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本郷塾で学ぶ英文契約

プロジェクトファイナンス③

2024/01/05
 
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英文契約・契約英語の社内研修をオンラインで提供しています。本郷塾の代表本郷貴裕です。 これまで、英文契約に関する参考書を6冊出版しております。 専門は海外建設契約・EPC契約です。 英文契約の社内研修をご希望の方は、お問合せからご連絡ください。
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EPC契約の対価との関係

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ハチ
前回使用したのと同じ図を使って説明するね。

会社Bと銀行との間で、プロジェクトファイナンスのための融資契約を締結する前に、EPCメーカーC社が会社Bとの間でEPC契約を締結したとするね。

そして、その契約締結と同時にEPC契約の効力が発生し、発電所建設の納期も起算され始めるとしたら、どうなると思う?

タマ
え?どうって・・・。

EPCメーカーC社は、EPC契約に従って、発電所を建設し始めないといけません。そして、納期に間に合うようにしなければなりません。

これって当たり前ですよね・・・?

ハチ
じゃあ、もしも、EPC契約締結後、何らかの理由で、会社Bが銀行との間でプロジェクトファイナンスに関する融資契約を締結できないことになったどうする?」
タマ
融資契約が締結できなくなったら・・・?
ハチ
そう。銀行は、最初は融資に乗り気だったとする。それを聞いてEPCメーカーC社も、「銀行がそういうなら間違いないだろう」と思っていた。そしてEPC契約を会社Bと締結した。そして材料の調達や設計を開始した。

すると、ある日突然、会社Bから、「銀行が融資してくれないことになった」と知らせを受けた。

この場合、そのプロジェクトはどうなるんだろう?

タマ
会社Bが資金を得られなくなったので、他から資金を調達できない限り、プロジェクトも終わると思いますが・・・
ハチ
じゃあ、それまでにEPCメーカーC社が行った仕事の対価はどうなるの?支払ってもらえる?
タマ
EPC契約上、おそらく、会社BはEPCメーカーC社に対して支払う義務があると思います。ただ・・・
ハチ
そう。「ただ・・・」、なんだよね
タマ
会社Bには、対価を支払うだけのお金がない・・・
ハチ
そうなるよね。会社Bの親会社である企業Aは?代わりに支払ってくれる?
タマ
企業Aは、EPCコントラクターC社とは何ら契約関係にありませんから、契約上の義務は負っていないですよね。法律上も負っていません。だから、EPCメーカーC社としては、企業Aにお願いベースでしか言えないと思います
ハチ
そうだよね。これってかなり大変な事態だよ。

EPCメーカーC社がどこまで仕事をしたかにもよるけれど、発電所建設案件という契約金額が莫大な案件で数カ月間でも作業をすると、作業の費用が何億、いや、何十億になっていてもおかしくない。それが回収できなくなるというのは、大変な損失となるよね

タマ
どうすればそうなるのを防ぐことができるのでしょうか・・・
ハチ
一つの方法は、会社Bと銀行間のプロジェクトファイナンスの融資契約が成立するまでは、少なくとも、EPC契約の納期の起算が開始しないようにEPC契約上で手当てすることだよ。具体的には、EPC契約の発効条件に、融資契約が締結されて有効になることを定めるとか
タマ
なるほど。そうすれば、融資契約が有効になるまで、EPCメーカーC社は作業を開始しなくて済むので、費用も生じないですね
ハチ
もしかすると、会社Bや企業Aは、「銀行がこの案件を進めると言っているんだから、時間はかかるけれど、最終的には融資してくれる。だから、そんな条件を付けずに、EPC契約を締結後すぐに履行を開始してほしい!」と言ってくるかもしれない。

でも、ここはEPCメーカーC社としては、譲るべきではないと思うよ。

した仕事の対価を得られないかもしれないというリスクは、メーカーが負ってよいリスクではないと思うな

タマ
なるほど~。

今ふと思ったんですが、企業Aから親会社保証を得ておく、という方法はいかがでしょうか?そうすれば、仮にプロジェクトファイナンスが付かないことになっても、EPCメーカーC社は対価をもらえなくなることは防げるのではないでしょうか?

ハチ
やっぱりそう思った?

でも、多分、親会社保証を出すように企業Aに申し入れても企業Aは断ってくるんじゃないかな~

タマ
え?どうしてですか?こちらの懸念を話せばわかってもらえるような気もしますが・・・
ハチ
企業Aがプロジェクトファイナンスを選択したということは、ノンリコースの融資を望んでいるということだと思うんだ。

ノンリコースにすることで、信用格付け上マイナスの評価を受けないようにしたい、という考えもおそらくあるよね。

そんな中、EPCメーカーに対して親会社保証を出したらどうなるだろう?

それって銀行に保証を出すこと、つまり、リコースの融資を受けることと実質的に同じことになってしまうよね?

せっかくプロジェクトファイナンスを選択した企業Aが、そんなことをあっさりと了解するとは思えないんだ・・・

タマ
なるほど~。

でも、プロジェクトファイナンスが付くまでの限定した期間であればどうでしょうか?

すぐに工程を開始してほしい。だけど、まだ銀行内の手続きでプロジェクトファイナンスがつかない。EPCメーカーC社はEPC契約の締結を渋っている。そんなときに、プロジェクトファイナンスの融資契約が締結されて有効になるまでの間だけ、企業Aは会社Bの支払い義務について親会社保証を出すのであれば、期間も限定されているし、信用格付けの評価への影響を最小化できるのではないでしょうか?

ハチ
その場合、もしも最終的にファイナンスがつかない、ということになった場合の扱いをどう企業AとEPCメーカーC社間で取り決めておくかが重要になるね。

でも、提案してみる価値はあるかもね。EPCメーカーC社としては、対価の支払いを受けられない事態に陥るリスクだけはゼロにしてきたいと考えていることが企業Aに十分伝わると思うし

タマ
対価を得られることを確保することは、そのくらい重要なことだということですね・・・
ハチ
対価を得るために仕事をしているわけだからね。ここは最低限の条件だと思うな~。

 

納期LDとの関係

ハチ
では、次はEPC契約における納期LDとプロジェクトファイナンスの関係について話をするよ
タマ
この2つは何も関係がなさそうな気がするのですが・・・?
ハチ
そう思うでしょ?でも関係あるんだよ。

まず、納期LDが何は知ってる?

タマ
はい。納期に遅れた場合の損害賠償額の予定のことですよね?つまり、納期に遅れた場合に遅れた当事者がいくらを賠償するのか予め契約当事者間で合意したものを指します。

損害賠償額の予定を英語ではliquidated damagesというので、この頭文字をとって、LDと言います

ハチ
大正解です!完璧だね。

では、EPCメーカーC社が納期に遅れた場合の納期LDは何を基準に決めておくべきだと思う?

タマ
え?それは、過去の同種の案件との比較とかでしょうか?
ハチ
それも一つの方法だね。でも、そもそも、EPCメーカーC社が納期に遅れると、会社Bには、現実にはどんな損害が生じると思う?
タマ
現実にですか?遅れたら・・・。う~ん、発電所の運転開始がそれだけ遅れるということだから・・・
ハチ
そうそう。運転開始が遅れると、それにつれて遅れてしまうものがあるよね?
タマ
電気を売るのが遅れる・・・
ハチ
そう!発電所が完成しない限り、運転なんてできない。運転ができないと、電気を作れない。電気を作れないと、電気を売ることができない。するとさらに何が遅れる?
タマ
電気を売って得たお金でプロジェクトファイナンスによって受けた融資の返済をすることになっているのだから・・・、返済ですか?遅れるのは返済ですよね!?
ハチ
その通り!では、返済が遅れるとどうなる?
タマ
遅延利息が生じます!ということは、納期が遅れることで、会社Bは銀行への返済が遅れて遅延利息を銀行に支払わなければならなくなりますね。これが納期遅延LDを決める基準になるんですね!
ハチ
そう。この建設期間中に生じる利息=建中利息=interest during constructionで、「IDC」ということもあるから覚えておいてね。

この建中利息の金額と比較した時に、オーナーから渡されたEPC契約のドラフト中の納期LDがあまりに高い金額で設定されていたら、EPCメーカーC社としては、「実際に生じ得る損害よりも高い」と言って、もっと下げるように交渉するべきだよ

タマ
なるほど~。納得できました!

 

それにしても、すごい仕組みですね。どこのどなたが最初に考えたのかわかりませんが、担保や保証が大してなくても、銀行として多額の資金を長期間融資できるような仕組みってすごいです。ちゃんと銀行が自分のリスクをとれるレベルの案件を対象とすることで対応でき、そして高い利息を得る。それでいて借主側もメリットを感じることができるなんて・・・

ハチ
リスクと利益のバランスのとり方とか、プロジェクトファイナンスに関わることがない人にとっても、こういう物の考え方それ自体が勉強になるよね。

プロジェクトファイナンスに興味を持てたなら、書店で専門書を買って読んでみるといいよ。発電所建設案件以外のどういった案件にプロジェクトファイナンスが使われているのか、その理由は何か、特徴は何か、注意点は何か、といった点を勉強すると、より理解が深まると思うよ

タマ
はい!読んでみます!ありがとうございました!!

 

EPCコントラクターから見たプロジェクトファイナンス

企業による資金調達の方法にはどんなものがあるのか?

発電所建設事例

 

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EPC契約のポイントの目次

Scope of Work ボンドのon demand性を緩和する方法 プラントの検収条件と効果
サイトに関する情報 コントラクターによる仕事の開始時期(納期の起算点)は? 危険の移転時期とその例外
オーナーの義務 仕事の遂行 債務不履行
契約金額の定め方と追加費用の扱い 設計(design)の条文について① 納期延長の場合のコントラクターの責任① 納期延長になる場合
追加費用の負担について 設計(design)の条文について② 納期延長の場合のコントラクターの責任② LD/リキダメ
ボンドについて 仕様変更① 仕様変更とは? 納期延長の場合のコントラクターの責任③ 納期LDの上限
入札保証ボンド 仕様変更② クレーム手続きと仕様書に書かれていない事項 納期延長の場合のコントラクターの責任④ sole and exclusive remedy
前払金返還保証ボンド 仕様変更③ 納期延長と追加費用の金額が合意に至らない場合の扱い 納期延長の場合のコントラクターの責任⑤ 中間マイルストーンLD
履行保証ボンド プラントの試験① 性能未達の場合のコントラクターの責任① 性能保証と性能確認試験
瑕疵担保保証ボンド プラントの試験② 性能未達の場合のコントラクターの責任② 最低性能保証・性能LD
責任制限条項① Limitation of Liability/LOL 不可抗力の扱い③ Force Majeureの効果を得るための手続き 私がEPC契約で真っ先に確認する点③
責任制限条項② 適用される場合と適用されない場合 不可抗力の扱い④ Force Majeureが長期間継続した場合 LOIの何がリスクなのか?
瑕疵担保責任① 総論 法令変更について LOIへの対処法(対外的)
瑕疵担保責任② オーナーの通知義務とコントラクターのアクセス権 契約解除① なぜ解除の理由によって解除の効果が異なるのか? LOIへの対処法(社内的)
瑕疵担保責任③ 保証期間の延長 契約解除② オーナーの義務違反に基づくコントラクターによる契約解除 EPC契約における支払い条件
瑕疵担保責任④ Disclaim(免責)条項 契約解除③ オーナーの自己都合解除
作業中断権① 中断権の存在意義 契約解除④ コントラクターの債務不履行に基づくオーナーによる契約解除
作業中断権② 中断権行使の効果 契約解除⑤ 不可抗力事由が長期間継続した場合
不可抗力の扱い① Force Majeureとは何か? 私がEPC契約で真っ先に確認する点①
不可抗力の扱い② Force Majeureの効果 私がEPC契約で真っ先に確認する点②

 

【私が勉強した原書(英語)の解説書】

残念ながら、EPC/建設契約についての日本語のよい解説書は出版されておりません。本当に勉強しようと思ったら、原書に頼るしかないのが現状です。

原書で勉強するのは大変だと思われるかもしれませんが、契約に関する知識だけでなく、英語の勉強にもなりますし、また、留学しなくても、英米法系の契約の考え方も自然と身につくという利点がありますので、取り組んでみる価値はあると思います。

EPC/建設契約の解説書 EPC/建設契約の解説書 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 英国におけるDelay Analysisに関する指針
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol

2nd edition February 2017

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