LOIの何が問題なの?
LOIとは?
LOIという言葉は、海外営業や企業法務部の方であれば耳にされたことは何度かあると思います。
これは、Letter of Intentの略称です。
直訳すると、「意図の手紙」ですね。
では、何の意図を表した手紙なのでしょうか?
EPC契約において使われるLOIでは、「仕事を開始してほしい」という注文者側、つまりオーナーの意図をEPCコントラクターに対して示した手紙であることが一般的です。
LOIが問題になるのはどんな場合?
どうしてわざわざ、オーナーは「仕事を開始してほしい」なんていう内容のレターをEPCコントラクターに出すのでしょうか?仕事は、EPC契約が締結されれば、自ずとEPCコントラクターが納期に間に合うように仕事を開始するはずですよね。それなら、どうしてLOIなんて出す必要があるのでしょう・・・?
実は、LOIは、EPC契約が当事者間で締結される前に、オーナーから出されるのです。
つまり、まだEPC契約が締結されていないにも関わらず、「あなたにこの案件を任せるのはほぼ確実だから、EPC契約はまだ締結されていないけれど、もう仕事を始めてください」という内容でLOIがEPCコントラクターに出されるのです。
もちろん、仕事は、EPC契約が締結されてから開始するのが理想です。それがスマートなやり方です。
しかし、例えば、EPC契約の一部の条文について未だ両当事者で協議が続いているが、でも、もうそのEPCコントラクターに仕事を出すことはほぼ決まっている場合がありますよね。そして、オーナーとしては、納期としてある特定の期日を厳守してほしい、と考える場合があるわけです。
そういう場合には、契約書を未だ締結はできないものの、予定している納期に間に合うように、EPCコントラクターに、できる仕事をすぐに開始してもらいたい、と考える場合があるわけです。
そして、LOIを発効後、EPCコントラクターが仕事を開始し、その後数日または数週間といった比較的短期間内に、本当にEPC契約が締結されれば、特段問題はないでしょ?とオーナーは考えます。
その結果、オーナーは、「もうあなたの会社に本件を任せることはほぼ決まっているので、仕事を開始してください」という趣旨のレターをEPCコントラクターに出すのです。
これが、EPC案件でよくみられるLOIです。
LOIは悪か?
では、このLOIは、果たして悪なのでしょうか?
現実には、海外のEPC案件では、このLOIを巡る紛争が起きることがよくあるようです。
どのような場合に紛争が起きるのでしょうか?
それは、オーナーがLOIをEPCコントラクターに出し、EPCコントラクターが仕事を始めた後で、何らかの事情が生じ、オーナーが、「やっぱり、あなたの会社にこの案件を任せるの辞めた」とか、その案件自体がなくなってしまい、EPC契約が締結されなくなってしまった場合です。
この場合、どのような問題が生じるのでしょうか?
それは、「LOIに基づいて進めた仕事の対価の支払いはどうなるのか?」という問題が生じます。
まだ、正式なEPC契約が締結されていないわけです。
あるのは、オーナーから出された「もう仕事を開始してください」というLOIだけです。
対価の支払条件は、EPC契約のドラフトにはしっかりと定められていますが、それはまだ両当事者でサインがなされていない。つまり、まだ効力を有していないわけです。
この場合、その締結するはずだったEPC契約書のドラフトの記載に基づいて、対価の支払いをオーナーに請求することはできないというのが通常ですよね。
となると、LOIに基づいて行われた仕事の対価はEPCコントラクターに支払われるのか?支払われるとしても、その金額はいくらになるのか?という点で紛争になり得るわけです。
EPCコントラクターとしては、オーナーがLOIを出したということは、EPC契約を締結してくれるものだとすっかり信じ込んでしまうわけです。それなら、お客さんであるオーナーの「納期に間に合わせて欲しい!」という要望を十分に汲んで、EPC契約締結前にも関わらず、仕事を始めたわけです。
にも拘わらず、EPC契約を締結してもらえなくなるどころか、「え?対価?まだEPC契約締結してないじゃん。対価を払う法的根拠なんてないない」なんて言われたら、梯子を外された気分になりますよね。
というわけで、こうしてみると、「LOIなんて、ろくなもんじゃない!悪だ!」と思ってしまいたくなるような気もします。
では、なぜLOIなんてものがあるのか?
上記のような問題点がLOIにはあり、実際紛争に発展することもよくあるにも関わらず、それでもLOIは実務上よく使われていることでしょう。
それは、やはり、それを使わざるを得ない実情があるからです。
その実情とは、既に述べましたが、「まだEPC契約を締結できないけれど、納期は後ろ倒しにしてほしくない!」とオーナーが強く望むことがある、というものでしょう。
オーナーとしては、プラントの完成が一日遅れればプラントを稼働して利益を出せる時期も一日遅れます。完成が100日遅れれば稼働は100日遅れます。その間に一体どれだけの利益を得られるか・・・と考えると、やはり、納期はずらしたく無い。そのためには、EPC契約を締結する前であっても、作業は開始してもらわないと困るわけです。
LOIへの対処方法
上記のような、LOIに基づいて簡単に作業を開始してしまうとEPCコントラクターが大きなリスクを負うことになる一方で、オーナーとしては、ぜひとも作業をEPC契約締結前に進めてもらいたいという強い要望がある、という状況が現実にある中で、「では、実際にLOIを出されたら、どういった点に気を付ければよいのか?」という点を次回、解説したいと思います。
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EPC/建設契約の解説書 | EPC/建設契約の解説書 | 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方 |
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 | 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 | 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。 |
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 | 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 | 英国におけるDelay Analysisに関する指針 |
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 | 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 | 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。 |
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol
2nd edition February 2017 |