EPC契約における瑕疵担保責任① 総論
今回は、瑕疵担保保証について解説いたします(※民法改正後の現在は、「契約不適合責任」と呼ばれています)。
いつの時点の問題?
「瑕疵」とは、日本の民法の下では、「当事者間で合意したものとの不一致」といった意味です。
そして、この瑕疵担保保証責任とは、納期までにプラントを納入し、無事に検収に至った後、保証期間内に発見された瑕疵をコントラクターが無償で修理・交換・損害を賠償する責任です。
ここで、検収に至る前に瑕疵がされた場合には、それがプラントの運転に影響を与えないような欠陥でない限り、そもそも検収してもらうことができません。
つまり、瑕疵担保保証は、あくまで、検収後の話です。
「瑕疵」の定義
この瑕疵担保保証に関する条文でまずチェックしたいのは、「瑕疵」とは何かが定義されているかです。
「瑕疵」のことを、英語では、「defect」と言います。このdefectという文言は、特に定義されずに契約書の中で使用されていることもあります。
しかし、単にdefectというと、具体的に何を意味するのか不明確です。
コントラクターとしては、コントラクターが責任を負うのは、あくまで、「仕様との不一致」に限定したいところです。
仕様には合致しているけど、オーナーが、「これって、普通のものと違くない?」といってきたときにまで、コントラクターとしては責任を負いたくはありませんよね。
このdefectの定義が曖昧だと、オーナーから、「ここもおかしい。あそこもおかしい。」と言われて、コントラクターが不当に責任を負わせられることにもなりかねません。
あくまで、仕様を基準にしたいです。
そこで、defectという文言は、「EPC契約の仕様に合致していないもの」というように定義するべきだと思います。このとき、「仕様」とは何かも明確にするようにしてください。
例えば、「このEPC契約書の添付資料Zに定められている仕様に合致していないもの」といった感じです。
その上で、添付資料Zに、コントラクターが納入するべきプラントの仕様を明確に定めるようにしていただければと思います。
この仕様の記載が不明確だと、defectの意味も不明確なものになってしまいます。
コントラクターが責任を負わない瑕疵の明記
さらに、EPC契約においては、「瑕疵」に該当したとしても、コントラクターが責任を負わない事項を明示するのが一般的です。
defectとは、「仕様に合致しないもの」と定義した上で、さらに、「こういったものは、瑕疵担保保証の対象ではないですよ。よって、これらについては、コントラクターは責任を負いません」ということを明記するのです。
それは、具体的には、以下のようなものです。
・通常の使用による自然摩耗(normal tear and wear)
・腐食(erosion and corrosion)
・オーナーの不適切な運転が原因となっているもの
・オーナーが使うことを指示した材料
・消耗品、または瑕疵担保保証期間内に消費されることが通常のもの
ちなみに、「摩耗」と「腐食」は、どちらも、物質同士の摩擦によって生じるものです。
しかし、摩耗は、固体同士の摩擦で起きるもので、腐食は、固体と流体間の摩擦で起きるものです。
これらは、コントラクターが責任を負わないものとして、EPC契約に明記するようにしましょう。
「瑕疵」が発見された場合のコントラクターの責任
では、瑕疵担保保証期間中に、defectが発見された場合、コントラクターはいかなる責任を負うのでしょうか?
これは、defectの修理・交換といった、defectをない状態にすることです。
また、defectが原因でプラントの他の部分に損害が生じることもあります。
その場合、defectと同様に、それもコントラクターが無償で修理・交換等をしなければなりません。
なお、EPC契約では、コントラクターが一定の期間内にdefectの修理・交換等を行わない場合には、オーナーが自分で、または第三者を使ってdefectの修理・交換等を行うことができる旨が定められていることが一般的です。
その場合、defectの修理・交換等のために生じる費用は、コントラクターが最終的に負担することになります。
こうなると、コントラクターとしては、自分が修理したほうが安く済んだ、ということにもなり得るので、当然のことですが、自分で修理・交換をするようにしましょう。
瑕疵担保責任に関心がある方はこちらもお勧めです。
瑕疵担保責任② オーナーの通知義務とコントラクターのアクセス権
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