sole and exclusive remedy
sole and exclusive remedy
このような表現を見たことがあるでしょうか?
これは、LDを定める際には、必ずセットでEPC契約に定められるべき表現です。
sole and exclusive remedyとは、「唯一の排他的な救済」という意味になります。
これがLDについて定められた場合の意味は、「LDを支払えば、それ以上、オーナーはコントラクターに対して責任を追及できません」というものになります。
以前、LDは、「その金額が実際に生じた損害額よりも少ない場合でも、裁判所ですら、LDとして定められた金額以上の損害賠償をするようにコントラクターに対して言えない」と説明しました。
しかし、これはあくまで日本の民法に従う場合です。
他の国の法律で、このLDがどのような扱いになるのかは、わかりません。
つまり、そのEPC契約が従う国の法律(「準拠法」といいます)を見ないと、その法律の下でLDがどのように扱われるのかはわからないのです。
そこで、EPC契約には、「LDを支払えば、それ以上、コントラクターは損害賠償を支払う必要はない」ということを明確にするために、「このLDは、sole and exclusive remedyだ」と定めるのです。
もしもこの定めがないと、準拠法によっては、LDも支払い、かつ、実際にオーナーが被った損害がLDよりも大きい金額だということをオーナーが証明できた場合には、コントラクターはその差額も支払わなければならないことになりかねません。
それでは、LDは、単に、オーナーの立証責任を緩和するためにしか機能しなくなるので、圧倒的にオーナーに有利な制度ということになってしまいます。そうすると、コントラクターにとっては、LDを定めるメリットがまるでなくなります。
LDを定めれば、オーナーは損害額の証明責任がなくなる一方、実際に生じた損害がLDより大きくても、コントラクターはそれ以上の賠償責任を負わない。
このような立て付けになっている場合にのみ、納期遅延のLDを定めることがコントラクターにとってメリットが生じるのです。
FIDICとENAAの記載(2016年11月16日追記)
なお、FIDICにも、ENAAにも、sole and exclusive remedyという文言そのものではないものの、同趣旨の定めがなされております。
FIDICでは8.7(Delay Damages)に、ENAA2010ではGC 26.2に定められています。
したがって、このLDがsole and exclusive remedyであることは、EPC契約には、必ず明記するようにするようにご注意ください。
オーナー側がこれに抵抗を示した場合には、ENAAやFIDIC等のモデルフォームを例に出して、「LDとは一般的にそういうものだ」という説明をするべきです。
なお、この納期LDのsole and exclusive remedyの条文とほぼセットで定められている条文があります。
それは、「納期LDを支払いは、コントラクターを本EPC契約上の義務から解放するものではない」といったような条文です。
この点、「sole and exclusive remedyであることと矛盾するのでは?」と思ってしまう方が時々いらっしゃるようです。
しかし、両者は何ら矛盾していません。というのも、この、「納期LDを支払いは、コントラクターを本EPC契約上の義務から解放するものではない」という条文が言っているのは、「コントラクターには、とにかく最後までプラントを完成させる義務が依然として残っているよ。納期LDを支払ったからといって、プラントを完成させる必要がなくなった、という意味ではないよ」ということを定めているに過ぎないからです。
これであなたもLDマスターになれる!
納期遅延の場合のコントラクターの責任④ sole and exclusive remedy
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EPC契約のポイントの目次
【私が勉強した原書(英語)の解説書】
残念ながら、EPC/建設契約についての日本語のよい解説書は出版されておりません。本当に勉強しようと思ったら、原書に頼るしかないのが現状です。
原書で勉強するのは大変だと思われるかもしれませんが、契約に関する知識だけでなく、英語の勉強にもなりますし、また、留学しなくても、英米法系の契約の考え方も自然と身につくという利点がありますので、取り組んでみる価値はあると思います。
EPC/建設契約の解説書 | EPC/建設契約の解説書 | 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方 |
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 | 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 | 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。 |
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 | 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 | 英国におけるDelay Analysisに関する指針 |
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 | 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 | 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。 |
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol
2nd edition February 2017 |