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本郷塾で学ぶ英文契約

EPCにおけるコントラクターによる仕事の開始時期

2024/01/04
 

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仕事の開始時期(納期の起算点)

 

「コントラクターによる仕事の開始時期」は、「EPC契約締結日」でしょ?

 

こう思われる方もいらっしゃると思います。

 

しかし、必ずそうでなければならないわけではありません。

 

というよりも、そうしてはいけない場合があります。

 

それは、特に次のような場合です。

 

1. オーナーが、コントラクターに対価として支払うべき金額を用意できていない場合

 

2. オーナーが、サイトにプラントを建設するために必要になる現地の許認可・サイトへのアクセス権を取得できていない場合

 

以下、2つの場合について説明します。

 

 

1(資金調達)の場合について

 

EPC契約は、莫大な契約金額になることが多いです。

 

数十億円どころか、数百億円、さらには数千億円になることもあります。

 

そのようなEPC契約においては、オーナーがコントラクターに対して支払う対価を銀行等から融資を受ける必要があることが多いでしょう。

 

これをオーナーの資金調達といいます。

 

この資金調達が適切になされていない段階でコントラクターが作業を開始してしまうと、次のようなリスクがあります。

 

オーナーが、資金調達を適切にすることができないために、その案件を継続できなくなった場合に、コントラクターがそれまでにした仕事の対価を得られなくなるリスク

 

この場合、コントラクターとしては、オーナーを訴えてでもそれまでの対価を支払ってもらいたいところです。

 

しかし、もしもそれまでの間にコントラクターが大分仕事をしてしまっている場合には、オーナーがもっている資産だけではすべてをカバーすることができないおそれもあります。

 

この場合、コントラクターは、対価をとりっぱぐれてしまうリスクもあるわけです。

 

これは絶対に避けたい事態ですよね。

 

そこで、本来は、オーナーが資金調達に成功したこと、つまり、オーナーと銀行間で融資契約が締結された後でEPC契約を締結するのが望ましいと言えます。お金を用意できないオーナーとは契約を締結しないということです。

 

仮に、資金調達のための融資契約をオーナーと銀行間で締結する前に、オーナーとコントラクター間でEPC契約を締結する場合には、コントラクターが作業を開始するのは(つまり、納期の起算点は)、その融資契約締結後、というように条件を付けておくべきです。そうしないと、コントラクターは、対価を支払ってもらえるという確証がないままに仕事をすすめなければならなくなってしまいます。これは大きなリスクです。

 

 

2(プラント建設の許認可取得・サイトへのアクセス権)について

 

EPC契約においては、確実に現地での工事作業が発生します。

 

そのために、現地における許認可・サイトへのアクセス権が必要になるはずです。

 

それらは、オーナーが取得するのが原則です。

 

この許認可・アクセス権を取得できない限りは、コントラクターは現地での作業を開始できません。開始したら、法律や規制に違反することになります。

 

よって、この許認可・アクセス権の取得は、EPC契約の根幹をなします。

 

これも、やはり、EPC契約締結前にオーナーが取得しておくのが理想です。

 

しかし、仮にEPC契約を締結後にその許認可・アクセス権を取得するということになった場合にも、資金調達の場合と動揺に、その許認可。アクセス権の取得をコントラクターによる作業開始の条件にするべきです。

 

そうしないと、許認可・アクセス権を取れるかどうかわからないもの、つまり、プラントを建設できないことになるかもしれないにも関わらずコントラクターが作業を開始しないといけないことになりかねません。

 

そして、後になって、やっぱり許認可・アクセス権を取れなかった、となると、EPC契約所は、それまでにした仕事の対価をオーナーに対して請求できるにしても、おそらく、「それまでにした仕事の対価はいくらか」といった点でオーナーとの間で争いが生じると思います。なぜなら、許認可が下りないといった事態になった場合、オーナーはできるだけ自己の出費を抑えようと思うので、「そう簡単にコントラクターの主張通りに支払いをしてはいられない」と思うはずだからです。

 

そのため、もしかすると、コントラクターは、仲裁や裁判で争わないと、それまでにした仕事の対価を得ることが難しくなる場合もあるでしょう。

 

 

上記から、特にオーナーの資金調達と許認可・アクセス権の取得については、コントラクターの作業開始、つまり納期起算の条件とするようにEPC契約に定めておくべきです。

 

さらに、資金調達と許認可・アクセス権の取得については、契約締結後一定期間までに整備されることを条件とし、その期限を超えた場合には、契約金額と納期が変更されるべきことも明記しておくべきです。

 

これは、EPC契約締結時の契約金額と工程は、あくまで、「この時期までにコントラクターが作業を開始することができた場合にはこうなるよ」というものであるはずです。

 

もしも、オーナーの資金調達や許認可取得が長期間にわたって遅れた場合にも、契約金額も工程も変更されないとなるのは、コントラクターにとってリスクであると思います。

 

このように、コントラクターの作業開始時期(納期の起算点)はとても重要なので、チェック漏れの無いように十分に注意して確認しましょう!

 

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EPC契約のポイントの目次

Scope of Work ボンドのon demand性を緩和する方法 プラントの検収条件と効果
サイトに関する情報 コントラクターによる仕事の開始時期(納期の起算点)は? 危険の移転時期とその例外
オーナーの義務 仕事の遂行 債務不履行
契約金額の定め方と追加費用の扱い 設計(design)の条文について① 納期延長の場合のコントラクターの責任① 納期延長になる場合
追加費用の負担について 設計(design)の条文について② 納期延長の場合のコントラクターの責任② LD/リキダメ
ボンドについて 仕様変更① 仕様変更とは? 納期延長の場合のコントラクターの責任③ 納期LDの上限
入札保証ボンド 仕様変更② クレーム手続きと仕様書に書かれていない事項 納期延長の場合のコントラクターの責任④ sole and exclusive remedy
前払金返還保証ボンド 仕様変更③ 納期延長と追加費用の金額が合意に至らない場合の扱い 納期延長の場合のコントラクターの責任⑤ 中間マイルストーンLD
履行保証ボンド プラントの試験① 性能未達の場合のコントラクターの責任① 性能保証と性能確認試験
瑕疵担保保証ボンド プラントの試験② 性能未達の場合のコントラクターの責任② 最低性能保証・性能LD
責任制限条項① Limitation of Liability/LOL 不可抗力の扱い③ Force Majeureの効果を得るための手続き 私がEPC契約で真っ先に確認する点③
責任制限条項② 適用される場合と適用されない場合 不可抗力の扱い④ Force Majeureが長期間継続した場合 LOIの何がリスクなのか?
瑕疵担保責任① 総論 法令変更について LOIへの対処法(対外的)
瑕疵担保責任② オーナーの通知義務とコントラクターのアクセス権 契約解除① なぜ解除の理由によって解除の効果が異なるのか? LOIへの対処法(社内的)
瑕疵担保責任③ 保証期間の延長 契約解除② オーナーの義務違反に基づくコントラクターによる契約解除 EPC契約における支払い条件
瑕疵担保責任④ Disclaim(免責)条項 契約解除③ オーナーの自己都合解除
作業中断権① 中断権の存在意義 契約解除④ コントラクターの債務不履行に基づくオーナーによる契約解除
作業中断権② 中断権行使の効果 契約解除⑤ 不可抗力事由が長期間継続した場合
不可抗力の扱い① Force Majeureとは何か? 私がEPC契約で真っ先に確認する点①
不可抗力の扱い② Force Majeureの効果 私がEPC契約で真っ先に確認する点②

 

【私が勉強した原書(英語)の解説書】

残念ながら、EPC/建設契約についての日本語のよい解説書は出版されておりません。本当に勉強しようと思ったら、原書に頼るしかないのが現状です。

原書で勉強するのは大変だと思われるかもしれませんが、契約に関する知識だけでなく、英語の勉強にもなりますし、また、留学しなくても、英米法系の契約の考え方も自然と身につくという利点がありますので、取り組んでみる価値はあると思います。

EPC/建設契約の解説書 EPC/建設契約の解説書 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 英国におけるDelay Analysisに関する指針
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol

2nd edition February 2017

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