EPCにおける設計(design)の条文について①
設計について
EPC契約の中には、designというタイトルの条文があります。
この条文は、図書について定めています。
図書についての定めって、具体的に何を定めているのでしょう?
以下のようなことを定めています。
1. コントラクターが作成するべき図書は何か?
2. 上記1の図書は、何に準拠して作成しなければならないか?
3. 上記1の図書の中で、オーナーの承認を得なければならないものは何か?
4. 上記1の図書の中でオーナーの承認を得なければならない図書は、どのようなプロセスを経てオーナーに承認されるのか?
5. オーナーの承認がなされた図書に後日誤りが発見された場合には、図書を修正したり、場合によっては製造をやり直したりすることになるが、その責任はオーナーとコントラクターのどちらが負うのか?
以下、説明していきたいと思います。
1. コントラクターが作成しなければならない図書について
EPC契約では、コントラクターは色々な図書を作成することを求められます。
まず、製造や建設のもとになる設計図面です。
EPC契約締結後、コントラクターはオーナーの仕様を満たす設計図面を作成します。
この図面に不備があれば、製造も建設にも不備が出るでしょう。
その意味で、この設計図面はとても重要な図書と言えます。
次に、プラントの運転・メンテナンスマニュアルがあります。
コントラクターが完成させたプラントを運転するのはオーナーです。
そのオーナーが、適切にプラントを運転・メンテナンスするための説明書・取扱書のようなものです。
それらを見ながら、オーナーは実際にプラントを運転・メンテナンスしていきます。
この他にも、コントラクターが作成しなければならない図書はあると思いますが、具体的に何を作成しなければならないかは、仕様書などの添付資料に列挙されていることが多いです。
この辺りは、特にエンジニアの方々によくチェックしてもらうことになります。
2. 図書を作成する際に準拠すべきルールは何か?
図書を作成する際には、準拠するべきルールがあります。
それは、法律や規制、そしてスタンダードと呼ばれる基準です。
機器ごとに、どこどこの強度は最低どうでなければならないか、といったことなどが法律や規制に定められている場合、それに従わなければなりません。
また、法律や規制ではないものの、オーナーが求めるスタンダート(基準)を示された場合には、コントラクターはそれにも従う義務があります。
法律や規制に従うのは、法律上の義務ですが、スタンダードに従うのは、オーナーの求めによる、つまる契約上の義務です。
ここで注意したいのは、いつの時点の法律・規制・スタンダードに従うかを契約書で明記しておくことです。
これは、契約締結以前のどこかを基準日とするべきです。
契約締結日以前のその基準日に有効である法律・規制・スタンダードに基づいて、コントラクターは見積もりをします。
その後、その法律・規制・スタンダードが変更された場合には、コントラクターの見積もりの基礎が変更されたことになります。
そこで、上記の基準日より後に法律・規制・スタンダードが変更された場合には、コントラクターはそれによって生じる追加費用や納期の延長をオーナーに認めてもらえるように契約上で手当てしておく必要があります。
3. オーナーの承認を得なければならない図書について
オーナーの承認を得なければならないものと、承認までは不要で、単に提出すればよいものがあります。
承認が必要なものは、for approvalと、承認が不要なものは、for reviewと記載されていることが一般的だと思います。
この両者は何が違うかと言いますと、for approvalとされている図書は、オーナーの承認がもらえない限り、それに基づいて製造したり、建設したりしてはいけない図書になります。
よって、オーナーからコメントが来たら、それに基づいて図書を直し、再度オーナーに提出する、というのが原則です。
この承認がなかなか得られないと、機器の製造や建設を進めることができないので、納期遅延を引き起こす要因になりえます。
その意味で、このfor approvalの図書についてスムーズにオーナーの承認を得ることは、コントラクターにとって重要になります。
4. 図書の中でオーナーの承認を得なければならない図書(for approvalの図書)は、どのようなプロセスを経てオーナーに承認されるのか?
for approvalの図書は、概ね次のようなプロセスを経ます。
まず、コントラクターが図書を作成し、それをオーナーに送付します。
オーナーは決められた期間内に検討し、承認するか、あるいは修正を要求するか決めます。
修正を要求する場合には、コメントをコントラクターに送付します。
コントラクターはそのコメントを受領後、図書を修正し、再度オーナーに送付します。
オーナーが、図書に修正がなされたことを確認したら、承認が下ります。
そして、コントラクターはその図書に関する製造を開始する、という流れです。
ここで注意したいのが、オーナーが図書を検討する期間を契約書に明記しておくことです。
図書によってその検討期間は変わるかもしれませんが、例えば、14営業日以内、といったように定めておかないと、ダラダラと検討されてしまい、それだけで工程が遅れていきかねません。
さらに、その決められた期間内にオーナーによる検討が終わらない場合には、その図書はオーナーが承認したものと「みなす」という「みなし規定」を定めるべきです。
こうすることで、オーナーによる検討の懈怠によって工程が遅れていくのを防ぐことができます。
また、オーナーがコントラクターの作成した図書に承認を与えないのは、契約書や仕様書に合致しない場合に限定するべきです。そうすることにより、オーナーの主観的な判断で図書に承認を与えない、といったことを防ぐことができます。
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EPC/建設契約の解説書 | EPC/建設契約の解説書 | 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方 |
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納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 | 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 | 英国におけるDelay Analysisに関する指針 |
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 | 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 | 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。 |
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol
2nd edition February 2017 |