EPCにおけるコントラクターによる仕事の開始時期
仕事の開始時期(納期の起算点)
「コントラクターによる仕事の開始時期」は、「EPC契約締結日」でしょ?
こう思われる方もいらっしゃると思います。
しかし、必ずそうでなければならないわけではありません。
というよりも、そうしてはいけない場合があります。
それは、特に次のような場合です。
1. オーナーが、コントラクターに対価として支払うべき金額を用意できていない場合
2. オーナーが、サイトにプラントを建設するために必要になる現地の許認可・サイトへのアクセス権を取得できていない場合
以下、2つの場合について説明します。
1(資金調達)の場合について
EPC契約は、莫大な契約金額になることが多いです。
数十億円どころか、数百億円、さらには数千億円になることもあります。
そのようなEPC契約においては、オーナーがコントラクターに対して支払う対価を銀行等から融資を受ける必要があることが多いでしょう。
これをオーナーの資金調達といいます。
この資金調達が適切になされていない段階でコントラクターが作業を開始してしまうと、次のようなリスクがあります。
オーナーが、資金調達を適切にすることができないために、その案件を継続できなくなった場合に、コントラクターがそれまでにした仕事の対価を得られなくなるリスク
この場合、コントラクターとしては、オーナーを訴えてでもそれまでの対価を支払ってもらいたいところです。
しかし、もしもそれまでの間にコントラクターが大分仕事をしてしまっている場合には、オーナーがもっている資産だけではすべてをカバーすることができないおそれもあります。
この場合、コントラクターは、対価をとりっぱぐれてしまうリスクもあるわけです。
これは絶対に避けたい事態ですよね。
そこで、本来は、オーナーが資金調達に成功したこと、つまり、オーナーと銀行間で融資契約が締結された後でEPC契約を締結するのが望ましいと言えます。お金を用意できないオーナーとは契約を締結しないということです。
仮に、資金調達のための融資契約をオーナーと銀行間で締結する前に、オーナーとコントラクター間でEPC契約を締結する場合には、コントラクターが作業を開始するのは(つまり、納期の起算点は)、その融資契約締結後、というように条件を付けておくべきです。そうしないと、コントラクターは、対価を支払ってもらえるという確証がないままに仕事をすすめなければならなくなってしまいます。これは大きなリスクです。
2(プラント建設の許認可取得・サイトへのアクセス権)について
EPC契約においては、確実に現地での工事作業が発生します。
そのために、現地における許認可・サイトへのアクセス権が必要になるはずです。
それらは、オーナーが取得するのが原則です。
この許認可・アクセス権を取得できない限りは、コントラクターは現地での作業を開始できません。開始したら、法律や規制に違反することになります。
よって、この許認可・アクセス権の取得は、EPC契約の根幹をなします。
これも、やはり、EPC契約締結前にオーナーが取得しておくのが理想です。
しかし、仮にEPC契約を締結後にその許認可・アクセス権を取得するということになった場合にも、資金調達の場合と動揺に、その許認可。アクセス権の取得をコントラクターによる作業開始の条件にするべきです。
そうしないと、許認可・アクセス権を取れるかどうかわからないもの、つまり、プラントを建設できないことになるかもしれないにも関わらずコントラクターが作業を開始しないといけないことになりかねません。
そして、後になって、やっぱり許認可・アクセス権を取れなかった、となると、EPC契約所は、それまでにした仕事の対価をオーナーに対して請求できるにしても、おそらく、「それまでにした仕事の対価はいくらか」といった点でオーナーとの間で争いが生じると思います。なぜなら、許認可が下りないといった事態になった場合、オーナーはできるだけ自己の出費を抑えようと思うので、「そう簡単にコントラクターの主張通りに支払いをしてはいられない」と思うはずだからです。
そのため、もしかすると、コントラクターは、仲裁や裁判で争わないと、それまでにした仕事の対価を得ることが難しくなる場合もあるでしょう。
上記から、特にオーナーの資金調達と許認可・アクセス権の取得については、コントラクターの作業開始、つまり納期起算の条件とするようにEPC契約に定めておくべきです。
さらに、資金調達と許認可・アクセス権の取得については、契約締結後一定期間までに整備されることを条件とし、その期限を超えた場合には、契約金額と納期が変更されるべきことも明記しておくべきです。
これは、EPC契約締結時の契約金額と工程は、あくまで、「この時期までにコントラクターが作業を開始することができた場合にはこうなるよ」というものであるはずです。
もしも、オーナーの資金調達や許認可取得が長期間にわたって遅れた場合にも、契約金額も工程も変更されないとなるのは、コントラクターにとってリスクであると思います。
このように、コントラクターの作業開始時期(納期の起算点)はとても重要なので、チェック漏れの無いように十分に注意して確認しましょう!
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EPC契約のポイントの目次
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EPC/建設契約の解説書 | EPC/建設契約の解説書 | 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方 |
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 | 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 | 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。 |
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 | 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 | 英国におけるDelay Analysisに関する指針 |
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 | 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 | 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。 |
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol
2nd edition February 2017 |