EPC契約におけるクレーム手続き
今回は、仕様変更についての注意点の1つ目、「コントラクターは、オーナーの求めを仕様変更に当たると考えているのに、オーナーは仕様の範囲内の話だと考えている場合」について説明します。
次のようなことがあったとします。
EPC契約の履行中、オーナーの従業員Aから、コントラクターの従業員Bに対して、ある指示がありました。
その指示の内容は、仕様書に書かれていない事項についてのものでした。
この時のオーナーの指示の内容は、それまでコントラクターがやろうと考えていたものとは異なるものでした。
もしもオーナーの指示に従うとなると、工程も遅れるし、追加で費用が発生することは確実でした。
そこで、コントラクター側では、それは仕様変更だと思い、オーナーの従業員Aにその旨を口頭で伝えました。
するとオーナーの従業員Aは、「これは仕様変更ではない」とこれまた口頭で言いました。よって、「追加費用も支払わないし、納期延長も認めない」とのことでした。「仕様書にかいていないことはオーナーの指示に従うのが当然だ」とも言いました。
コントラクターは、仕様書に記載がないものの、自分たちが当初考えていた内容は、その業界における通常のものであり、それを採用すれば、オーナーの求めるプラントの機能と性能を満たす自信がありました。
しかし、コントラクターとしては、オーナーとこの点をいつまでも議論していると、本当に納期に間に合わなくなると思い、とりあえずオーナーの指示にしたがって作業を進め、後で納期延長と追加費用を再度要求すればいいだろう、と思い、そのようにしました。
さて、上記のコントラクターの対応は正しいでしょうか?
クレーム手続き
この場合、コントラクターは、追加費用と納期延長を得られなくなる可能性が高いです。
というのも、通常のEPC契約書には、オーナーによる指示が仕様変更にあたり、そのため、納期延長または追加費用を得られるとコントラクターが考えた場合には、一定の期間内に書面でオーナーに対してその旨を知らせることが求められていることが多いです。
上記の例では、コントラクターはオーナーの従業員Aに対して、口頭で言っただけで、書面では知らせていません。
これは、納期延長と追加費用を得るための条件を見たしていないことになります。
仕様書に書いていないこと
一方、オーナーの従業員Aの主張である「仕様書に書いていないことはオーナーの指示に従うのが当然で、それは仕様変更には当たらない」という発言は正しいでしょうか?
これは、誤りです。
仕様書に書かれていないということは、オーナーはその点について何等の要求もしていなかったということです。
となれば、あとは、プラントが仕様書に定められている機能と性能を満たすものであれば問題ないことになります。それにも関わらず、オーナーの言う通りに行うように求めた場合には、それは仕様変更に該当すると考えてよいと思います。
オーナーが「仕様変更には該当しない!」と譲らない場合には、コントラクターは無視して作業を進めてよいと思います。
対応に不安があれば、現場だけで判断して、「とりあえずオーナーに言われた通りに進めよう」とするのではなく、必要に応じて社内の法務部門に相談し、どのように対処するのがよいか、契約書の観点からアドバイスをもらうようにするべきです。
特に、国内の案件ですと、上記の様な対応をしても、最終的にはいくらかの追加費用を支払ってもらえたり、納期を延長してもらえたりするかもしれません。
しかし、「海外案件においては、そのようなことはまずない!」と考えていただいたほうがよいと思います。
まとめ
上記をまとめると、次のようになります。
・オーナーからの要求が仕様変更に当たると考えた場合には、EPC契約に従い、適切に手続きを遂行する(通常は、書面で追加費用および納期延長の要求をすることが定められています)。
・仕様書に書いていないことをオーナーが求めてきた場合には、それは仕様変更に該当すると考えてよい。そして、社内の法務部門に相談し、契約書の観点から、オーナーに対してどのように対処するべきか相談する。「オーナーに強く言われたから・・・」といって、とりあえずオーナーの言いなりになり、後で追加費用と納期延長を要求する、という後手後手の対応をとらないようにする。
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EPC/建設契約の解説書 | EPC/建設契約の解説書 | 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方 |
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納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 | 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 | 英国におけるDelay Analysisに関する指針 |
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Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol
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