最低性能保証・性能LD
最低性能保証とは?
性能確認試験を行った結果、保証性能を満たすことができていないことが分かった場合、コントラクターはいかなる責任を負うのでしょうか。
修理や損害賠償だろうという予想はつきますよね。
今回は、この点を詳しく解説します。
まず、EPC契約によっては、保証性能に二つの段階がある場合があります。
それは、最低性能と通常の性能です。
最低性能とは、オーナーが、最低限、満たしてほしいと思っている性能です。
「これを満たせないようなプラントはいらない」というラインです。
よって、性能確認試験を行った結果、この最低性能を満たしていない場合には、コントラクターは、修理をして、最低でも、この最低性能を満たすようにしなければなりません。
もしもこの最低性能を満たせないと、場合によっては、オーナーはこのEPC契約を解除する権利が与えられるのが一般的です。
一応動くけど、性能はからっきし、というプラントを欲しくないと思うのは当然ですよね。
最低性能を満たした場合
では、この最低性能を満たしたが、通常の保証性能を満たさない場合にはどうなるのでしょうか。
その場合には、コントラクターは、修理して保証性能を満たすようにするか、または、性能保証の未達についての予定された損害賠償金額(以下、「性能LD」)を支払うかのどちらかで対応することになります。
オーナーとしては、プラントが最低限の性能をクリアしているので、そのまま引き取って使う気はあるので、あとは、修理か性能LDの支払いで終わらせてもよいというわけです。
最低性能保証と性能保証、そして性能LDの関係を図にすると、以下のようなイメージとなります。
選択権はどっちにある?
ここで重要なのは、修理か性能LDのどちらで行くかは、誰が決めるのか、という点です。
この点、オーナーは自分が選択権を持ちたいと思うでしょう。
というのは、性能LDを支払ってもらって終わりにされるよりも、修理してもらった方が長い目で見たときには採算がよい、と考えるかもしれませんし、逆に、修理を長期間されるよりは、すぐにそのプラントを使い始めることができる方がよい(性能LDの支払いで終わり)、と考えるかもしれないので、「自分で決めたい!」と思うはずです。
そしてそれは、コントラクターも同じです。
性能LDを支払うよりも、修理したほうが安く済む、と考えるかもしれませんし、その逆と考えるかもしれません。
よって、この選択権をどちらが持つかは当事者間の交渉となるでしょう。
この点、最低性能と通常の保証性能の間にもう一段階設けて、最低性能とそこまでの間の性能の場合には、コントラクターに選択権があり、それ以上の性能が出た場合には、オーナーに選択権がある(またはその逆)、という方法もあるかもしれません。図にすると以下のようなイメージです。
性能LDもsole and exclusive remedy!
いずれの場合でも、性能LDを支払うことになったら、性能未達に関する損害賠償は、その性能LDの支払いだけで終わりである旨(sole and exclusive remedy)はEPC契約書に忘れずに明記するようにしてください。
準拠法によっては、LDの性格や扱いが日本のそれとは異なる恐れがあるので、LDを支払い、かつ実際生じた損害やLDではカバーできなかった損害分を支払わせられるようなことがないように、つまり、sole and exclusive remedyとなるようにしっかり手当することが重要です。
性能LDの上限の相場
なお、この性能LDは、私がこれまで見てきたものでは、契約金額の20%~30%程度のものが多かったです。これは業界によっても異なるでしょうから、オーナーと交渉する前に、過去の例や算定根拠を調べておくと交渉がスムーズにいくと思います。
ボーナス条項について
保証していた性能を上回る性能が出るプラントを完成させた場合、オーナーは当初の計画よりも多くの利益をそのプラントの運転によって得られるようになるかもしれません。
そのような場合には、オーナーはコントラクターにいくらか追加で支払うべき!というのが、ボーナス条項です。
これがあれば、コントラクターもできるだけよい性能が出るように頑張るインセンティブになるかもしれません。
しかし、私自身はボーナス条項が入っている案件を見たことがありません。
その理由はよくわかりませんが、保証していた性能を上回ったからと言って、必ずしもオーナーがより多くの利益を得られることになるわけではなく、その具体的な金額を算出することが困難だからなのかもしれません。
ENAA2010の条文(2016年11月16日追記)
ENAA2010にも、GC 28に性能LDについての条文が結構厚く定められています。最低性能保証を満たしていない場合と満たした場合の扱い、そして性能LDについて明記されていますので、参考にしてみてはいかがでしょうか。
これであなたもLDマスターになれる!
納期遅延の場合のコントラクターの責任④ sole and exclusive remedy
EPC契約の責任関係をもっと知りたい方はこちら!
海外インフラ系の事業の英文契約書の頻出用語を知りたい方はこちら!
『英文EPC契約の実務』は、お陰様で出版から6度の増刷となっております。
この本は、
・重要事項についての英語の例文が多数掲載!
・難解な英文には、どこが主語でどこが動詞なのかなどがわかるように構造図がある!
・もちろん、解説もこのブログの記事よりも詳しい!
・EPCコントラクターが最も避けたい「コストオーバーランの原因と対策」について、日系企業が落ちいた事例を用いて解説!
・英文契約書の基本的な表現と型も併せて身につけることができる!
ぜひ、以下でEPC契約をマスターしましょう!
EPC契約のポイントの目次
【私が勉強した原書(英語)の解説書】
残念ながら、EPC/建設契約についての日本語のよい解説書は出版されておりません。本当に勉強しようと思ったら、原書に頼るしかないのが現状です。
原書で勉強するのは大変だと思われるかもしれませんが、契約に関する知識だけでなく、英語の勉強にもなりますし、また、留学しなくても、英米法系の契約の考え方も自然と身につくという利点がありますので、取り組んでみる価値はあると思います。
EPC/建設契約の解説書 | EPC/建設契約の解説書 | 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方 |
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 | 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 | 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。 |
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 | 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 | 英国におけるDelay Analysisに関する指針 |
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 | 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 | 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。 |
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol
2nd edition February 2017 |