プロジェクトファイナンス③
EPC契約の対価との関係
会社Bと銀行との間で、プロジェクトファイナンスのための融資契約を締結する前に、EPCメーカーC社が会社Bとの間でEPC契約を締結したとするね。
そして、その契約締結と同時にEPC契約の効力が発生し、発電所建設の納期も起算され始めるとしたら、どうなると思う?
EPCメーカーC社は、EPC契約に従って、発電所を建設し始めないといけません。そして、納期に間に合うようにしなければなりません。
これって当たり前ですよね・・・?
すると、ある日突然、会社Bから、「銀行が融資してくれないことになった」と知らせを受けた。
この場合、そのプロジェクトはどうなるんだろう?
EPCメーカーC社がどこまで仕事をしたかにもよるけれど、発電所建設案件という契約金額が莫大な案件で数カ月間でも作業をすると、作業の費用が何億、いや、何十億になっていてもおかしくない。それが回収できなくなるというのは、大変な損失となるよね
でも、ここはEPCメーカーC社としては、譲るべきではないと思うよ。
した仕事の対価を得られないかもしれないというリスクは、メーカーが負ってよいリスクではないと思うな
今ふと思ったんですが、企業Aから親会社保証を得ておく、という方法はいかがでしょうか?そうすれば、仮にプロジェクトファイナンスが付かないことになっても、EPCメーカーC社は対価をもらえなくなることは防げるのではないでしょうか?
でも、多分、親会社保証を出すように企業Aに申し入れても企業Aは断ってくるんじゃないかな~
ノンリコースにすることで、信用格付け上マイナスの評価を受けないようにしたい、という考えもおそらくあるよね。
そんな中、EPCメーカーに対して親会社保証を出したらどうなるだろう?
それって銀行に保証を出すこと、つまり、リコースの融資を受けることと実質的に同じことになってしまうよね?
せっかくプロジェクトファイナンスを選択した企業Aが、そんなことをあっさりと了解するとは思えないんだ・・・
でも、プロジェクトファイナンスが付くまでの限定した期間であればどうでしょうか?
すぐに工程を開始してほしい。だけど、まだ銀行内の手続きでプロジェクトファイナンスがつかない。EPCメーカーC社はEPC契約の締結を渋っている。そんなときに、プロジェクトファイナンスの融資契約が締結されて有効になるまでの間だけ、企業Aは会社Bの支払い義務について親会社保証を出すのであれば、期間も限定されているし、信用格付けの評価への影響を最小化できるのではないでしょうか?
でも、提案してみる価値はあるかもね。EPCメーカーC社としては、対価の支払いを受けられない事態に陥るリスクだけはゼロにしてきたいと考えていることが企業Aに十分伝わると思うし
納期LDとの関係
まず、納期LDが何かは知ってる?
損害賠償額の予定を英語ではliquidated damagesというので、この頭文字をとって、LDと言います
では、EPCメーカーC社が納期に遅れた場合の納期LDは何を基準に決めておくべきだと思う?
この建中利息の金額と比較した時に、オーナーから渡されたEPC契約のドラフト中の納期LDがあまりに高い金額で設定されていたら、EPCメーカーC社としては、「実際に生じ得る損害よりも高い」と言って、もっと下げるように交渉するべきだよ
それにしても、すごい仕組みですね。どこのどなたが最初に考えたのかわかりませんが、担保や保証が大してなくても、銀行として多額の資金を長期間融資できるような仕組みってすごいです。ちゃんと銀行が自分のリスクをとれるレベルの案件を対象とすることで対応でき、そして高い利息を得る。それでいて借主側もメリットを感じることができるなんて・・・
プロジェクトファイナンスに興味を持てたなら、書店で専門書を買って読んでみるといいよ。発電所建設案件以外のどういった案件にプロジェクトファイナンスが使われているのか、その理由は何か、特徴は何か、注意点は何か、といった点を勉強すると、より理解が深まると思うよ
EPCコントラクターから見たプロジェクトファイナンス
『英文EPC契約の実務』は、お陰様で出版から6度の増刷となっております。
この本は、
・重要事項についての英語の例文が多数掲載!
・難解な英文には、どこが主語でどこが動詞なのかなどがわかるように構造図がある!
・もちろん、解説もこのブログの記事よりも詳しい!
・EPCコントラクターが最も避けたい「コストオーバーランの原因と対策」について、日系企業が落ちいた事例を用いて解説!
・英文契約書の基本的な表現と型も併せて身につけることができる!
ぜひ、以下でEPC契約をマスターしましょう!
EPC契約のポイントの目次
【私が勉強した原書(英語)の解説書】
残念ながら、EPC/建設契約についての日本語のよい解説書は出版されておりません。本当に勉強しようと思ったら、原書に頼るしかないのが現状です。
原書で勉強するのは大変だと思われるかもしれませんが、契約に関する知識だけでなく、英語の勉強にもなりますし、また、留学しなくても、英米法系の契約の考え方も自然と身につくという利点がありますので、取り組んでみる価値はあると思います。
EPC/建設契約の解説書 | EPC/建設契約の解説書 | 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方 |
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 | 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 | 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。 |
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 | 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 | 英国におけるDelay Analysisに関する指針 |
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 | 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 | 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。 |
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol
2nd edition February 2017 |