オーナーの自己都合解除
今回は、オーナーの自己都合解除についてご説明します。
EPC契約には、ほぼ必ずといってよいほど、この「オーナーによる自己都合解除権」がオーナーには与えられております。
これはなぜでしょうか?
EPC契約は、契約金額も莫大で、工程も他の契約と比べて長期間であるものが多いです。
そのため、契約締結後に、オーナー側の事情が変わり、「やっぱり、このプラント建設をやめたい」と考えることもありえます。
オーナーが「もういらない」と考えたプラントをそのまま作り続けて完成されても、そのプラントは不要なものになってしまいますよね。
大きな、立派な、しかし、巨大なゴミが出来上がるだけです。
完成されれば、契約に定められている通り、オーナーは契約金額をコントラクターに支払わなければなりません。
これって、社会全体から見たときに、果たして有益であると言えるでしょうか?
無駄ですよね。
オーナーが不要だと思うものを作り、その対価を支払うというのは、社会全体で見たときに、無駄なのです。
そんな無駄はなくしたほうが良い。
こういう思想でEPC契約にほぼ必ず定められているのが、オーナーの自己都合解除権なのです。
とはいえ、これは、コントラクターにとっては非常に迷惑な話です。
オーナーが「プラントを作りたい」、「ぜひ作ってほしい」、というから、莫大な費用と時間と手間をかけてプラントの完成目指していたのに、その履行中に、いきなり、
「もうプラントいらなくなったから、作業やめて」
といわれるわけです。
コントラクターとしては、それなりの賠償をしてもらう必要があります。
そのため、コントラクターは、オーナーの債務不履行に基づく契約解除の場合とほぼ同様の扱いを受けることになります。
つまり、
解除までにした仕事はオーナーに引き渡され、その対価をオーナーはコントラクターに対して支払わなければならない
解除されなければコントラクターが得られたであろう利益もオーナーはコントラクターに支払わなければならない
という扱いになります。
この点、やはり、オーナーがドラフトするEPC契約においては、オーナーによる自己都合解除の場合には、「解除されなければコントラクターが得られたであろう利益」についてコントラクターは得られない、という内容になっているものが多いです。
この点、確かに、オーナーが債務不履行に陥った場合と比べると、自己都合解除の方が、オーナーの非は小さいかもしれません。
しかし、コントラクターにとっては、プラントを完成させる気でそのプロジェクトに取り組んでいたのに、それがオーナーの勝手な都合によって途中で終わりになる、という点では同じです。
コントラクターは、このプロジェクトがあるために、他のプロジェクトを断ったかもしれません。
そう考えると、オーナーの自己都合解除の場合と同じ扱いになるように、オーナーと協議するべきだと思います。
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EPC/建設契約の解説書 | EPC/建設契約の解説書 | 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方 |
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納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 | 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 | 英国におけるDelay Analysisに関する指針 |
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Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol
2nd edition February 2017 |