中間マイルストーンLDが定められていたら?

中間マイルストーンLD
このような言葉を聞いたことがありますでしょうか?
これは、納期ではなく、納期に至るまでの工程の途中にも、「いつまでに何をするか」という期限を設け(これを中間マイルストーンといいます)、それに遅れた場合に課されるLDです。
EPC契約の中で、この中間マイルストーンLDが定められているものを私はあまり見たことがありません。
しかし、皆無ではありません。
EPC契約の中でも、特に規模の大きな案件に、この中間マイルストーンLDを定めているものがあるように思います。
きっと、多くの人は、このように思うのではないでしょうか。
「納期に間に合えば、途中でどんなに工程が遅れてもよいではないか?どうして中間マイルストーンLDなどというものがあるのか?」
私もそう思います。
オーナーにしてみれば、最終的に納期に間に合えば問題ないはずです。
では、どうしてオーナーは中間マイルストーンLDをEPC契約に定めようとしてくるのでしょうか?
一つの理由は、規模があまりにも大きい案件の場合、「絶対に納期に遅れられては困る」とオーナーが考えているから、というものがあると思います。
納期は、突然遅れるものではなく、途中から徐々に遅れていくものでしょう。そして、コントラクターが、「まあ、最後に間に合えばいいや」と思ったりすると、結局遅れを挽回できずに、納期に遅れてしまう可能性が高くなる。おそらく、オーナーの中には、このように考える会社もあるのだろうと思います。
そのため、中間マイルストーンを定めておき、「途中の工程にも遅れられない!」とコントラクターに思わせることで、確実に納期に間に合うようにしようとしているのかもしれません。
オーナーが中間マイルストーンLDを契約書に定めようとしてきた場合の交渉方法の考察
では、オーナーがこの中間マイルストーンLDを定めることに拘ってきた場合、コントラクターとしては、どのような反論が考えられるでしょうか。
この点、「中間マイルストーンに遅れたら、一旦中間マイルストーンLDを支払うのはよいが、最終的に納期に間に合った場合には、それをコントラクターに返還することにする」という方法もあるかと思います。
オーナーとしては、納期に間に合えば、中間で遅れても損害は生じていないと思われるためです。
また、最後に間に合えば返してもらえるほうが、コントラクターも頑張って途中の遅れを挽回しようと思うはずです。
しかし、これに対しては、オーナーは、このように主張するかもしれません。
「途中で工程に遅れた場合、オーナー側の義務の履行(例えば、コントラクターから提出される図書類のレビューやコメントをすること、または、試験の立ち合い)のための人員の確保やスケジュール調整のために、追加で費用がかかる。これがオーナーの損害と考えられる。中間マイルストーンLDはこれを補填するために必要だ」
こういわれると、これはこれでありえるような気がします。
しかし、上記のような損害は、中間マイルストーンに遅れた場合にどれだけオーナーに追加費用として生じるのか事前に算定することはほぼ不可能だと思います。このようなものをLDとして定めると、実際にオーナーが被る損害よりも極端に多かったり少なくなったりする可能性が高いです。
よって、このような追加費用は、オーナーに生じる可能性は確かにあるものの、それは実際に生じたときに、オーナーが損害額を証明してコントラクターに対して請求するべきものでしょう。
この他にも、最終的に納期に間に合ったら、半額だけ中間マイルストーンを返還してもらう等、いくつか取り得る選択肢はあるかと思いますが、基本的には、中間マイルストーンはEPC契約にできる限り、定めないようにするべきだと思います。
ちなみに、FIDICシルバーブックにもENAA2010にも、中間マイルストーンLDは定められていないように思います。
もしも万が一、オーナーとの力関係から、中間マイルストーンLDを契約に定めることになり、かつ、契約を履行している最中に中間マイルストーンに遅れた場合でも、最後の納期に間に合った場合には、「現実の損害は生じていない!」ということを理由に中間マイルストーンLDの支払いを拒絶できないか、現地の法律事務所に相談してみてもよいかと思います。
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EPC/建設契約の解説書 | EPC/建設契約の解説書 | 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方 |
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Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol
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