EPCを読む際の3つの視点
EPC契約は膨大な量です。
そのため、最初の1条から漫然と読んでいたのでは、とても適切にチェックすることはできません。
EPC契約を読んで理解するために必要になるのは、「EPC案件の成功とは何か?」という視点から考えることです。
契約書は、案件を成功させるためにあります。
では、コントラクターにとってのEPC案件の成功とは何でしょうか?
それは・・・
「利益を出すこと」です。
具体的には、契約締結当時において想定していた利益を出すことです。
というのも、企業は利益追求集団ですから、1つ1つの案件においても、当然利益を生み出す形で完成させる必要があるからです。
では、どういう契約になっていれば、利益を出せるのでしょうか?
それは、まず、①契約金額全額を適切にオーナーから支払ってもらうことです。
契約金額が支払われなければ、そもそも利益など出ようはずがありません。よって、これは大前提です。もしも支払いを渋ったり、拒んだりされた場合に、コントラクターは適切な対抗措置をオーナーに対してとれるようにしておく必要があります。また、そのような条文を定めるだけではなく、その条文を実際に運用しなければなりません。
では、無事に対価が支払われたとして、利益を残すために重要となるのは何か?
それは、②コントラクターの損害賠償責任が不当に過大なものにならないようにすることです。
もちろん、契約違反の場合には、コントラクターは損害をオーナーに賠償する必要があります。しかし、この損害賠償があまりに大きすぎると、コントラクターは利益を残せないことになります。利益を吐き出すことになります。
そこで、コントラクターの損害賠償責任を適切な範囲に制限する必要があります。
さらに、建設期間は年単位になることも多々あり、その間、想定外の事象やオーナーのせいで工程に遅れが生じたり、追加費用が生じることがあります。
このようなとき、コントラクターはどうするべきか?
それは、③納期を延長してもらい、追加費用をオーナーに負担してもらう必要があります。
これをしてもらえないと、納期遅延の責任をコントラクターが負う、つまり、納期遅延LDを負担しなければならなくなります。また、追加費用もコントラクターが負うことになります。
そうなると、利益を残せなくなりますよね。
以上から、コントラクターが利益を残せる形でEPC案件を完了させるためには
①対価を適切に支払ってもらうための手当
②不当に過大な責任を負わないようにする手当
③コントラクターのせいでない理由で工程に遅れたり追加費用が生じたりした場合に、オーナーに納期を延長してもらう、そして追加費用を負担してもらうための手当
という3つの観点からの契約上の手当が必要となります。
つまり、「お金の入りを確実にし、お金の出ていくのを抑える。」
そういう契約にするのです。
そして、この視点から、EPC契約書をチェックするのです。
単に1条1条、「これは公平かな?不利かな?」と見ていくのではなく、上記の視点で、「EPC契約は、こうなっていなければならない」というものを自分の頭の中に構築し、それと目の前の契約条文を比較していくのです。
そうして初めて、適切な契約になっているのか否かを漏れなく体系的にチェックできるようになります。
拙著『英文EPC契約の実務』では、上記の3つの視点毎に、関連する条文を整理して解説しております。そのため、ずっと理解しやすいつくりになっています。
ぜひ、この3つの視点でEPC契約書を読んでいくスタイルを本書で身に着けていただければと思います。
EPC契約のポイントの目次
『英文EPC契約の実務』は、お陰様で出版から4度の増刷となっております。
この本は、
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【私が勉強した原書(英語)の解説書】
残念ながら、EPC/建設契約についての日本語のよい解説書は出版されておりません。本当に勉強しようと思ったら、原書に頼るしかないのが現状です。
原書で勉強するのは大変だと思われるかもしれませんが、契約に関する知識だけでなく、英語の勉強にもなりますし、また、留学しなくても、英米法系の契約の考え方も自然と身につくという利点がありますので、取り組んでみる価値はあると思います。
EPC/建設契約の解説書 | EPC/建設契約の解説書 | 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方 |
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 | 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 | 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。 |
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 | 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 | 英国におけるDelay Analysisに関する指針 |
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 | 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 | 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。 |
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol
2nd edition February 2017 |