけでなく、英語の勉強にもなりますし、また、留学しなくても、英米法系の契約の考え方も自然と身につくという利点がありますので、取り組んでみる価値はあると思います。
EPC/建設契約の解説書 | EPC/建設契約の解説書 | 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方 |
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 | 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 | 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。 |
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 | 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 | 英国におけるDelay Analysisに関する指針 |
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 | 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 | 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。 |
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol
2nd edition February 2017 |