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本郷塾で学ぶ英文契約

EPC契約における保険その①~総論~

2023/07/31
 

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保険とは何か?

EPC契約においては、通常、保険をかけますが、そもそも保険とは何でしょうか。以下に保険の定義を示します。

 

保険とは、偶然に発生する事故(保険事故)によって生じる財産上の損失に備えて、多数の者が金銭(保険料)を出し合い、その資金によって事故が発生した者に金銭(保険金)を給付するための制度。

 

簡単にいうと、「事故が偶然生じ、それによって損害が生じたら、その損害を保険会社が負担してくれるもの」です。

 

EPC契約上の義務の遂行中には、様々な事故が起こり得ます。

 

例えば、現場で建設作業をしている間にクレーンが倒れて作業員がケガをするかもしれません。この場合、ケガを直すための治療費が損害として生じます。

 

また、クレーンが倒れ、その下敷きになって建設中の機器・プラントが壊れるかもしれません。この場合、壊れた機器・プラントを修理するための費用が損害となります。

 

これらの損害について保険をかけておけば、保険会社が負担してくれます。

もちろん、保険をかけるからには保険会社に保険料を支払う必要があります。

 

つまり、保険料を支払うことで、リスクを第三者である保険会社に転嫁することができます。

 

以下ではEPC契約における保険の基礎を解説します。

 

どちらが保険をかけるべきか?

保険をかけるには保険料を保険会社に支払う必要がありますが、では、保険をかけるのはオーナーとコントラクターのどちらでしょうか。

 

この点、どちらが保険をかけなければならないかは決まっていません。つまり、コントラクターとオーナー間で協議して決めることです。この際に考慮するべきポイントの一つは、「どちらが保険をかけた方が保険料は安く済むのか」という点です。

 

保険料は、誰がかけても一律に同じというわけではありません。保険会社から見て「事故が発生しにくい」と考える当事者が保険をかける場合の方が保険料は安くなります。

 

また、もともとその保険会社をよく使っている当事者の方が、保険料が安く済む場合もあるでしょう。

 

そのため、「コントラクターとオーナーのどちらのほうが保険料を安く済ませられそうか」という点はよく比較検討するべきです。

 

ここで、保険料を安く済ませようとして、そもそも付保するべき保険をかけずに済ます、ということにならないように注意しましょう。仮に、オーナーが保険をかけることになった場合でも、「いかなるリスクがその保険でカバーされているのか?」とよく検討し、「リスクがあるのにカバーされていない」というものがあったならば、コントラクターが自らその隙間を埋めるように保険を手配するべきです。そうしないと、事故が起こってから、自分で損害を負担しなければならなくなり得ます。

 

そのためにも、まずは、「EPC案件では、どのような事故が起こり得るのか?」から理解しましょう。

 

EPC案件ではどのような事故が起こりえるのか?

EPC契約に関する保険にはどのようなものがあるのかを見ていきますが、その前に、そもそも、EPC契約において起こり得る事故にはどのようなものがあるのかという点に触れます。起こり得る事故を把握できれば、そのためにどのような保険をかける必要があるのかが見えてきます

まず、事故には大きく分けて、人身事故物損事故の2つがあります。人身事故の対象となり得るのは、以下です。

  • コントラクターの従業員(下請け業者の従業員も含む)
  • オーナーの従業員(下請け業者の従業員も含む)
  • 上記以外の第三者

 

そして、これらの者が傷害、または死亡することが人身事故に当たります。

 

次に、物損事故の対象となり得るのは以下の通りです。

  • コントラクターの建設用機材(例:クレーンなど)
  • プラント(建設中のプラント、および機器も含む)
  • オーナーの財物(例:建設するプラントに隣接する別のプラント等)
  • コントラクターの従業員の財物
  • オーナーの従業員の財物
  • 上記以外の第三者の財物

 

いつの時点から保険が必要となるか?

EPC契約が発効すると、コントラクターはまず設計作業を開始します。この段階ではまだ上記の人身事故も物損事故も発生する可能性は低いでしょう。機器を製造または調達後に建設サイトに輸送する時点から事故が起こる可能性が高まります。つまり、海上輸送時です。

 

次に、その機器が建設サイトに到着すると、建設作業が開始されます。建設サイトは最も事故が起こりやすい場所と言えます。

 

よって、EPC契約においては海上輸送中、および建設中に保険が必要になります。

 

では、上記を踏まえて、具体的に必要となる保険を見ていきましょう。

 

EPC契約における保険の種類

(1)貨物海上保険(Marine Cargo insurance)

プラント建設用資材・機械類の海上輸送中の事故によって生じた損害がカバーされます。人身事故は対象とはならず、物損事故のみが対象となります。

 

(2)工事保険(All Risk Insurance)

プラント建設用資材・機械類が建設サイトに搬入された時点から、プラントの検収の間に生じた損害をカバーします。こちらも人身事故は対象とはならず、物損事故のみが対象です。

 

プラント建設用資材・機械類が搬入される前に建設される工事現場事務所の火災等の損害もこの保険でカバーされます。なお、工事保険はAll Risk Insuranceと呼ばれますが、だからといってありとあらゆるリスクが保険でカバーされるわけではありません(詳細は次回以降の工事保険の解説で触れます)。

 

(3)操業遅延保険(Delayed Startup (Advance Loss of Profit))

上記(1)または(2)に該当する物損事故が起きたことでコントラクターの工程が遅れてしまい、その結果納期遅延が生じた場合にオーナーが被る逸失利益等の損害をカバーします。

 

この保険は、コントラクターによる契約違反によって納期に遅れた場合ではなく、あくまで上記(1)または(2)に示した物損事故が原因で納期に遅れた場合に保険金が支払われます。もっとも、逸失利益をカバーするこの保険の保険料は、その他の保険と比べて割高です。

 

(4)第三者賠償保険(Third Party Insurance)

プラント建設工事の遂行に起因して、工事関係者以外の第三者に生じた人身事故または財物の損壊をカバーするものです。プラントやそれを構成する機器の損壊はこの保険ではなく、上記(2)の工事保険がカバーします。

 

(5)労災保険(Worker’s Insurance)

工事に従事する従業員の、業務上における労災をカバーするものです。

 

(6)使用者賠償責任保険(Employer’s Liability Insurance)

上記の労災保険には上限があります。それを超えた損害が被害者に生じた場合には、事故を起こした従業員が属する企業に対して賠償請求がなされます。この労災保険でのカバーを超える分の賠償責任額をカバーするのが使用者賠償責任保険です。

 

(7)自動車保険(Automobile Insurance)

自動車運行に関するリスクをカバーするものです。

 

EPC契約のポイントの目次

Scope of Work ボンドのon demand性を緩和する方法 プラントの検収条件と効果
サイトに関する情報 コントラクターによる仕事の開始時期(納期の起算点)は? 危険の移転時期とその例外
オーナーの義務 仕事の遂行 債務不履行
契約金額の定め方と追加費用の扱い 設計(design)の条文について① 納期延長の場合のコントラクターの責任① 納期延長になる場合
追加費用の負担について 設計(design)の条文について② 納期延長の場合のコントラクターの責任② LD/リキダメ
ボンドについて 仕様変更① 仕様変更とは? 納期延長の場合のコントラクターの責任③ 納期LDの上限
入札保証ボンド 仕様変更② クレーム手続きと仕様書に書かれていない事項 納期延長の場合のコントラクターの責任④ sole and exclusive remedy
前払金返還保証ボンド 仕様変更③ 納期延長と追加費用の金額が合意に至らない場合の扱い 納期延長の場合のコントラクターの責任⑤ 中間マイルストーンLD
履行保証ボンド プラントの試験① 性能未達の場合のコントラクターの責任① 性能保証と性能確認試験
瑕疵担保保証ボンド プラントの試験② 性能未達の場合のコントラクターの責任② 最低性能保証・性能LD
責任制限条項① Limitation of Liability/LOL 不可抗力の扱い③ Force Majeureの効果を得るための手続き 私がEPC契約で真っ先に確認する点③
責任制限条項② 適用される場合と適用されない場合 不可抗力の扱い④ Force Majeureが長期間継続した場合 LOIの何がリスクなのか?
瑕疵担保責任① 総論 法令変更について LOIへの対処法(対外的)
瑕疵担保責任② オーナーの通知義務とコントラクターのアクセス権 契約解除① なぜ解除の理由によって解除の効果が異なるのか? LOIへの対処法(社内的)
瑕疵担保責任③ 保証期間の延長 契約解除② オーナーの義務違反に基づくコントラクターによる契約解除 EPC契約における支払い条件
瑕疵担保責任④ Disclaim(免責)条項 契約解除③ オーナーの自己都合解除
作業中断権① 中断権の存在意義 契約解除④ コントラクターの債務不履行に基づくオーナーによる契約解除
作業中断権② 中断権行使の効果 契約解除⑤ 不可抗力事由が長期間継続した場合
不可抗力の扱い① Force Majeureとは何か? 私がEPC契約で真っ先に確認する点①
不可抗力の扱い② Force Majeureの効果 私がEPC契約で真っ先に確認する点②

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EPC/建設契約の解説書 EPC/建設契約の解説書 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 英国におけるDelay Analysisに関する指針
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol

2nd edition February 2017

 

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英文契約・契約英語の社内研修をオンラインで提供しています。本郷塾の代表本郷貴裕です。 これまで、英文契約に関する参考書を6冊出版しております。 専門は海外建設契約・EPC契約です。 英文契約の社内研修をご希望の方は、お問合せからご連絡ください。
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