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本郷塾で学ぶ英文契約

下請けとして機器供給をする契約の注意点(その①)

2024/01/05
 

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1. EPCコントラクターの下請けになった場合の保証期間の定め方

 

これまでこのブログの「EPC契約のポイント」では、EPCコントラクターの立場に立った場合、どのような点に気を付けるべきか、というお話をしてきました。

 

しかし、EPCコントラクターに常になるわけではなく、EPCコントラクターの下請けとして、主要機器を設計・製造・供給する、という場合もあることと思います。

 

この場合、直接の契約相手は、オーナーではなく、EPCコントラクターになります。

 

契約形態を図にすると以下のような場合です。

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このような場合でも、これまでこのブログでお話ししたポイントのほとんどは同様に当てはまります。

 

ただ、いくつか、EPCコントラクターの立場とは異なる注意が必要なものがあります

 

その一つは、「EPCコントラクターに対して供給する機器の保証期間」です。

 

今回はこれについて解説します。

 

 

2. 保証期間の定め方に潜むリスク

 

EPCコントラクターである場合、プラントの保証期間は、プラントを完成させ、試験を行い、合格して検収がなされた時点から開始されるのが通常です。

 

では、EPCコントラクターの下請けの立場になった場合、保証期間はどうするべきでしょうか?

 

この点、EPCコントラクターである場合と同様に、プラントの検収時点から保証期間が開始することでよいのではないか?と思われる方もいらっしゃるでしょうか?

 

もしもそう思われた方がいたら、それはとても危険です。

 

そのようにプラントの検収時点から下請けとしてEPCコントラクターに供給した機器の保証期間が開始されるとした場合には、大きな不都合が生じます。

 

それは、「EPCコントラクターに機器を供給後、何らかの事情でプラントの検収が行われない場合、機器についての保証期間が一向に開始されないことになる」という不都合です。

 

具体的に見てみましょう。

 

EPCコントラクターA社に対して、ある機器をその下請けであるB社が納入しました。

 

A社とB社間で締結された機器供給契約には、その機器の保証期間が、その機器を含むプラント全体が完成し、試験を受けて合格し、検収されてから開始する、という定めになっていました。そして、保証期間は24カ月とされていました。

 

B社はA社との機器供給契約に定められたスケジュール通りに機器を納入しました。

 

しかし、A社の不手際で、プラント全体の完成がスケジュール通りに行われませんでした。

 

その結果、B社がA社に機器を納入後3年経過してからようやくプラントが完成し、検収となりました。

 

ここからようやく、機器についての保証期間が開始されます。

 

すると、実質的には、B社がA社に納入した機器は、A社に引き渡してから合計5年間もの長期間保証させられるのと同じことになります。図にすると以下のようになります。

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おそらくこれは、B社の意図していたことではないでしょう。

 

B社は、A社に機器を納入後、速やかにプラントが完成され、検収を受け、そして保証期間が開始されると考えていたはずです。それが、3年間もの間保証期間が開始されないという事態になり、結局5年間も保証させられることになってしまうのです。

 

 

3. EPCコントラクターの下請けがとるべき対策

 

上記のようなことを回避するためには、どうすればよいのでしょうか?

 

一つは、EPCコントラクターであるA社とB社間の機器供給契約において、B社がA社に機器を納入時に保証期間が開始されるように定めることです。

 

これであれば、その後A社がプラント完成にどんなに時間がかかっても、B社の保証期間が延ばされることはないでしょう。

 

しかし、これにはA社も同意しない可能性が高いです

 

というのも、その機器を組み入れたプラントを運転する前に、その機器の保証期間が満了してしまうリスクがあるからです。もしも実際にそのようなことが起きると、その機器に欠陥が発見された時点ではB社とA社間では保証期間が切れており、一方、A社とオーナー間のEPC契約上は、保証期間内という事態が起きえます。この場合、A社は修理を当然B社に依頼することになると思いますが、B社はそれを有償でしか対応しない、と主張することになります。一方、A社はその修理費用をオーナーに対して請求することができません。

 

そこで、次のように保証期間を定めるのが公平でしょう。

 

「機器の保証期間は、B社がA社に機器を納入してから○カ月、または、プラントが検収された後△カ月のどちらか早い方」(ここで、○カ月>△カ月となります)

 

具体的な数字を入れて考えたほうがわかりやすいと思いますので、仮に○カ月=27カ月、△カ月=24カ月としましょう。

 

つまり、「機器の保証期間は、B社がA社に機器を納入してから27カ月、または、プラントが検収された後24カ月のどちらか早い方」とします。図にすると、下のようになります。

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このようにすれば、B社によるA社に対する機器についての保証期間は、A社に引き渡してから最大でも27カ月とすることができます。A社が仮にプラントを完成させることに想定外の事情から時間がかかってしまっても、納入後27カ月で終了します。一方、機器をA社に納入後、速やかにプラントの検収が行われた場合には、A社への納入後27カ月よりも早く、プラント検収後24カ月が経過する場合があるでしょう。その場合には、後者の24カ月で保証期間は満了となります。

 

この保証期間の定め方は、保証期間がEPCコントラクターA社の不手際で不当に長くなってしまうリスクをなくせると同時に、プラントが完成して運転が開始される前に保証期間が満了してしまうというA社にとってはなるべく避けたい事態にもある程度対応されている点で、EPCコントラクターにとっても、下請けにとっても公平な保証期間の定め方であるといえると思います。

 

EPCコントラクターの下請けになった場合には、自社が納入する機器の保証期間の定めについて、ぜひ気を付けてみてください。

 

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EPC契約のポイントの目次

Scope of Work ボンドのon demand性を緩和する方法 プラントの検収条件と効果
サイトに関する情報 コントラクターによる仕事の開始時期(納期の起算点)は? 危険の移転時期とその例外
オーナーの義務 仕事の遂行 債務不履行
契約金額の定め方と追加費用の扱い 設計(design)の条文について① 納期延長の場合のコントラクターの責任① 納期延長になる場合
追加費用の負担について 設計(design)の条文について② 納期延長の場合のコントラクターの責任② LD/リキダメ
ボンドについて 仕様変更① 仕様変更とは? 納期延長の場合のコントラクターの責任③ 納期LDの上限
入札保証ボンド 仕様変更② クレーム手続きと仕様書に書かれていない事項 納期延長の場合のコントラクターの責任④ sole and exclusive remedy
前払金返還保証ボンド 仕様変更③ 納期延長と追加費用の金額が合意に至らない場合の扱い 納期延長の場合のコントラクターの責任⑤ 中間マイルストーンLD
履行保証ボンド プラントの試験① 性能未達の場合のコントラクターの責任① 性能保証と性能確認試験
瑕疵担保保証ボンド プラントの試験② 性能未達の場合のコントラクターの責任② 最低性能保証・性能LD
責任制限条項① Limitation of Liability/LOL 不可抗力の扱い③ Force Majeureの効果を得るための手続き 私がEPC契約で真っ先に確認する点③
責任制限条項② 適用される場合と適用されない場合 不可抗力の扱い④ Force Majeureが長期間継続した場合 LOIの何がリスクなのか?
瑕疵担保責任① 総論 法令変更について LOIへの対処法(対外的)
瑕疵担保責任② オーナーの通知義務とコントラクターのアクセス権 契約解除① なぜ解除の理由によって解除の効果が異なるのか? LOIへの対処法(社内的)
瑕疵担保責任③ 保証期間の延長 契約解除② オーナーの義務違反に基づくコントラクターによる契約解除 EPC契約における支払い条件
瑕疵担保責任④ Disclaim(免責)条項 契約解除③ オーナーの自己都合解除
作業中断権① 中断権の存在意義 契約解除④ コントラクターの債務不履行に基づくオーナーによる契約解除
作業中断権② 中断権行使の効果 契約解除⑤ 不可抗力事由が長期間継続した場合
不可抗力の扱い① Force Majeureとは何か? 私がEPC契約で真っ先に確認する点①
不可抗力の扱い② Force Majeureの効果 私がEPC契約で真っ先に確認する点②

 

【私が勉強した原書(英語)の解説書】

残念ながら、EPC/建設契約についての日本語のよい解説書は出版されておりません。本当に勉強しようと思ったら、原書に頼るしかないのが現状です。

原書で勉強するのは大変だと思われるかもしれませんが、契約に関する知識だけでなく、英語の勉強にもなりますし、また、留学しなくても、英米法系の契約の考え方も自然と身につくという利点がありますので、取り組んでみる価値はあると思います。

EPC/建設契約の解説書 EPC/建設契約の解説書 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 英国におけるDelay Analysisに関する指針
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol

2nd edition February 2017

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