海外インフラ系の事業の英文の契約書における頻出用語
今回は、海外のインフラ系の事業における英文契約書の中でよく使われる用語についてまとめてみました。
会社に入った当時、私は以下の用語をほとんど知らず、そしてしっかりとした説明がなされているwebや参考書を探し当てることができず、非常に苦労しました。
頭上を飛び交う言葉の意味が分からず、議論についていけないこともよくありました。
そこで、特によく使われる用語についてまとめました。
より詳しい解説を読みたい方のために、各用語の下のところに、このブログ内のリンクを貼っておきましたので、興味があればご覧ください(特に海外のEPC契約の観点からの記事です)。
1. ボンド(Bond)
(1) ボンドとは
- 受注者が自分の契約上の義務の履行を保証するために、発注者の求めに応じて発注者に対して提出する保証状。実際には、ボンドは、受注社が銀行に対してその発行を依頼し、ボンド発行のための手数料を当該銀行に対して支払うことで銀行から発注者に対して発行される。
- 受注者が契約上の義務に違反した場合には、発注者は銀行から発行されたボンドを銀行に対して示し、「受注者が契約上の義務に違反したので、このボンドに基づき、○円を支払え」という通知を出せば、その銀行は、本当に受注者に契約違反があったのか否かを確認せずに、発注者に対して求められた金額を支払わなければならない。このように、発注者から求められたらすぐに銀行が支払わなければならないことから、ボンドは「on demand bond」とも呼ばれる。
- 発注者は、このボンドを持っていれば、受注者が契約違反をした場合に、直ちに損害分の金額をこのボンドを使って銀行から回収することができる。
- ボンドは、客先を守るためのものである。受注者としては、「人質を取られている」と言っても過言ではない。海外におけるプラント建設契約では、ほぼすべての発注者がこのボンドの発行を受注者に対して求めてくる。これはほぼ慣習と言ってもよいくらい通常のことなので、発注者との契約交渉の中でこのボンドの提供を拒否することはまず不可能と考えてよい。
- ボンドにはいくつかの種類がある。一般的なボンドについて、次項以下に記載する。
(2) Bid Bond
- これは、入札保証状を意味する。具体的には、入札案件において、入札者が入札する際に客先から発行を求められるボンドである。
- このボンドは、入札者が、入札の結果受注したにも関わらず、契約を締結することを拒否しないことを保証するためのものである。
- 受注したにも関わらず、契約を締結しない場合には、客先は再度入札をやり直す必要がある。この場合、再入札費用という損害が客先には生じる。このボンドは、この再入札費用分の回収を確実にするために、客先から入札時に提供するように求められるものである。
- 通常、このボンドは、契約金額の10%程度を保証金額とすることが多い。
(3) AB(Advance Payment Bond)
- これは、前払金返還保証状を意味する。具体的には、契約締結後に、客先が前払金を受注者に対して支払うための条件として受注者が発行することを求められるボンドである。この前払金返還保証状を客先に対して発行しない限り、受注者は客先から前払金を支払ってもらうことができない。
- 受注者が前払金の支払いを受けたのにもかかわらず、受注者が契約上の義務を適切に履行しない場合、客先は契約を解除して一度支払った前払金を返金してもらいたいと考えるはずであるが、受注者が前払金の返還に素直に応じない場合があり得る。このような場合に備えて、客先が銀行から簡単に前払金分の金額を支払ったもらうことを保証するのが、このボンドである。
- このボンドを客先が持つことで、客先は安心して前払金を受注者に支払うことができる。一方受注者は、適切に契約上の義務を履行しないと、前払金分を銀行から強制的に客先に返金させられるので、適切に仕事を仕様しようという気持ちになる。
- このボンドが保証する金額は、前払金と同額である。
(4) PB(Performance Bond)
- これは、契約履行保証状を意味する。具体的には、受注者が適切に契約上の義務を履行しないことによって客先に生じた損害についての賠償金の支払いを保証するためのボンドである。
- 例えば、受注者が納期までに仕事を完成させることができない場合には、客先は納期遅延に対する損害賠償金を受注者に対して請求する。しかし、受注者がこの請求に素直に応じない場合があり得る。そのような場合でも、客先はこのボンドを銀行に対して提示し、「受注社が納期に間に合わなかったので、被った損害分の○円支払え」と要求すれば、銀行は直ちにこの金額を客先に支払うことになる。
- このボンドの保証金額は、通常、契約金額の15%~20%程度であることが多い。
2. LD(Liquidated Damages)
(1) LDとは
- これは、受注者の契約違反によって生じた客先に損害が生じた場合に、受注社が賠償しなければならない金額をあらかじめ約束しておくものである。
- 例えば、「受注社が納期に遅れた場合、1日の遅れについて○円受注社は客先に対して支払わなければならない」と契約書に定められる。これにより、実際に客先が被った損害がいくらであろうとも、10日遅れた場合にはこの10倍、30日遅れた場合には30倍の金額を受注者は客先に対して支払わなければならなくなる。
(2) なぜLDがあるか
- このLDという制度は、客先のために考え出された制度であると言える。通常、受注者が契約違反をした場合には、その契約違反によって客先が実際に被った損害を賠償するのが民法の原則である。そしてこの実際の損害額を客先が立証して初めて受注者が損害賠償をすることになる。しかし、例えば受注者が納期に遅れた場合に、実際にいくらの損害を客先が被ったのかを立証するのは客先にとって簡単ではない。そこで、契約上にあらかじめ「1日の遅延につき○円支払う」を定めておくことで、実際にいくらの損害が客先に生じていようとも、受注者がこの○円を支払わなければならない、とすることで、客先の立証責任の負担が軽減されることになる。
- 一見、客先のみに有利な制度のように見えるが、受注者にとっても有利な側面がある。実際に客先が被った損害が、LDよりも大きい場合であって、それを客先が立証した場合でも、受注社はLDの金額を支払えば、それ以上の金額を支払う必要はないからである。
- ただし、契約によっては、「現実に生じた損害がLDよりも大きい場合には、LDに加えて現実に生じた損害分を補うために必要な金額も受注者は支払わなければならない」と定められている場合がある。このような条文がある場合には、契約交渉の中で、この条文を削除するように客先に求めなければならない。
- 具体的なLDの種類については、以下に記載する。
(3) 納期LD
- 受注者の責めに帰すべき事由で納期に遅延した場合に受注社が客先に対して支払うように求められるLD。
- 通常、「一日の遅延に対して○円支払え」と定められている。
- この納期LDには上限が定められるのが通常で、「納期LDは契約金額の20%を上限とする」といった定めがなされることが多い。
(4) 性能LD
- 受注者の責めに帰すべき事由で、受注者が保証した性能を満たせない場合に受注者が客先に対して支払うように求められるLD。
- 通常、「性能○%の欠如に対して△円支払え」と定められている。
- この性能LDには上限が定められるのが通常で、「性能LDは契約金額の20%を上限とする」といった定めがなされることが多い。
3. LOL(Limitation of Liability)
(1) LOLとは
- これは、受注者の契約上の損害賠償責任の上限を契約に定めるものである。
- 受注者は、このLOLの金額を超える損害賠償をする必要がない。
- このLOLの金額は、いくらでなければならないという決まりはない。通常、契約金額の100%とされることが多い。
- 日本では、まだ必ずしも一般的ではない。国や地方が契約相手の場合の彼らが提示してくる契約雛形には、このLOLが定められていない場合が多い。国内の電力会社も十数年前まではこのLOLは契約に定めていなかったが、最近ではLOLを定めてくれるようになった。
- 一方、海外では一般的な概念なので、もしも相手方が提示してきた契約書にこのLOLが定められていない場合には、ぜひ定めるべき。
(2) なぜLOLというものがあるのか
- 民法の原則に従えば、受注者は、自分の故意・過失が原因で生じた受注者の損害を全て賠償する義務がある。しかし、これを貫くと、一つの案件で莫大な損害を客先が被った場合に、それを賠償するために受注者側が倒産するような事態になりかねない。そうすると、受注者は事業を存続することができなくなる。これが発展すると、リスクが大きすぎるという理由で、その事業を行う事業者がいなくなる可能性がある。そこで、受注者側の損害賠償額をある一定の金額を上限とすることにし、受注者のリスクが大きくなり過ぎないようにしようという考えが生まれた。
- 火力発電所向けの蒸気タービン・発電機の供給契約においては、LOLは契約金額の100%とされるのが通常(数百億円レベル)。
- 一方、海外の原子力発電所建設案件では、契約金額の40%以下とされることが多い。この理由は、原発建設契約は一件当たり数千億円規模になるが、受注者がこのような数千億円を賠償させられることになると、原発建設事業会社が倒産しかねず、そのようなリスクを恐れて原発建設事業を担う会社がいなくなってしまうので、せいぜい40%程度に抑えられているのではないかと推測される。
(3) LOLの例外
- 契約にLOLが定められていれば、あらゆる場面で受注者の賠償責任がLOLの金額に抑えられるわけではない点に注意が必要である。例えば、受注者が故意・重過失によって契約違反をし、その結果客先がLOLを超える損害を被った場合には、LOLは適用されず、客先が被った損害全額を賠償させられることになり得る(実際には、裁判や仲裁で争ってみないと結論はわからないが、日本やいくつかの国の判例でそのような事例がある)。この理由は、故意・重過失を犯してしまうような受注者を保護することは公平ではない、という考えに基づく。他にも、受注者が供給した機器が第三者の知的財産権を侵害していた場合に、当該第三者に対して支払う必要のある賠償額には、このLOLが適用されない。
4. Warranty
Warrantyとは
- いわゆる瑕疵担保保証のこと。よって、Warranty期間とは、保証期間を指す。
5. Change Order
Change Orderとは
- いわゆる仕様変更命令のこと。契約締結後に客先から発行される。
6. コストオーバーラン
(1) コストオーバーランとは
- いわゆるロスコンのこと。契約締結時に合意した際の契約金額を超えるだけのコストが受注者に生じてしまう状態で、案件ベースで赤字に陥っている状態。
(2) コストオーバーランの恐ろしさ
- 理論的には、このコストオーバーランは無限になり得る。上記3にLOLについて説明したが、このLOLが契約上に定められていてもコストオーバーランによって生じる費用には、LOLは適用されない。つまり、LOLが契約金額の100%とされていても、コストオーバーランによって生じる追加費用は、受注者が全額負担することになる。これは、LOLは受注者の責めに帰すべき事由によって客先が被った損害の賠償額についての定めであるが、コストオーバーランは、損害賠償の話ではなく、受注者に生じた、自己の義務を完遂するために生じる追加費用の話であり、LOLとは無関係であるためである。
7. Termination
Terminationとは
- いわゆる契約解除のこと。
8. Force Majeure
Force Majeureとは
- いわゆる不可抗力のこと
9. Governing Law
Governing Lawとは
- 準拠法のこと。契約に関する争いが契約当事者間で生じた場合に、どの国の法律に従うかについてあらかじめ契約に定められている法律。海外の客先との間の契約では、第三国を選ぶことが公平であるが、客先の立場が強い場合には、客先の国の法律を準拠法とすることを強く求められる。
10. Arbitration
(1) Arbitrationとは
- 仲裁のこと。通常、紛争が起きた場合には、当事者間でまず話し合って解決しようとする。しかし、それでも解決に至らない場合には、第三者にどちらの主張が正しいのか判断してもらう必要がある。紛争解決方法としては、裁判がよく知られているが、必ずしも裁判でなければならないわけではなく、仲裁という方法もある。
- この仲裁は、契約当事者が仲裁人(Arbitratorという)を1人または3人選出し、その仲裁人が両当事者の主張・証拠を見て、どちらが正しいのかを判断する。仲裁人は弁護士であったり、紛争になっている事業に詳しい技術者であったりする。
- 通常、仲裁は仲裁申立てから仲裁人による判断が下るまで1年半から2年ほどかかる。一般的にはこれは裁判よりも短いとされている。
11. NDA(Non-Disclosure Agreement)
NDAとは
- 秘密保持契約を意味する。第三者と何か協議をする場合には、ほぼ必ず事前に締結される契約。
- 内容は、お互いに開示した情報については、秘密にすることを義務付けるもの。
12. MOU(Memorandum of Undertaking)
(1) MOUとは
覚書を意味する。
(2) 法的拘束力の有無
- MOU中に、「このMOUは法的拘束力を持たない」と明記されていない限り、契約書と同様に法的拘束力を持つ。
- 時々、「MOUは法的拘束力を持たないもので、気軽に締結してもよい」という話を聞くことがあるが、これは誤りである。タイトルがMOUとなっていても、「このMOUは法的拘束力がない」と明記されていない限り、法的拘束力を持つ。
- 過去には、MOUというタイトルの保証状を、ある会社が、法的拘束力を持っていないと思い込み、気軽に社内決裁を経ずに発行したが、後にその法的拘束力が問題になり、裁判では法的拘束力があると判断され、保証義務を負わされたという事例もある。
13. LOI(Letter of Intent)
(1) LOIとは
- 覚書を意味する。
(2) 法的拘束力の有無
- MOUと同じく、文面上に「法的拘束力がない」と明記されていない限り、法的拘束力を持つ。
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2nd edition February 2017 |