納期LD 英米法の「懲罰的損害賠償の禁止」の原則との関係で定められることがある条文の意味・効果・対処法は?

      2017/06/18

 

1. LDに関する条文と一緒に定められてることがあるこの条文は何?

 

EPC契約のLDについて定めた条文の中で、以下のような条文を見たことがありますでしょうか?やや長めですが、ちょっと読んでみてください。

 

The parties agree that the Owner’s actual damages in the event of a failure to achieve Provisional Acceptance by the Deadline for Provisional Acceptance would be extremely difficult or impracticable to determine.

After negotiation in good faith, and in light of other considerations provided by the Supplier to the Owner pursuant to this Contract, the parties agree that the Delay Liquidated Damages are fair and reasonable compensation of the damages likely to be sustained by the Owner as a result of the Supplier’s failure to achieve Provisional Acceptance by the Deadline for Provisional Acceptance.

 

2. 意味は?

 

これまで、このような条文が定められているのを見たことが私は、数回あります。

 

それは、EPC契約の中でも、特に規模が大きな案件であることが多かったように思います。

 

上記の条文の大意は概ね以下の通りです。

 

「納期遅延の場合の実際の損害額を算定するのはものすごく難しいです。

この契約に定められている納期LDは、契約当事者間でしっかりと議論した結果です。

そして、納期LDの額は、供給者(コントラクター)が納期に遅れることによってオーナーが実際に被りそうな公平かつ合理的な損害額です。」

 

いかがでしょう?

 

これは、一体何のために定められている条文なのでしょうか?

 

3. なぜこんな条文が定められているのか?

 

実は、この条文が定められている理由は、英米法のある重要な原則と関係があります。

 

それは、「懲罰的損害賠償の禁止」という原則です。

 

「え?英米法って、懲罰的損害賠償はOKでしょ?」

 

こう思われた方も多いかと思います。

 

確かに、米国では、「ある企業が裁判で多額の懲罰的損害賠償を課せられた」ということがニュースになることがありますよね。

 

しかしこれは、不法行為に対する懲罰的損害賠償が認められているに過ぎないのです。

 

つまり、契約上の合意として懲罰的損害賠償を定めること」は、英米法の下でも禁止されているのです。

 

ここで、LDを契約に定めた場合、その金額が不当に高すぎると、「契約上の合意として懲罰的損害賠償を定めたものだ」と判断されてしまう可能性があります。

 

もしも実際にそう判断されると、それは無効とされてしまいます。

 

これを避けるために考え出されたのが、上記の条文です。

 

「このLDは、当事者間でちゃんと協議して合意したもので、しかもそれは、実際に生じる損害額です」と定めておくことで、裁判所等に、「お、そうなのか。このLDは特段高額過ぎるというわけでもないのだな。つまり、懲罰的損害賠償ではないのだな」と思ってもらいやすくするという狙いがあります。

 

そして、EPC契約の中でも特に規模の大きな案件に多く定められている理由は、それだけオーナーが契約条件に拘っており、英米法に詳しい法律事務所に対して、オーナーにとって万全の契約書をドラフトすることを求めている結果だと思います。そのような法律事務所は当然、英米法の「懲罰的損害賠償の禁止」の原則を熟知しているため、念のために入れてくるのだと思います。

 

4. 効果は?

 

では、この条文があることで、LDは絶対に懲罰的損害賠償と絶対に判断されなくなるのでしょうか?

 

この点はわかりません。

 

しかし、実際に納期遅延が起こり、LDの支払いについて紛争になり、裁判なり仲裁で争われ、実際に生じたオーナーの損害が、契約に基づいて算出されたLDよりも大幅に下回っていることがわかり、かつ、契約締結当時に、コントラクター側が渋々その条文に合意したという事情があったことが判明すれば、定められていたLDは「懲罰的損害賠償である」と認められることになるのではないかと思います。

 

契約書に書いてあるからという理由だけで常に問題なし、となるのであれば、英米法の原則である「懲罰的損害賠償の禁止」というルールが実質的にはないものになってしまいかねません。

 

5. 対処法は?

 

では、この条文が定められていた場合、どのようにするのがよいのでしょうか?

 

私は、削除する必要まではないと思います。

 

というのも、実際にLDの金額は当事者間で協議の上で合意されるものであるはずだからです。

 

もしも相手が提示してきたLDの金額が不当に高いと思った場合には、LDの金額について協議すればよいのです。

 

もしも当事者間の力関係で無理やり不当に高額なLDで合意させられそうになった場合には、「上記の条文には合意できない」という抵抗をする、ということでせめて対抗するというのもあるかもしれませんが、逆に上記の条文を削除したからといって、「契約に定められているLDの金額が不当に高いものである」と認定されやすくなるわけでもないと思います。

 

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