納期遅延の場合のコントラクターの責任③ 納期LDの上限とオーナーの解除権について

      2019/11/24

 

納期LDは、遅れた全期間分を支払わないといけないのか?

 

「納期遅延のLDを定めると、10日遅れたらいくら、30日遅れたらいくら、と自動的に損害賠償額を計算できることはわかった。となると、1年遅れたら365倍、10年遅れたら3650倍になるの?」

 

納期LDについて、このような疑問を持たれた方もいるかもしれません。

 

このご質問への答えは、「個別のEPC契約による」というものです。

 

どういうことかと言いますと、EPC契約で納期遅延のLDを定めている場合には、「LDの上限額」も併せて定められていることが多いのです。

 

例えば、「本契約に基づく納期遅延のLDは、契約金額の20%を上限とする」という定めです。

 

また、このような条文がなくても、「本契約に基づくコントラクターの損害賠償責任は、契約金額の100%を上限とする」という定めがあることが多いです。

 

よって、「納期に1日遅れたらいくらを損害賠償金額とする」という定めがあったとしても、常にそれに基づいて算出された金額をコントラクターが支払わなければならないことにはならない場合もあります。

 

納期LDに上限を付けるって、オーナーにとって不利じゃない?

 

これを聞くと今度は、「え?それって、オーナー側にとって不公平じゃない?だって、納期遅延のLDの上限に到達したら、後はどんなに遅れても、コントラクターは納期遅延についてはそれ以上責任を負わなくてよくなるんでしょう?」と思う方もいるのではないでしょうか。

 

私はそう思いました。

 

しかし、この点も、多くのEPC契約では手当てされているのです。

 

具体的には、納期遅延のLDの上限まで到達するほど工程が遅れると、オーナーには、契約を解除する権利が与えられる契約が多いです。

 

契約を解除された場合の効果は、これもEPC契約によって異なります。それまで行った仕事分だけの対価をコントラクターがもらえるものもあれば、「それまでにした仕事をオーナーが全部コントラクターに返し、その代わり、コントラクターはそれまでコントラクターに支払われた契約金額をオーナーに返済しなければならない」と定められているものもあります。

 

どちらにしても、契約を解除されることは、コントラクターにとっては、当初見込んでいた利益を得られなくなりますし、また、大変不名誉なことでもあります。今後、その種のプラントの建設の案件を受注することが実質的にできなくなる可能性もあるでしょう。

 

したがって、納期遅延のLDの金額が上限に到達すると、それ以上納期遅延について損害賠償する責任を負わなくなるとしても、決してコントラクターにとって有利になるわけではありません。

 

とはいえ、納期遅延のLDの上限を定めないと、遅れた分だけ無限に損害を賠償しなければならなくなる、というのもコントラクターにとっては決して望ましいものではないので、EPC契約中には、納期遅延のLDの上限を定めるべきだと思います。

 

この時、この納期遅延のLDの上限は、業界によって差があると思います。私の経験では、契約金額の20%~30%程度のものが多いように思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上級者を目指したい方へ~Delay Analysisの基礎知識~】

納期に遅れた場合に納期遅延LDを課されるのを防ぐためには、納期を延長するようにオーナーに請求すること(EOTクレーム=Extension of Time claim)が必要になります。そのためには、Delay Analysis(遅れの分析)をしなければなりません。これについての基礎知識の解説が以下です。これは、プロジェクトマネージャーになる方には特に重要となる知識です。それ以外の方で以下をマスターしている人は、私のこれまでの個別指導・社内研修を通して得た感覚としては、日本にはほとんどいないと思われます。つまり、以下を理解できれば、上級者といえるでしょう。

DelayとDisruptionの違い 納期延長に伴って生じる費用(prolongation cost)について その③ 本社経費と逸失利益における因果関係と金額の立証方法
クリティカル・パス その① 納期延長クレームと追加費用クレームの関係
クリティカル・パス その② mitigationとacceleration
フロートとは何か? Delay(遅れ)の種類(様々なDelay)
フロートは誰のものか? Delay Analysisの手法①~はじめに+Delay Analysisを行う時期~
フロートは誰のものか?契約書に記載がない場合 Delay Analysisの手法②~As planned impact method~
同時遅延の扱い その① 納期延長について Delay Analysisの手法③~Time Impact method~
同時遅延の扱い その② 追加費用について Delay Analysisの手法④~補足 工程表(プログラム)は契約書の一部なのか?~
納期延長に伴って生じる費用(prolongation cost)について その① Delay Analysisの手法⑤~Windows method~
納期延長に伴って生じる費用(prolongation cost)について その② 本社経費と逸失利益 Delay Analysisの手法⑥~as planned impact/Time Impact/Windowsの比較

 

EPC契約のポイントの目次

Scope of Work ボンドのon demand性を緩和する方法 プラントの検収条件と効果
サイトに関する情報 コントラクターによる仕事の開始時期(納期の起算点)は? 危険の移転時期とその例外
オーナーの義務 仕事の遂行 債務不履行
契約金額の定め方と追加費用の扱い 設計(design)の条文について① 納期延長の場合のコントラクターの責任① 納期延長になる場合
追加費用の負担について 設計(design)の条文について② 納期延長の場合のコントラクターの責任② LD/リキダメ
ボンドについて 仕様変更① 仕様変更とは? 納期延長の場合のコントラクターの責任③ 納期LDの上限
入札保証ボンド 仕様変更② クレーム手続きと仕様書に書かれていない事項 納期延長の場合のコントラクターの責任④ sole and exclusive remedy
前払金返還保証ボンド 仕様変更③ 納期延長と追加費用の金額が合意に至らない場合の扱い 納期延長の場合のコントラクターの責任⑤ 中間マイルストーンLD
履行保証ボンド プラントの試験① 性能未達の場合のコントラクターの責任① 性能保証と性能確認試験
瑕疵担保保証ボンド プラントの試験② 性能未達の場合のコントラクターの責任② 最低性能保証・性能LD
責任制限条項① Limitation of Liability/LOL 不可抗力の扱い③ Force Majeureの効果を得るための手続き 私がEPC契約で真っ先に確認する点③
責任制限条項② 適用される場合と適用されない場合 不可抗力の扱い④ Force Majeureが長期間継続した場合 LOIの何がリスクなのか?
瑕疵担保責任① 総論 法令変更について LOIへの対処法(対外的)
瑕疵担保責任② オーナーの通知義務とコントラクターのアクセス権 契約解除① なぜ解除の理由によって解除の効果が異なるのか? LOIへの対処法(社内的)
瑕疵担保責任③ 保証期間の延長 契約解除② オーナーの義務違反に基づくコントラクターによる契約解除 EPC契約における支払い条件
瑕疵担保責任④ Disclaim(免責)条項 契約解除③ オーナーの自己都合解除
作業中断権① 中断権の存在意義 契約解除④ コントラクターの債務不履行に基づくオーナーによる契約解除
作業中断権② 中断権行使の効果 契約解除⑤ 不可抗力事由が長期間継続した場合
不可抗力の扱い① Force Majeureとは何か? 私がEPC契約で真っ先に確認する点①
不可抗力の扱い② Force Majeureの効果 私がEPC契約で真っ先に確認する点②

 

【私が勉強した原書(英語)の解説書】

残念ながら、EPC/建設契約についての日本語のよい解説書は出版されておりません。本当に勉強しようと思ったら、原書に頼るしかないのが現状です。

原書で勉強するのは大変だと思われるかもしれませんが、契約に関する知識だけでなく、英語の勉強にもなりますし、また、留学しなくても、英米法系の契約の考え方も自然と身につくという利点がありますので、取り組んでみる価値はあると思います。

EPC/建設契約の解説書 EPC/建設契約の解説書 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 英国におけるDelay Analysisに関する指針
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol

2nd edition February 2017

 - EPC契約のポイント